短編 | ナノ
濡れてる肩と濡れない肩
本日の天気
最高気温25度
最低気温18度
晴れのち曇り
「…嘘じゃん」
窓の向こうのざーざー振りの雨を見ながら私は言った。
…天気予報ってほんとあてになんないな。まあ今の季節、雨なんて当たり前なんだけど。
今は6月。季節は梅雨。雨なんて何時降ってもおかしくないこの時期。いくら天気予報が晴れでも、折り畳み傘は常備しておきたい。
というわけで
「私勝ち組」
傘がなーいと喚くクラスメイト達を見ながら一人呟いた。
放課後
担任に頼まれ、早退した日直の代わりに日直の仕事をこなす。昼頃から降り始めた雨は、まだ止みそうにない。
最後のゴミ出しを終え、帰路につこうと下駄箱に行くと、印象的な髪型が目についた。あれは…
「切原?」
「あ、名前先輩!」
「テニス部のミーティング終わったの?」
「はい、今終わった所なんすよー!傘無いんで小雨のうちにチャッチャと帰っちまおうと思って、急いで来たんです!」
「小雨…?」
確かに外を見るとピーク時より勢いは和らいだが、それでも小雨とは言い難い…我が後輩はこの雨を走って帰るつもりのようだ。
「先輩?どうかしたんすか?」
「切原、この折り畳み傘貸してあげる」
「え!?駄目っすよ!先輩が濡れるじゃないっすか!」
「大丈夫、まだもう一本ロッカーにあるから。それに大会近いんでしょ?この雨じゃ体壊すよ」
「先輩…」
「持ってきな」
「あ、あざっす!!」
切原はそう言って私の傘を使い学校から出て行った。切原の姿が見えなくなると、酷く自己嫌悪に陥った。
…ロッカーにもう一本ある、ね。ないわ、んなもん。結局私は負け組なのね。まあ、かわいい後輩を風邪から救ったと思えば安いものか。さて…
軽く準備運動をして体をほぐす。
「…よし」
見据えるはここからは見えない我が家。
止まることは許されない。
いざ…
レディー…Goooo!!!!
「何してるの?」
私の行く手を涼やかな声が阻んだ。
振り返ると折り畳み傘を持った幸村がそこにいた。
「何って幸村。クラウチングスタートだけど」
「それはわかるよ。ロッカーにもう一本傘あるんじゃないの?」
…聞いてたのかコイツ。
「…人の後輩に傘貸して自分無いなんて、君馬鹿?」
「……自己満足ですが何か」
「………はあ」
私がそう言うと幸村は、やれやれこいつは、と言った様子で大きなため息をついた。
「俺の傘に入れてあげる」
は?
「俺の後輩が世話になったからね、送るよ」
「いや、結構でs…
「え?」
「お願いしまーす」
爽やかな笑顔で聞き返さないでよ。恐いわ。
幸村の折り畳み傘に半分ずつ入り、帰路につく。…こんなとこファンに見られたら殺されるな。
「天気予報はあてにならないね。この時期」
まだまだざーざーと降り続く雨を見ながら幸村が言った。
「そうだね」
さっきより強さを増したざーざー振りの雨。クラチングスタートしなくて正解だわ、完璧ずぶ濡れ。
「でも、雨と赤也には感謝しないとね」
「なんでさ」
「苗字と…名前と一緒に相合い傘出来たんだから」
サラっと飛び出した爆弾発言。
「…なにそれ、どういう意味?」
幸村は苦笑しながら「そのまんまの意味」と言った。
止みそうにない雨。
小さな折り畳み傘に私と幸村。
ちらりと横目で幸村の肩を見る。
傘から少しはみ出しているから、ずぶ濡れだ。
濡れていない私の肩を見て、私は静かに微笑んだ。
濡れてる肩と濡れない肩
百の言葉より、一つの動作が好きなんだ
−−−
意味わかんないな笑
お互いに好きあってるんだけど先に進めない奴らみたいな
遠回しな言い方はサラっと流して、自分が濡れないようにしてくれてる幸村の行動に胸打たれてる主人公って事で
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