短編 | ナノ
なんだか物足りない日
爽やかな朝である。素晴らしい朝である。完璧なる朝である。
雲一つない真っ青な空。涼しげな風。美し過ぎる秋晴れだ。
遅刻症の俺とは思えない程の爽やかな目覚め。朝食。いつもと同じシンプルな朝食、今日はとても美味しく思えた。まあ当たり前だ。今日は。今日は…!
「俺の誕生日だー!!」
そう言って勢いよく家を飛び出し、俺は学校へ向かった。
「切原君、お誕生日おめでとう」
「おう!」
誕生日。
それは誰もが主役になれる日。
「赤也ー今日誕生日だろぃ?これやるよ」
「丸井先輩!あざーす!」
誕生日。
それは少しだけ無礼講が許される日。
『赤也ー!誕生日おめでとう!!』
「おぉ!名前わりぃ…な……あれ?」
誕生日
それは少しだけ、…本当に少しだけ、変な行動が許される日である。
「切原ー廊下の真ん中で一人コントはやめろー先生もフォローできん」
「う!すいませんっした」
…なんで俺、名前が居ると思ったんだ?
少しの謎を持ったまま俺は教室に入り、沢山のプレゼントに囲まれた。ふはははは!これこそ誕生日の醍醐味だぜ!とまあ、調子に乗るのは俺の悪い癖だから軽く流して欲しい。誕生日だし。
それにしても…
「なんか、物足りねーんだよな」
俺はプレゼントを見ながら呟いた。
昼休み。
せっかくの俺の誕生日に挨拶にも来ない我が幼なじみ−名前を、俺は訪ねた。
「は!?休み!?」
「ああ、なんでも夏風邪こじらせたらしいぜ」
「…………」
あいつは…休みだった。俺はその足で屋上に向かう。
「…………」
…馬鹿みたいに風邪をひかなかった名前。馬鹿は風邪をひかない原理だとアイツは相当な馬鹿だ。そんぐらい風邪と無縁だった名前。…よりによって俺の誕生日に風邪ひかなくてもいいじゃねーか!ったく…
「お前に会わなきゃ、もの足りねーんだよ!!!」
屋上から目一杯の声で叫ぶ俺。まあ返事は返って来るわけがないが…
「うっさいよ、バーカ」
「へ?」
声のした方を振り向くと、マスクをした名前がそこにいた。
「お前…風邪じゃねーのかよ」
「えぇ風邪よ。…ズズー…無理して来てやったんだから、ちょっとは喜びな!…ゴホッ!」
よく見ると顔は赤いし、声もかなり鼻声だ。
「お前…」
「ゴホゴホ…何?」
「馬鹿じゃなかったんだな」
「………」
俺がそういうと、名前は無言で殴ってきた。…いてぇ。
「人が無理して来てるのに、アンタって奴は…!」
「わりぃわりぃ!痛いからやめろ!」
まあいいわ、名前はそう言い鞄から小さな箱を取り出した。
「…はい、お誕生日おめでとう。赤也」
「おう」
その箱を受けとった瞬間、俺の中はさっきまではなかった満足感に満たされてゆく。ああ、やっぱりあの物足りなさの正体はこれだったのか…
なんだか物足りない日
俺の中をアイツがどれだけ占めてるか、改めてわかった日だった。
…でもプレゼントがゲーセンのメダルゲームのメダルって…アイツ女子力なさ過ぎだろ…
−−−
天使と悪魔は紙一重様に提出
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