短編 | ナノ
好敵手達の反逆
俺はよく夢を見る。青学のボウヤに負ける夢。縁起が悪い夢だと何度も思う。
でも俺は、この夢がただの夢ではないことを知っている。
幼い頃から、俺は中学生の俺が倒れる夢を何度も見ていた。
そしてそれは、実際に起こった。
他にも…真田がボウヤに負ける夢や、俺の手術が成功する夢など、正夢を何度も見た。
そして俺は、気づいた。
あれは決められたコトだったのだと。
俺がそのコトを意識してから、俺の頭の中に一冊の本が浮かんでいる。台本、というのが正しいだろうか。皆が決められた台詞を言っていく、そして俺も、決められた台詞を言っていく。
まさに台本だ。
台本に決められた通り、物語が進んでいく。がむしゃらに練習しても、俺の、俺達の三連覇はない。台本には、ボウヤが勝つと書いてあるから。
天衣無縫の極み…テニスを楽しむ心が産む境地。ボウヤはそれで俺に勝つ。
…そうだ。どうせ勝てないなら、無我の境地でも極めてみようか。ふふふ、それじゃあ千歳みたいだね。
「幸村!我が立海三連覇に死角はない!」
「そうだね、真田」
そして俺は、皆に嘘をつく。
俺のほかに誰が、台本の存在に気づいているかわからないからね。
「……………」
何だこれは。
台本ではボウヤは記憶喪失で遅れて来るはず…そして遠山と俺は一球勝負をする…
はずだった。
何故で青学に女のマネージャーがいる?いや、それは別に構わない。だが、何故そんなにその女を気にしている?
これが関東大会の勝者だと?
これが全国大会決勝戦の相手?
俺達はこんな奴らに負けたのか?
他の学校はこんな奴らに負けたのか?
ふざけるな。
たとえ立海の二連覇が台本にかかれたシナリオ通りだとしても、俺は三連覇を確実にしたいと練習してきた。
たとえこの試合で負けるとわかっていても、俺は練習をしてきた。厳しいリハビリにさえ耐えた。
「…ふざけるな」
「? 幸村…?」
俺は、レギュラー達に向き直る。
「あれ見たら、馬鹿らしくなってきたんだよ」
「精市?」
「今まで気にしてたコトがさ」
「幸村部長?」
「この試合の結末、俺知ってるんだ」
そう言ったら、電波かなって思われると思ったけど
「え、幸村君も…?」
ああ、この反応は。なんだ、みんな台本知ってるんだ。
「俺達、負けるよね。勝てる試合もあるけどギリギリだし。最後は俺とボウヤの一騎打ち」
いつからだろう。台本に気づいてからか、俺は台本通りに動いてきた。そういうものだと思ってたから。
「でもさ、俺負けたくないよ。あんな奴らに」
もう台本通りじゃない。なら俺が、俺達が、台本通りに動く必要がどこにある?
「これは俺達の物語なんだから、すきにしていいはずだろ?」
みんな、俺の話を聞いている。
「我が立海三連覇に死角はない、そうだろ?」
「なん、で…?」
マネージャーのうめき声が聞こえる。
ああ、残念だよ、手塚。
ああ、残念だよ、青学。
さあこれで最後だ。
「ボウヤ」
“いい目をしている”
それが俺の台詞。
でもそんな言葉、言ってやらないよ。
「…すぐ、終わらせようか」
好敵手達の反逆
濁った目をした君に、天衣無縫は使えない。
たとえ君が、主人公だとしても、
俺には勝てないよ。
シナリオが変わったからね。
−−−
not夢
何も知らないのは主人公達だけ。ライバルたちはそれぞれの役割のもと動いている。
でもそこにトリップ主という異分子が入ったことにより崩れる原作…みたいな笑
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