短編 | ナノ



正反対な私達






理不尽。
私の嫌いなものだ。
物事に筋が通っていないと吐き気がする。
だが理不尽というのはある一定の人物をよく好んでいるようで、ほら、今日もまた…”彼”の周りを理不尽が包んでる。

「たわけっ!!」
「うっ!!!」

ドサッっと倒れ込む彼。テニス部副部長に殴られたのだ。殴られる理由は…後輩の御守りが出来なかったから。馬鹿馬鹿しい。中二にもなって御守りが必要な事がおかしいのだ。ただのとばっちりである。

「まあ、全部やってやるぜぃ!」
「………」
「ジャッカルが!」
「俺かよ!」

すかさず突っ込む彼。テニスのパートナーが宿題を全部押し付けたのだ。俺かよ!と突っ込んでいるくせに、彼はそれをやってしまうのだ。全くお人よしというか、苦労症というか。…私には理解出来ない事だ。

「桑原」

私は二人分の宿題に追われる彼に声をかけた。

「え、苗字?」

…今まで話したことのないクラスメイトの名前を覚えているのか。すごいな。

「何故君は、この現状に堪えられる?」
「は?」
「その頬の傷も、この宿題も、本来君が引き受ける事ではないのだ。何故、この理不尽に堪えられる?」
「あー…まあ性分つーか…」
「理解出来ない」

性分。そんな損な性分があるだろうか。全くもって理解出来ない。

私は考え込みながら、自分の席に戻った。


考えた末、私はある人物にコンタクトをとってみた。

「真田弦一郎」
「む、なんだ貴様は」
「一つ質問がある、答えてくれ」
「悪いが今は…」
「俺は構わないぞ」
「だが、蓮二」
「柳蓮二。感謝する」

真田弦一郎と柳蓮二が昼食をとっている所に、私は乱入したのだ。柳蓮二に礼を言った後、真田弦一郎に向き直った。

「真田弦一郎。君は今朝、ある人物を殴ったな。その明確な理由が知りたい」
「…ジャッカルの事か。あいつには後輩の面倒を頼んで居たのだが、それが出来なかった。あれは我が部の制裁だ」

制裁。その一言で全てが片付けられていいのだろうか。

「…すぐに手が出るのは君の悪い癖だと私は思う。私は部外者だ。こんな事を言われる筋合いはないと思うかも知れないが、君の制裁は見ていて気分が悪くなる。早急にやめてくれ。第一の理由に、制裁を行うまでにいたった経緯が不可解だ。後輩の面倒…確か中二だったな、中一ならともかく、中学生にもなって二年目に面倒見役が必要な事がおかしいのだ。彼がその制裁を受ける必要はどこにもない」

私がそこまで言うと、真田弦一郎は目を見開いて固まり、柳蓮二は物凄い速さで何かをノートに書き込んでいる。

「私は何か間違った事を言っているだろうか?」
「い、いや、確かに筋は通っているが…」
「そうか。では第二の理由だが、君は…
「苗字」

今までノートに何かを書き取っていた柳蓮二が、私の言葉を遮った。

「なんだ、柳蓮二」
「テニス部への忠告、感謝する。ジャッカルの件は、確かにこちらに不備がある。今日の部活で謝罪しよう」
「そうか」

これで一つ彼の周りを取り巻く理不尽が解消された。素晴らしいな。

「手間をとらせてしまってすまなかったな。真田弦一郎、柳蓮二」

そう言って踵をかえすと、柳蓮二に呼び止められた。

「苗字は、ジャッカルの友人か?」
「違う。ただのクラスメイトだ」
「では何故、ジャッカルを気にするんだ?」
「それは私が理不尽を嫌っているからだ」

私はそう言い、その場を後にした。



「丸井ブン太」

昼休みが後半に差し掛かった頃、地を這うような低音ボイスが俺の名を呼んだ。

「なんだよぃ?」
「幾つか聞きたい事がある、答えてくれ」

冷めきった目をした女が淡々とそう言った。一緒に飯を食っていた仁王と赤也に視線を送ると「構わないぜよ」「いいっスよ」との言葉が返ってきた。

「で、聞きたい事って?」
「…まず始めに、そのフーセンガムをどうにかしてもらえないか。必要最低限の礼儀だろう」
「…………」

俺は、静かにフーセンガムを口から出した。…この女怖ぇ。淡々とした口調に冷めた目が雰囲気に合いすぎて怖ぇ。仁王と赤也を見ると、口を開けて絶句していた。まあそんな事我関せずと言った様子で女は話を続ける。

「君は今朝、宿題を全て友人に託していたな。その理由が知りたい」
「ああ、ジャッカルの事か。まあ…なんつーか、面倒だったつーか」
「では何故彼なのだろうか」
「まあジャッカルはそう言う役目だし」
「それは一体誰が決めたのだろうか」
「……………」

次々に出て来る質問。それもずっと変わらない口調で言って来る女。

「宿題というのは自分でやるからこそ意味があるものだ。それを他人に押し付けるという事が間違っている。私は君達がどういう友人関係で成り立っているかは知らない。だがあのやり取りを見ていると彼ばかり損をしているように感じるし、君も損をしている。見ていてとても不愉快だ。やめてくれ。それから…
「待った!」

俺はいたたまれなくなって、こいつの言葉を切った。…これ以上淡々と永遠にしゃべられたら俺の精神が壊れる…

「私の話は終わっていないが」

女は特に気分を害した様子もなく、事務的に聞いてくる。

「…た、確かにそうだな、宿題は自分でやらねーと意味ねーよな」
「わかってくれたか」

女は先程より優しい口調でそう言った。

「ああ、あとでジャッカルに謝ってくるぜ!」
「それは良いことだ。時間をとらせてしまってすまなかったな、丸井ブン太」

そう言って女は俺の前から消えた。…なんだったんだ、今のは。



次の日
…昨日は変な日だった。朝練で真田に殴られたと思ったら、放課後部活で謝られ。ブン太に宿題押し付けられたと思ったら、昼休みに、『あとは俺がやる、やらせて悪かった』みたいなことを言われた。…なんかへんなもん食ったのか、アイツ。他にも昔貸した100円が帰ってきたり、赤也が大人しかったり…とにかく変な日だった。そして極めつけが…

「桑原」
「よ、よう苗字」

苗字だ。

「何故君はノートを貸して、なくされても怒らない?」
「あーまあ、悲しいが過ぎた事をせめてもな」
「成る程」

あの時以来、俺はよく苗字と話すようになった。って言っても苗字がひたすら質問をしてきて俺が答えるだけなんだが…。

「君は…」
「どうした?」
「君はどうして私の名を知っていた?」

いつもの事務的な口調ではない、本当に不思議に思っているような口調で、苗字は聞いてきた。

「君と私はこの前初めて話した。何故私の名を知っていた?」
「そりゃあクラスメイトだしな。お前だって俺の名前知っているじゃないか」
「君は有名人だ。この学校に居るかぎり知らない奴は居ない。」
「そ、そうか」
「それに、私はいつも君を見ていた」
「…………え?」

照れも焦りもなく、苗字はいつもの様子で爆弾発言を言ってきた。

「み、見ていたって…」
「君の周りにはいつも理不尽が付き纏っていた。言い方は悪いかもしれないが、私には君の生き方が理解出来ない。どうしていつも彼だけ貧乏くじを引くのだろうと、不思議で仕方なかった。だから私はいつも君を見ていた」
「…………」

もしかして…ここ最近の周りの変化は、苗字が関係してるのか…?

「君は話したこともないクラスメイトの名前も覚えているのか?私はそんなに目立つ生徒ではない筈だ」
「………それは」

やっぱりそれは…

「俺もお前の事見てたから、かな」

俺がそう言うと、苗字は微笑を浮かべながら「成る程」と言った。



正反対な私達

頭をかきながら照れ臭そうにそう言った彼に、私の鼓動は速くなる。ああ、恋に落ちるとはこういう事か…



−−−

ただずらずらとそれっぽい事を言い並べたいが為に書きました。ごめんなさい。恋愛要素は無理矢理最後に入れました、うん。でもきっとお互いに無いものを持ってる所に引かれてる奴ら、みたいな感じにはなってるよね!

つか私マシンガントーク系好きだな。







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