ミーハー | ナノ
「え?臨時マネージャー?」
「で蓮二。いつ俺に彼女を紹介してくれるの?」
「…………」
怜香が転校して来て一週間が経った。怜香はバスケ部の仙道と橘が気に入ったらしく、彼らばかり追いかけている毎日を過ごしていた。…それはつまり、俺達テニス部とはあまり関わらなかったという意味だ。
「丸井も赤也もジャッカルも会ってる。それから仁王も。あんな面白そうな噂のある子、どうして俺に会わせないのか、わからないなぁ」
「…………」
そう、ブン太と赤也と仁王は怜香が来てから、よく尋ねて来るようになった。
「俺が行くと何故か居ないし」
「…………」
精市もよく尋ねてきた。が、その時に限って何故か怜香は居ない。…そのたびに八つ当たりが弦一郎に行くんだが、まあその話は察してくれると有り難い。
「仕方ないから俺も強行手段に出るよ」
いつも、そうな気がするが…
「何か言ったかい?」
…………。
「まあいいけど。じゃっじゃじゃーん!これだよ」
「!?」
そういって精市が出した紙には驚きの言葉が書いてあった。
「え?臨時マネージャー?」
「そうだ」
昼休み、女子のグループで昼食をとっていた怜香に俺は言った。
『合同合宿のお知らせー』
『!?』
『彼女をこの合宿に臨時マネージャーとして参加させる』
『…精市、それは…
『あ、これ決定事項だから』
『…………』
『ちょうど人手足りなかったし、いい案じゃないか』
『…確かにあいつは、俺と貞治のマネージメントをしていたから、使えるとは思うが……』
『全然知らない誰かさんより、蓮二の幼なじみの方がいいと思うんだけど』
『…………』
『まぁとりあえず決定事項だから。よろしく頼むよ、蓮二』
『……はあ』
こんな事があった朝連後。今はうって変わって昼休み。俺が告げた言葉をかみ砕いて理解しているかのように少し顔を歪める怜香。
「それいつ?」
「今度の連休だ。三泊四日になる」
「…………」
手帳を広げ、しばらくしてまた顔をしかめる。
「無理だわー。仙道君と橘君の試合がある。これは見逃せないのよ」
「そうか」
これでこの話はなかったことに…
「なるわけないだろ?」
「…………」
キャーという黄色い声と共にクラスに入って来た精市。後ろにはレギュラー陣が控えてる。怜香はと言うと…
「…ふつくしい……」
精市を見たまま固まっていた。
「なんて儚げ美人さん!!少しウェーブのかかった碧みの強い髪!涼やかな流し目!凛とした声!!ふつくしい…ふつくし過ぎる…!!」
「フフフ…噂通り。面白いね、君」
「…………」
怜香はどこからか取り出したカメラで精市をとりまくる。そしてその背後を見て…固まった。
「テ、テニス部…おそるべし…!!」
顔に、戦慄という名の何かを張り付け、後ずさる。
「噂に聞いてたけどここまでとは…!イケメンフラッシュで目が…」
クラクラと目眩のような様子を見せる怜香。カメラを抱えたままうずくまる。
「幸村。さっさと話をしないか!これでは先に進まん!たるんどるぞ!」
「うるさいなあ真田…
「”たるんどる”!?」
「む?」
「貴方今”たるんどる”って言った?言ったよね”たるんどる”って」
「あ、ああ」
「既に成人男性独特の色気を持つ顔立ちに厳格を絵にしたような佇まい!それプラス”たるんどる”!?君わかってるね」
「う、うむ…」
「怜香、話が進まない。ストップ」
俺がそう言うと、怜香は名残惜しそうにカメラを離し、精市を見た。
「こんにちは、儚げ美人さん。私に何か用ですか?」
ふわりと怜香が笑うと、レギュラー陣が固まった。…まあ黙っていれば美少女だからな。
「こほん…蓮二から聞いたよね。君に、合同合宿の臨時マネージャーになって欲しいんだ」
クラスから息を呑む音が聞こえる。怜香は気まずそうに頬をかきながら、答えた。
「うーん、イケメンパラダイスにご一緒するのは、うれしいけど…その日はちょっと用事があるんだよね」
「その用事ってバスケ部の試合だっけ?」
「そう!橘君に…『先輩、絶対見に来てくださいね』…なんて言われたらもう行くしかないよね!!」
「……そう」
精市は残念そうに眼を伏せた。…ように見えるがおそらく……へぇ俺達よりバスケ部をとるんだ…バスケ部潰そうかな……こんなとこを考えているのだろう。
「よくわかったね」
…最早突っ込むまい。
「あの…秋津さん?」
「何だい?会長さん」
シーンとしたクラスで、怜香と一緒に昼食をとっていた俺達のファンクラブ会長が、怜香に話しかける。
「どうして仙道君と橘君の試合がみたいの?」
「そりゃあ、二人の勇姿をこのカメラに押さえたいからさ!」
「だったら…我々ファンクラブが、仙道君と橘君の試合の写真を撮ってくれば何の問題もないよね?」
「…はい?」
「私、考えたの。確かに秋津さんは破天荒だし、イケメンを見ると見境ないけど…根は真面目だからお仕事はちゃんとすると思う」
「…あのー会長さん?」
「他の女子がやるより、むしろ裏表なくて堂々とイケメン好き宣言をしてる貴女がやった方が、角が立たないと思うの!」
「…ちょっと待って、私の意見を聞こうか」
「大丈夫!ファンクラブ会員から高い評価を受けてる貴女なら!!」
「待って待って!お願いします待って下さい」
「…じゃあ秋津さん、用事消えたよね?」
「え…いや…あのー
「消えたよね」
「そういう問題じゃ…
「マネージャー、よろしくね」
「…クエスチョンマークがついてないんですけど」
「フフフ」
この時ばかりは怜香を哀れに思った。
「会長さん、ビデオもよろしく…」
「ええ、任せておいて!」
−−−
次から合宿編
山場になります。
ちょっとだけ嫌われ要素が入るかも…
でもまあ基本はギャグなんで笑ってください