短編 | ナノ



部活交流、しませんか?




弓道。
俺の中で弓道とは、静かな闘志というイメージがある。

緊張感が張り詰めた道場に響く弦音。
一つ一つ確かな思いを込められた矢。

冷戦。それが俺の中の弓道のイメージだった。


そう

奴に会うまでは…




「手塚国光!今日こそ我が部に入ってもらうよ!!」

そういって教室のドアを乱暴に開け入って来たのは、弓道部部長である。

「廊かは走るな」
「走ってないわ!競歩よ!」
「………」

それは胸を張って言うことではない。


この女はアツい。
とても、アツい。

後輩が怪我をしたら共に泣き、同級生が優勝したら共に喜び、先輩が引退したら豪勢な送別会を開く…そんな女なんだ。

とにかくアツいこの女。この女のせいで、俺の弓道に対するイメージは崩れた。しかも…

「君は弓の神に愛された子なんだよ!?弓をやるべき!!」

何故か俺を勧誘してくる。

「何度も言うが、今はテニスと生徒会で忙し…
「大丈夫!!手取り足取り私が教えてあげるから!!」
「……………」

人の話を聞かないのはこいつの得意技だ。

「だからね!ねっ!!」

屈託のない笑顔。
悪気がないだけ、たち悪い。

はあ…
いい加減、疲れる。

「…今度の日曜」
「ん?」
「大会があったな」
「うん!あるよ!」

…どうせ生徒会長として見に行かなければならないからな。

「見に行こう」
「本当に!?!?!??!?!?!?」
「!!」

み、耳元で叫ぶな…!

「神様…弓の神様…!ついに申し子が、はじめの一歩を踏み出しました…!!」
「…部長、やるとは言っていない」
「やったよ私!!Good job 私!」
「…頼むから話を聞いてくれ…」

俺は深いため息をついた。








大会当日
9時に開会式だが、控室の関係で7時集合。

俺が10分前に到着をしたら、部長を含め、部員全員がもうすでに集まっていた。

「お!手塚国光来たね、じゃあ行こうか!」
「…ああ」

いつも俺を勧誘してくる時とは違う、どこか凛々しい雰囲気。

…やはり“部長”か。








開会式が終わり、観客席に俺は座っている。

静寂が包む中、弦音だけが道場に響き渡る…。俺が想像していた通りの弓道が、ここにあった。

だが、俺にはあいつがこの雰囲気の中、弓を引く姿が想像出来なかった。

なんと言っても朝から勧誘に来て尚且つ人の話を全く聞かない女、だからだ。このイメージとは程遠い。

そんな中、青学の番になった。


「−−−っ!」


雰囲気に…飲まれた。


これが、部長か?

毎朝俺を熱血に勧誘してくる、部長か?

人の話を聞かない、部長か?


5人いる中の1番最後、落と呼ばれる席に

俺が見た中で1番美しい弓を引く女。

一つ一つが専念された動作

それは、舞のようだった。








「みんな、お疲れ様!」


全ての試合が終わり、閉会式も終わった。

結果は、2位。

1位の学校とは僅差で負けてしまった。


「それぞれ思うところはあると思うけど、次の大会に向けて頑張ろう!では解散!」


泣いている者もいる中、部長はいつものような口調でそう言った。


「…惜しかったな」

部員が全員居なくなった所で、俺はそう切り出した。

「うん。最後のあれが…たたき、なんてね」
「ああ、的の縁に当たって外れた奴か」
「馬鹿したよー。あそこは中てなきゃいけなかったのに、部長失格かな」
「…………」

そんなことはない、と俺は言えなかった。同じ“部長”として、負けられない戦いが俺にもあった。

あそこで1本入っていれば、延長戦やらなにやらがあったに違いない。

その1本を逃したのは、“部長”として辛いものがある。

2位でも立派な戦績だが、あれだけの僅差、部長含め部員は悔しいだろう。

「…………」
「…………」

俺達は無言のまま、帰路についた。

無言の息苦しさはない。部長は部長で今日を振り返っているのだろう。

「聞きたいことがある」

俺も今日を振り返った。いや、今日だけではなく、初めて勧誘された日から。

「お前は、どうして俺を勧誘してくる」

俺はそのはっきりとした答えを、まだ知らなかった。


「弓の申し子だからだよ!!」

即答。何百回聞いた答えが返ってくる。
ああ…もとの部長に戻ってしまった。


「…だからどうして俺が弓の申し子なんだ」
「やっぱりこう…落ち着いた佇まいとかー同い年とは思えない貫禄とかー…いろいろ!」
「…要するに雰囲気か」

「雰囲気って大事だよ?」

「…?」

その言葉に、すこし真剣さが含まれているように思えた。


「君を初めて見た時に、私の思い描いた弓道人だ!って思った。私の勝手な理想を押し付けてるだけかもしれない、ってのはわかってるんだけど。私にはない弓の雰囲気を君が持ってたからさ」

「………」
「つい、ね」
「つい、で毎朝勧誘されるこちらの身にもなれ」
「あはは、ごめん」

悪びれる様子のない謝罪が、俺の耳に届く。ため息をつきたくなる衝動を抑えながら、俺は足を止めた。

「? どうした?手塚国光」

不思議そうに、部長も足を止める。


「俺は、お前の方が弓の申し子だと思うぞ」
「え?」

「お前の弓は、あの会場の誰よりもキレがあり美しかった。お前が放った矢は、吸い込まれるように的へと向かう。俺は、お前が弓をやっていてよかったと思う」

「…………」
「…どうした?」

部長は目を見開き、固まっている。

「え。あ、いや。なんていうか…そう手放しに褒められると照れるというか…」
「事実を言ったまでだ」
「うーん、天然タラシか…」
「事実を言ったまでだ」
「ごめんごめん!だから睨まないでよ!」

俺達はまた歩き出す。

「…弓はいいな」
「でしょ?」
「だが、テニスもいい」
「テニスかー」
「部活動の交流も必要だろう。今度はお前が我が部を見に来るといい」
「そうだね、部活が被んなかったら行こうかな!」
「ああ」



部活交流、しませんか?
俺の中であいつへの何かが変わった日だった。



次の週末

「…………………………」
「て、手塚!あれ弓道部だよな!?」
「……………………ああ」

ぬかった。
そうだ、あいつはそういう女だ。
ただの練習試合。
来るといい、とは言った。言ったが…


「よーし!腹から声出すぞー!!」
「「「はい!!」」」


「なんで部員全員で応援団みたいな格好してるんだ!?」
「……何も言うな、大石」

まさか部員全員で来るとは…暇なのか…弓道部。


「いっせーのせ!」
「「「矢取りお願いしまーすっ!!!!」」」

…掛け声が違うだろう…






−−−

部活のお姫様!様へ提出
×弓道部で参加させて頂きました。


懐かしい弓道部、もう一度やりたいと思ってますが、なかなか出来ませんね。

ちょっと記憶も曖昧ですが、1番いい思い出は「矢取りお願いしまーす」です笑。






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