ミーハー | ナノ



「この私の美貌にノックアウト的な!?」



「秋津、ちょっといいか?」
「あれ?帽子くん、何か用かい?」

三日目の朝。大食堂で朝食を食べていると、怜香が宍戸に呼ばれた。

「話があるんだ」
「ああ、いいよ。今丁度食べ終わった所だし」
「…怜香」

そう言って立ち上がる怜香に俺が声かけると、何を勘違いしたのか、小声で「私モテモテ」と言ってきた。

………。あいつは馬鹿だ。

そんな事を思っているうちに、宍戸と怜香は大食堂から出て行った。…まあ大丈夫だろう。あいつの特技は危機回避能力と口車だからな。

さて、ここで少し俺達の合宿の様子と、小森美佳について触れておきたい。

まず小森美佳は俺達が予想していた通りの人物だった。俺達の応援ばかりで仕事をしない、まさにいわゆるミーハーだ。どっかの誰かさんのように突拍子のない事はしないが、仕事もしないでは意味がない。
試しにドリンクを作らせてみたが、どこをどう間違えたのか、極端に薄かったり濃かったりした。…作り方を見れば作れるだろう…。
洗濯物は溜まる一方で、昨日ついにタオルが無くなり、精市がキレそうになったのは言うまでもない。…仕方ないので立海のテニスコートに午後の予定を聞きに来た怜香にやってもらったが。
…とにかく、ろくでもない奴だった。これでは跡部も大変だな…。だが今日からは大丈夫だろう。三日目からは怜香が俺達のマネージメントをするからな。

とまあ説明はこれくらいにして…怜香がやたらニコニコした顔で返ってきた。

「その顔、気持ち悪いからやめてもらえるか」
「いやー良いことあってさー!」

満面の笑みを浮かべている怜香。

「やっぱり友達が増えるって嬉しいねー」
「!」

…どうやら怜香の方はいらぬ心配だったようだ。



時間は少しさかのぼる。
帽子くんに連れられて、私は食堂横の休憩室に来ていた。

「わりぃな、ちょっと話したい事があってよ」

帽子くんは気まずそうに頭をかく。やばい、かっこいい。

「この前、お前に言った事…その、謝りたくて」
「………」

この前…この前…うーん…この前。

私がうーんうーん唸っていると、帽子くんが助け船を出してくれた。

「ほら!お前のドリンクなんて飲めねーとか言っただろ!」
「!」

『お前みたいなミーハー女のドリンクなんて飲めねー』

「あー!あれ!なーんだ、言った事気にしてくれてたんだ!」
「!」

私がそう言うと、帽子くんは俯いて黙ってしまった。まさか…

「この私の美貌にノックアウト的な!?」
「なっ!?!?!!!」
「おぉ!赤くなった!!私の周り皆すました顔してるからこの反応は新鮮!!」
「お、おい!俺は真面目な話を…
「やっぱりどうしてもイケメン達ってこう褒められ慣れてるから、こういう反応が薄いんだよねうん帽子くんいいねかっこ可愛いようんうん」
「…………はあ」

私がそこまで言うと帽子くんはため息をついた。

「なんか、こんな奴に謝ろうとしてる俺が馬鹿らしくなってきた…」
「そうそう、そうだよ。私辛気臭いの苦手だし」
「あーあこんな奴に敵対心燃やしてたのかよ俺は。激ダサだな」
「まあまあそう気を落しなさんなって、せっかくのイケメンが台なしだよ帽子くん」

帽子くんはしばらく考えるような素振りを見せてから、一言呟いた。

「宍戸亮」
「ん?」
「帽子くんじゃなくて宍戸!俺の名前だ。…あと二日、よろしくな。秋津」
「!」

なんだか認められたような気がして、私は嬉しくなった。

「よろしく!宍戸くん!」







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