短編 | ナノ



Idealism−理想主義−






「なあ」
「何?」
「なんでそんなに頑張るんだよぃ」

試験一週間前でもないのに、必死に勉強しているあいつに聞いた。

「だって勉強わからないから」
「…お前女子の学年一位だろ?勉強する必要ねーじゃん」

もう一度言う。今の時期は試験が近い訳じゃない。

「人に教えられるくらいに理解出来てないって事だよ。それに私はやらないと出来ないタイプだから」
「わかんねーなー…それ彼氏と居るときにやること?」
「うん」
「即答かよ」

奴はにっこりと微笑んでそう答えると、再び机に眼を落とし、カリカリとペンを走らせた。

…こいつにとって俺って何なんだろうな

そんな事を考えていると、ペンを走らせながら、奴は言った。

「私にはね、なりたい自分があるの」

「頭がよくて、皆に優しくて、親切で」

「可愛くて、運動も出来て」

ずらずらと言い並べられるあいつの理想。凄いと思ったのは、それら全てをあいつ自身が体現していることだ。

「そして…」

そこで言葉を切り、ペンを止め、俺を見る。

「貴方に告白されて、付き合って」



『…好きなんだよ』



俺を見ている筈のあいつの瞳は、俺の瞳に映った自分自身を見ていた。

「なりたい自分になる為に、私はどんな事でもするよ?」

今までで一番の笑顔を俺に向けて、奴はそう言った。



Idealism−理想主義−

結局あの女にとって、俺は理想の一部でしかなかった。



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主義/ISM様に提出






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