短編 | ナノ



君を待つ雨の午後





「よっしゃー!!やっと終わったぜ!!」

一にテニス、二にテニス、三にテニスで、四五ゲームという生活が続いた暑い暑い夏休み。今日は8月31日で、その夏休み最後の日だ。俺にしては珍しく、夏休みの宿題が夏休み内に終わった所である。

「っと…今の時間は…?」

ただ今の時刻、三時過ぎ。

「あー…約束の時間は五時だから…約二時間は寝れるな」

市内で行われる最後の夏祭り。俺はそこに名前と行くことになっていた。…宿題を終わらせたのもその為だ。

「ふあ…」

目覚ましのアラームをセットし、欠伸をしながらベッドに身を預ける。…正直ここ三日、宿題のせいでまともに寝ていない。まあ溜め込んだのは俺なんだが…。睡魔はすぐにやって来て、俺の意識は闇へと沈んだ。


……や

……かや…

…あかや…

真っ暗闇。俺の名前を呼ぶ女の声が聞こえる。

「…やめろよ姉貴…まだ眠い……」

………あ…姉貴?

俺は自分が言った言葉を脳内で繰り返す。

「ちょっと!いい加減起きなさいよ!風呂あいたわよ!」

その言葉に勢いよく起き上がり、風呂上がりであろう姉貴を見た。

「姉貴!!今何時!?」
「ど、どうしたのよ?今は十時過ぎだけど…」

十時過ぎ!?

俺はアラームをかけておいた携帯を見た。

「あああああ!!俺の馬鹿!!!!!」

そう叫んで部屋を飛び出し、走り出す。

「ちょっと!?アンタどこ行くのよ!!」

姉貴のそんな声が聞こえてきたが、答えてるヒマはない。…ちなみに、ベッドにおいて置いていた筈の携帯は、電池パックが外れた無惨な状態で床に落ちていた。何があったかは容易に想像がつく。…俺が寝ぼけて投げ飛ばしたんだろう。ああ…俺の馬鹿。

玄関を開け、勢いよく外に飛び出すと、雨が降っていた。でもそんなの気にしている場合じゃない。傘をささないまま走り出す。約束の時間は午後五時。今の時刻は午後十時。居るはずない。待ってる訳がない。…電池パック外れてたから、連絡もとれない。そんな奴を待つ奴なんてどこにいる?

夜の闇と冷たい雨が、俺の思想を暗くする。

走ってどうする。居るわけねーだろ。

俺の行く手を遮るように、雨足が強くなる。

それでも俺の足が止まらなかったのは、ただの自己満足か。それとも…あいつが居てくれてる、そんな気がするからか。とにかく俺は目的地へ急いだ。


「ハアッ…ハア…」

ついた。

『じゃあ五時、鳥居の前に集合ね』
『おう!』
『遅れないでよ?』

約束の鳥居についた。賑わっている筈の夏祭り会場は、全て電気が落ち、暗闇の中にのまれている。…この雨だ、早めに切り上げたんだろう。辺りを見渡しても人っ子一人居ない。

…やっぱいないよな。

膝に手を置き、息を整えながらそんな事を考えていると、不意に…俺に降り注ぐ雨が止んだ。

「あ…」

顔を上げると、傘を差した名前がいた。

「遅いよ、バーカ」

いつもと変わらない笑顔で名前はそう言った。

「わ、わりぃ…」

体を起こし、名前に向き直ると、「ちょっと持ってて」と俺に傘を渡して来た。そして…

「うぉ!?な、なにすんだ!?」
「ちょっと屈みなさいよ!髪乾かさないとワカメみたいに増えちゃ…こほん。風邪ひいちゃうでしょうが!」
「…てめぇ……」

少し大きめのハンカチで、俺の髪をグチャグチャに乾かす名前。あらかたの水分がとれたのか、今度は手櫛で優しくすいてくれた。

「よし」
「…サンキュー」
「じゃあ、さっさと大会の優勝祈願して帰りましょうか!風邪ひいたら大変だしね」

ハンカチを絞り、名前は笑いながらそう言った。

…この雨の中、待っててくれた。
怒る訳でもなく、ただ俺の心配をしてくれた。
雨のせいで冷えた身体とは裏腹に、俺の中で暖かさが溢れてくる。

「…あぁ、そうだな」

俺達しかいない夜の町。蒸し暑さと雨の静寂に包まれながら、俺達は夏休み最後の夜を過ごした。


君を待つ雨の午後

約束の時間を過ぎても来なくて…連絡もとれない。雨も降りだして…帰ろうと踵を返したその時に、彼はずぶ濡れになりながら私の前に現れた。




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