短編 | ナノ



Secret Blast



※捏造注意
主=20代後半/軽く最強/厨二っぽい



ここは真っ暗な部屋の中。

「うぐっ…」

周りに居るのは五本指。

「がはっ…!」

闇の中で目を凝らせば、私を執拗になぶりつづける男が見える。

『シックス』

今世界を騒がせている犯罪者の中の犯罪者だ。その『シックス』自ら私に制裁を加えているのだから、私は相当彼を怒らせてしまったのだろう。

「残念だよ」

シックスは私の髪を掴み、顔を上へ向かせる。

「まさか、君がここまで使えないとはね」

私にくだされた命は暗殺。とある国の重要人物を殺せというものだった。おかしい。私はちゃんとノルマをこなした筈だ。

「Xの様に箱に詰めろ、私は君にそう頼んだはずだね?」

ああ、なんだ。そんなことか。

私は重い体を起こし、シックスを見る。

「…あれは、美しく、ない…」

人間をばらばらにしてガラスケースに詰める?冗談じゃない。なんで私がそんな美しくない事をしなくちゃならない。

「ぐあっ…!」

またシックスの蹴りが鳩尾に入った。死なないよう、痛みだけが体に走る。さすが悪意の定向進化。人間の仕組みは承知ってことか。私もだけど。

「…はあ…はあ…」
「私はね、君が嫌いではなかったよ。むしろ好きなぐらいだ」
「……………」

あ、ジェニュインがこっち見てる。睨まないでよ、怖いな。

「濁りを知らない力強い瞳…余裕な表情」

シックスは私の前に屈み、私の顎をクッとあげた。

「…好きだからこそ、是非君の歪んだ顔が見たいな」

そう言ってもう一発私の腹に蹴りを入れる。

「葛西」
「はいはい」

シックスに呼ばれ、葛西は前に出た。手には一本のマッチ。…いい加減ライターやチャッカマンを使えばいいのに。

「火火火、いっちょパーッと燃えようぜ。苗字」
「さあ、私に君の乱れた姿を見せておくれ」

その言葉と同時に、火のついたマッチとガソリンらしき液体が私に向かって降り注ぐ。…ああ、葛西に殺されるなら文句ない。なんせ火は美しい。水死やら毒殺やら、まして埋められるなんてまっぴらだ。

多分シックスは、かつての同胞である葛西に私を殺させれば私が絶望でもすると思ったんだろうけど、残念、ハズレ。なんせ火は美しいからね。

だから、

「…誰がそんな姿見せてあげるもんか」

不敵な笑みをシックスに向けて、私は、『隠し指』と呼ばれた私、苗字名前は死んだ。



…筈だった。

「…………」

目が覚めると、無機物な天井が目に入る。コンクリートか。

「よぉ、お目覚めか?」
「…葛西」

覗き込んできた顔は、私を殺した張本人だった。

「なんで、…ああ、夢か」
「んなわけねぇだろ。間一髪で生きてんだよ、お前」
「はあ?全身火傷のショック死でしょーに」
「ああ。俺もそう思ったし、シックスや五本指もそう思った。けどな」
「?」
「俺が死体処理を任されて、お前抱えてフラフラしてたら、お前の心臓が動き出したんだぜ」
「んな馬鹿な」
「どーも『新しい血族』は死なねぇ化け物みてぇだな」
「…全くもって嬉しくないね、その言葉。…っいたたた」

無理矢理体を起こせば意外にも自分が軽傷な事が伺える。もしかして、これは…

「…風が炎を遮った?」

私の『血族』としての力は『風』。某映画のナウ〇カは私の祖先がモデルとかなんとか。無意識の内に私は力を使ったようだ。

「さぁな、すくなくとも直火の火傷じゃねぇ。その火傷は熱気にあてられた火傷だ」
「そう」

服は焼け焦げボロボロだが、体には軽度の火傷だけ。いくら風で防いだとは言え、葛西の炎を受けたにしては軽傷過ぎる気がする。

「ねぇ」
「ああ?」

尚且つこの覚えのない注射の跡。

「あんた、もしかして私にXの強化細胞入れた?」

葛西は静かに煙草を吹かすだけ。ああもう、これは肯定だ。

「最低」
「火火火火、最新の注入型だ。生きられたんだからいいだろ?」
「冗談じゃない。どうせ殺されるのに、最後は実験体?ふざけないでよ」

「殺さねぇよ」

不意に聞こえたその一言に、私は疑惑の目を葛西に向ける。

「お前が炎に包まれてるのはシックスも五本指も見てる。『死体処理』を頼まれた俺以外、お前が生きてる事を知ってる奴は居ねぇ」
「…何が言いたいの?」
「逃がしてやるよ、お前を」

「…は?」

言われた言葉を脳内で復唱する。

「お前は俺と違ってサツに顔が割れてねぇし、充分一般人に戻れるだろうが」
「…シックスにばれた時どうすんのよ」
「バレねぇさ」
「すごい自信ね」
「ああ。俺の願いは長生きだからな」

煙草片手に不敵な笑みを浮かべる葛西を見て、なんだか先の事を考えるのが面倒になってきた。

「大体お前には合わねぇんだよ、裏の仕事とか。なんでも美しい美しくないで判断しやがって」
「だって美しくないんだもん」
「はあ…まあコンビ組んでたよしみだ。シャバで楽しくやんな」

そう言って葛西は私の前から消えた。

「…つーか、ここどこよ」



あれから数日。
強化細胞の助けもあり、私の火傷は常人の倍以上の速さで回復していった。もう体は自由に動く。そんな中、私は脳噛ネウロによって五本指が次々と倒されていくのをただただ見ていた。

DRが倒され(あいつ私の事しょっちゅう馬鹿にしてきたんだよなーざまあみろ馬鹿)テラが倒され(あいつのどこが美しいのかわからないんだよ人を埋めるとか相変わらず趣味悪い)ヴァイジャヤが倒され(ジェニュインと絡んでからちょっとスレちゃったんだよなー可愛かったのに)ジェニュインまでもが倒された(女同士で話は弾んだけどシックス好きすぎてひいたわ)。

ジェニュインを調教したネウロの手際には多少なりとも驚いた。最後はジェニュインの勝ち逃げだったけど。ああ、彼女の最期はとても美しかった。

ネウロが探しているのはシックスの居場所か。恐らくシックスは今Xの調整中だろう。日本のあそこか、もしくは…

私がヒントを与えてもいいが、それがシックスに伝わったら葛西が死ぬことになるし、勿論私も危ない。

でもまあ…この闇夜に浮かび上がる『六』を見ていたら、全てがどーでもよくなってきた。



帽子を深めに被り、外を歩く。

ああ、今女の子が橋の上で泣き崩れた。涙と絶叫は美しいよ。橋から飛び降りた男の体に『6』の文字が見えたのは気のせいということにしておこう。だって、美しくないもの。

しばらくビル街を練り歩き、気がついた。

空気が、重い。
風が煩い。

ああそうだ。
ちょっと久しぶりに、遊んでみようか。

「…すみません、少し道をお尋ねしたいんですが」
「いや、すみません。今急いでいるので…
「大丈夫ですよ、すぐ終わりますから…」

貴方の服、貸してね。



「まさか…こんなところでヤキが回るとはな」

久しぶりに見たあいつは、ボロボロの絶体絶命だった。

警戒はしていたようだが、私と同時に現場についた男女の刑事にそれっぽいようについてゆけば、すんなりビルの中へ入れた。ふん、ちょろい。

「気をつけろ!!こいつが火を自在に操る事を忘れるな!!さらに…こいつ等はXに匹敵する強靭な肉体を持っている!!射撃を始めたら決して手を緩めるな!!」
「「おう!!」」

あーあ、なんて素晴らしい用意周到さ。そしてこの士気の高さ。これは警察の力を見誤った葛西の失態だな。

「……なぁ小僧共」

でも葛西はあくまで不敵に笑う。

「俺は確かに火を操るさ。手から炎だって出せるんだ。…なのに、なのにだぜ。何でタバコはマッチで点火すると思う?」

そう言いながらマッチをすった葛西と同時に、一斉射撃が始まった。

『何でタバコはマッチで点火すると思う?』

ひっかかるのはその言葉。炎の達人が最期に何を魅せてくれるのか、何となく予想はつく。…あ、ここは巻き込まれるな。



炎、犯罪に対して、葛西は天才だった。それに惹かれて、私はあいつと手を組んだんだ。

あいつは自分の中の美学を重んじて、血族としての名も強化細胞移植も拒み、私はそんなあいつの真似をしていた。あくまで人で居たかったから。まあ強化細胞は勝手に注入されたけど。

「バックドラフト…てやつさ。燃える結末だろ?」

天才が起こした起死回生のバックドラフト現象。密閉空間で燃える炎に対して一気に大量の酸素を送る事で起きる爆発。大なり小なり刑事達にダメージを与えた。

でも流石は笛吹直大。判断が的確で迷いがない。葛西が追い詰められるわけだ。

私は退避をする刑事達からそっと抜け出した。





炎に包まれ、俺は考える。

犯罪者としての美学、人間の限界、それを守りつつ、俺は奴より長生きしたかった。

昔は違う。
やりたいことをやって、パーッと死ぬのが俺の望みだった。そう、奴に会うまでは。

あの圧倒的な存在感と悪魔の魅力に魅せられて、俺は奴の指になった。昔ちょくちょく俺の遊びに連れ出してた苗字も引きこんで。

ああそうだ。あいつには悪いことをしたな。元々美しい美しくないで物事を判断するやつに、シックスの出す命はあいつにとって美しくないものばかりだった。合わねぇよな、普通。

…まあそんなこと考えても仕方ない。

「葛西様は燃料切れで途中退場だ。一服したらとりあえず死んどくか」

やりたいことをやったらパーッと死ぬ。昔の俺だ。

「! …くそ、マッチか」

火炎放射機は燃料切れ、マッチを擦るのさえ億劫だ。上を見れば、俺が落ちた穴の周りで炎がメラメラと燃えている。

「おーい。誰か火ィ貸してくれよ」

そう言えば、天井にみしみしと亀裂が入る。流石、よくわかってるぜ。

「火火火、悪いな」

炎を纏った瓦礫が俺へと降り注ぎ、俺は来たる衝撃に目を閉じる。…これが伝説の犯罪者、葛西善二郎様の最期なら上出来だろ。

「…………」

だが、衝撃はいくら待っても来なかった。

「お目覚め?」
「…苗字」

目を開ければ、風を纏ったあいつが居た。

「…火火火、お前スーツ似合わねぇな、スーツに着せられてやんの」
「…久しぶりに会って第一声がそれ?はい火」
「ライターか、粋じゃねぇな」
「文句を言わない」

俺の周りの瓦礫を風で粉砕し、俺の隣へ腰掛ける。

「あっつ…」
「よく、潜り込めたな」

苗字が着てるのは男物のスーツ。おそらく刑事達の中に紛れ込んでたんだろう。

「別に。目の前のあんたで頭一杯で、下っ端の奴らは内部まで頭回らなかったんでしょ。笛吹には近づかなかったし」
「…やるな」
「つーかあんた、他人の命勝手に救っといて自分は死ぬってどういうことよ」
「火火火、俺を助けようってか?やめとけ、おじさんもう動けねぇよ」
「なら無理矢理動かすまで。葛西善二郎にはもっと華々しくて美しい場所で死んでもらわないと」
「…中年にはやさしくしろ」

無理矢理動かすという苗字の言葉にぞっとしながらも、俺はそっと笑う。…奴に会う前の俺達だ。俺の『火』と苗字の『風』は相性がいい。暴れ回ったのを思い出すぜ。

「で?どうするつもりだ、お荷物のおじさん連れて逃げれんのか?ビルは包囲されてんぜ」
「もう少し暗くなったらハングライダーで飛ぶ」
「二人でか?」
「うん」
「無理だな、見つかる」
「大丈夫よ。私達が霞むくらいの事を起こすから」

苗字は着々と俺の応急処置をしながらそう話す。いやに自信満々だ。

「このビル、あと配線繋げば完成するんでしょ?」
「ああ」
「あとでその配線繋いでくるよ。そんでもう一回バックドラフトを起こそう。爆発と同時に出発だ」

なんてことない様に言っているが、逃げ切れるかは五分五分だろう。

「それじゃあ行ってくる」

動きにくいスーツを脱ぎ捨て、苗字は下へと下りていった。

「火火火。これも若さか」

お荷物おじさんはお荷物らしく、若者を待ってますか。





3年後
あの日、私達は見事作戦を成功させ、警察から逃げ延びた。葛西は表向き死んだことになっており、私達は表舞台でも息苦しくない。まあXの強化細胞を移植していない葛西は、今の今まで私の部屋から動けなかったから関係なかったけど。

「手を変え品を変え…増えては減っては存在を続ける」

五本指が全て倒されたシックスは最後、脳噛ネウロによって消されたらしい。

「犯罪者の王にして最高最後の犯罪者。そう思っていた男が死んでも、俺はこうして生きている」

しかし当の本人も、ここではないどこかへ消えたようだ。

「この上お前まで居ないんじゃ…善と悪のバランスが取れすぎて面白くねぇ」

住宅街を見下ろせるマンションの屋上に、

「火火火。帰ってこいよ、ネウロ」

煙草を吹かせた葛西と、

「俺は、人間はまだ…お前に何一つ見せちゃいないぜ」

風に髪をなびかせる私。

「ようこそおいでませ、犯罪者のワンダーランドへ!」

平凡でつまらないこの世界を、私達が美しい炎の世界に…変えて魅せようか。



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Secret Blast
直訳:秘密突風

唐突にかきたくなった。
捏造乙最強乙

唐突なんで急展開やら無理矢理やら大変な事に…




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