ミーハー | ナノ



「人に嫌われて嬉しい人なんて居ないでしょ?」



『あの人、ただのミーハーじゃないですよ』

「………」

合宿二日目。俺の頭の中は、日吉の言った言葉がずっとリピートしている。くそ、わからねぇ。ただの仕事をしないミーハーじゃねぇのか?

『ちゃんと働くのは居るよ』
『一緒にしないで欲しいな』

…あの幸村が騙されるとは思えねぇ。ああくそ…面倒だな。

「おい、秋津」

俺は頭にタオルを乗っけて練習を見ている秋津に話し掛けた。

「やあ泣き黒子の君。今日もかっこいいね」
「…………」

こんな奴のために俺は頭を悩ませてやがんのか…!!

「うーん。その顔は何か悩んでる様子だねー!私はイケメンの味方よ!さあ!何でも相談なさい!」
「…………」

秋津は左手を胸に、右手を俺に差し出したポーズをとっている。…それなりに顔はいいから決まっていると言えば決まっているが…頭にのせたタオルがなんとも間抜けだ。俺は頭が痛くなるのを抑えながら、このまま話しても拉致があかないので、本題に入ることにした。

「…何が目的だ?」
「はい?」
「…何が目的でマネージャーなんぞやってやがる?」

秋津は話が見えないと言った表情で、はてなマークを頭の上に浮かべている。

「何がって…蓮二や幸村君に頼まれたからだけど?」
「…どうやって立海をたらしこんだ」
「…………」

俺がそういうと、秋津はやっと状況を理解したような表情をした。

「泣き黒子の君さー何か勘違いしてない?」
「アーン?」
「私は、蓮二に頼まれたからここに居るんだよ?」
「だから頼まれるように仕組んだんだろ」
「うーん。どうしてそうなるかなー」

秋津はそう言い、時計を見てから俺を見た。

「これ見てよ、泣き黒子の君」

秋津は自分の隣のドリンクタンクを叩いた。

「君が、丁度幸村君と部長会議をしてる時に作った奴なんだけど。ね?減ってないでしょ?」
「…ああ」

ドリンクタンクの中にはたっぷりとスポーツドリンクが入っている。

「氷帝の皆、私の作ったドリンク飲んでくれないんだよねー私としては体調管理を担当してる身として飲んで欲しいんだけどさ」
「…………」
「飲んでくれるのは、君と日吉君くらいなのよ」

そう言いながら、秋津はタンクからボトルにドリンクを入れ、俺に差し出した。

「私さー思ったこと口に出しちゃうんだよねー止まんないっていうか。あとイケメン大好きだし。こんなんだから引かれることしょっちゅうでさ。でも嫌われることは少ないのよ。だから今の状況、結構ショックなんだよねー」
「ショック…だと…?」

「人に嫌われて嬉しい人なんて居ないでしょ?」

「…………」
「それにいい加減、練習の合間に日吉君にドリンクやタオル運んでもらうのも悪いしね」
「…自分で運べばいいじゃねーか」
「私が運んだら飲まないし使わないじゃない。言ったでしょ?体調管理は私の仕事だよ」

秋津は面倒そうにため息をついた。

「大体、なんでマネージャー交換しちゃったかな。氷帝さん皆イケメンだからちょっとドキドキしてたのに。睨まれるわ、嫌な顔されるわで散々だよ。せっかくのイケメンが台なし!…あーあ立海に戻りたいなー」

秋津は心底嫌そうな顔をしてさっきより深いため息をついた。

「…………」

俺は思った。こいつは間違いなくミーハーだ。だが…

『あの人、ただのミーハーじゃないですよ』
『ちゃんと働くのは居るよ』

こいつは俺達の事をしっかり見てやがる。言っていることは破天荒で目茶苦茶だが、こいつの言葉には裏表がねぇ。こいつの感じた事、思った事、全てが言葉として周りに伝わる。裏表がないからこそ生まれた信頼感。それがこいつと立海の奴らの間にありやがる。…ハッ!面白いじゃねーの、確かにうちの使えねぇマネージャーとは違うようだ。

「おい秋津」
「なんだい?」
「幸村に午後の練習の事を聞いてこい」
「午後はダブルスだよ」
「最終チェックだ、聞いてこい」
「…ふむ。なるほど。余程私をここから追い出したいらしい…氷帝さんの作戦会議かな?」
「わかってんなら早く行け、雌猫」
「はいはーい。お邪魔虫は消えますよー」

秋津は駆け足気味で、立海のテニスコートへ向かった。…頭にタオルは乗せたまま走る姿はなかなか滑稽だ。奴が見えなくなった所で、俺はレギュラー陣に向き直った。

「俺はあの女を認めるが…てめぇらはどうする?」

今の話を聞いていただろうレギュラー陣は、少し気まずそうな表情をした。

「どうするかはてめぇらの勝手だが、つまらねぇ意地で体調を崩すような無様な姿は見せんじゃねぇぜ?」

俺はレギュラー陣を一瞥し、そう言った。






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