短編 | ナノ



花火のような恋だった





燃えるような恋がしたい。

恋い焦がれるような恋がしたい。

この夏の暑い日差しのように

焦がして焦げて、燃え尽きる…

そんな恋がしたいんだ。

見上げれば、真っ青な空。
真っ白い入道雲。
塗しすぎる日差し。
季節は夏で、学生である私は夏休みの真っ最中。

雰囲気酔いってあるよね。今私は絶賛酔ってます。何故かって?そりゃあねー念願の休みだよ?休み!宿題が大量に出ていようと嬉しいものだよね!…と、まぁこんな感じでテンションは高いんですが…

実は、夏休みの予定が一つもないんです。

これはおかしい。私思春期。周り彼氏持ち。なぜだ。なぜ皆同じ生活をしているのに彼氏というものが出来る…!?

にしても皆ちょっと薄情だと思う。いいじゃない、彼氏との逢瀬を一回くらい友達に変えたって。うぅ…皆夏休みの予定は、彼氏彼氏彼氏彼氏時々バイトだって!友達やめたい…

とゆーわけで


「付き合ってよ、亮」

「ブッフゥー!!!」


なぜ吹き出す。ばっちぃ…


「お、お前っ…!んなくだらないことで呼び出すなよ!!」
「あーれー?“公園で待ってます(はあと)”につられて来たくせによく言うわよ」
「…………………あれお前だったのか…」
「幼なじみの筆跡もわからないなんてまだまだねー」

私はニセの手紙を使って亮を近くの公園に呼び出していた。…反応からみるとホントに告白かなんかだと思ったらしい。てへ、ごめんね!まあ絶対謝らないけど。

「つーか、あんな手紙書いといてなんだけど、付き合ってってそーゆー意味じゃないわよ?」
「だ、誰がお前なんかと!頼まれたって願い下げだ!」
「………………そこまで言われると軽くへこむ」
「あ…わりぃ」
「まあ本題なんだけど、じゃーん!花火大会ー!ひゅーぱふぱふどんどん」
「………………」
「こらこら、そんな軽蔑の目で見ない。落ち込むから」
「………………」

まあよーするに
彼氏ナシで暇な私は、同じく彼女ナシで暇人の亮と近くの花火大会に行こうとしてる。

「幼なじみなんだし付き合ってよ」
「…他の奴らも幼稚舎からの幼なじみだろうが…なんで俺なんだ」
「あみだくじ」
「…………一人で行ってろ」
「ごめんごめん!冗談だから!つーかみんなカレカノで忙しくて構ってくれないの!亮だって独り身でしょ!?ね!」
「…確かに独り身だけど、俺だって……」
「ん?」
「お、俺だって、好きな奴くらいいる…」

少し俯きながら、かすり声で亮はそう言った。え…好きな奴?

「あー…ごめん。んーでも幼なじみのよしみで付き合って欲しーなー。なんて」
「…………なんでそうなんだよ」
「え?何ごめん、聞き取れなかった」
「なんでもねー」

亮はまた黙ってしまった。
あ、あら?もしかして…怒らせてしまった感じですか…?まじかよー。やっぱり一人で行くしかないのかー。

「で、どーすんだよ」

私が考え事していたとき、亮が顔を反らしながら言ってきた。

「え?」
「待ち合わせとか…」
「あ。行ってくれるの!?」
「…あぁ」
「やったー!!予定出来たー!!」

ひゃっほーい!
なんで顔合わせてくれないのかわかんないけど、これで真っ白な手帳に書き込めるぜ!きゃー!

ちなみに私は浮かれすぎて


「…俺もそろそろ動かねーとな」


亮が何か言っていたのを知らない。




大会当日
え、展開早い?ほらー楽しみなことがあると時間って進むの早いでしょ?それ。

おや?あれは

「おー亮!早いねー」
「ああ、お前も早い…………………………」

亮は私を見て、固まった。
フ…当たり前よ!頑張ったんだから!彼氏ナシの実力を思い知りなさいっ!浴衣に草履まで履いて、私ってばかっわいいぃ!…ごめんなさいごめんなさい調子に乗りました。

「…………」
「…………」

亮はまだ私を凝視して、

「………ま…」

そして

「…孫にも衣装だな」

盛大に顔を反らして、そう言った。

「……………」

えーと、どこからツッコめばいいんだろう。いや落ち着け私。わざわざ私のために来てくれた幼なじみを傷つけてはダメだ!ここは私のフォロー技術で…


「あー私のおじいちゃんって亮なんだー」
(しかし全力の棒読みである)


「はあ?お前何言ってんだ」
「うん。わからないならいいんだ」

まあわからないならそれでね、うん。

そんなことより!

「さあ食って喰って食いまくるぞー!」
「お、おい!んな格好で走ったら…
「ぬおっ!?」



きゃー






「…………最悪」
「……そうだな」

あのあと盛大にこけた私。ついでに足もくじいたりして、もーダサい。亮風に言えば激ダサ。

「ねぇ、やっぱり戻ろうよ。もう歩ける」
「そんな足で歩けるわけねーだろ」
「…………」

亮に背負われ帰路につく私。浴衣でおんぶだからかなりダサいし、通行人の視線が痛い。穴があったら入りたい。つらい。

「だいたいなんで着慣れない浴衣で来たんだよ」

ため息混じりに亮が言った。

「うっさいわねー。淋しい独り身だから、軽くデートのつもりで来たのよ」
「…で、デート…」
「いいよねー皆恋してさ、私もしたいよ」
「……………」

しばしの沈黙のあと、人並みから外れて静かな小路に入る。夜の静寂中、人混みのざわめきを遠くに聞いていたとき

「…なら」
「ん?」

「ほんとにデートにするか?」


闇夜に綺麗な花が咲いた。


「え?」


数秒遅れて音が鳴り響く。


亮の言葉の意味を、数秒遅れて理解した私の心臓は、激しいくらい波打っていて、とてもうるさかった。



そう
まるでこれは…


花火のような恋だった


闇夜に浮かぶ満開の花々。
耳につく激しい音が、花火なのか心臓なのか、わからない。
おんぶされてて心底よかったと思った。
だって多分、顔赤いから



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