0日目
新世界で最も重要なビックカップルの結婚式、その2回目。その後の二次会で、私の人生が大きく変わる、爆弾発言が落とされた。
ひさびさに日本に帰ってきたメンタリストが働きっぱなしの科学チームを休息目的に呼びつけて、そこはまるで初めてアメリカ大陸を目指す日のようなメンツが久しぶりに揃っていた。かくいう私も石神村に缶詰だったのでこうした会に顔を出すのは久しぶりだった。
だからなのか。あんなことが起こったのは。
パチーンと指を鳴らす大きな音と共にお立ち台の上に立つのは、七海龍水。片手にはワイングラスを持っている。ハッハー!とお馴染みの雄叫びをあげて皆の注目を集めていた。
「世界が安定に向かい、大樹、杠ペアが結婚した今!俺には欲しいものがある!!!!」
「たいてーのもんもう手に入れてんだろうがこんの世界一の欲張りが」
「実際七海財閥、改め龍水財閥が復興した世界のほとんど牛耳ってるもんねぇ。今更龍水ちゃんが欲しいものってちょっと気になるかも」
興味なさそうに耳を小指でほじりながら話を聞く千空と日本に帰ってきた感じゴイスーと苦笑いのゲンを横目に見ながら、私は組んでいた足を組み替え、ワインを口に運ぶ。龍水の欲しがりには慣れたものだし、次は何が欲しいのかなんて興味もない。残り少ないつまみのチーズに舌鼓を打っていると、視線を感じた。顔を上げると、目が合った。
誰と。
龍水と。
「世界にいるすべての女は皆美女で、俺はもちろん全員欲しい」
そんなことここにいる全員知っている。
なぜ、今更そんなことを言うのだ。…私を見ながら。
「その中でも一等欲しい美女がいる」
目力が強すぎて、目が離せない。
きっとそらした方がいいはずなのに。
「それは貴様だ!鵜野葵!!俺は貴様の全てが欲しい!!!」
ビシッと二つの指で指さされ、言われたことが理解できない。呆然としたまま手にしていたチーズはポロッと落ちた。
「えぇ〜!龍水ちゃんが葵ちゃんを?ジーマーで?全然そんなそぶりなかったじゃない!もしかして俺が日本にない間なんかあった?」
「くくく、なんもねえだろ。言われた本人固まってやがるしな」
「あぁ!ない!ロケット着陸後から財閥関係で忙しかったからな。これから口説く予定だ」
「「「えええええー!!!」」」
「龍水が葵に告白!?ニュースにしていいヤツこれ!?」
「龍水と葵が結婚したらまたみんなで大きな結婚式をあげよう!」
「その前に葵さんまだ固まってるから、ちゃんと意思を確認しないと、かな」
「それもそうだな!!」
科学王国民があれこれ言う中、私は言われた言葉を噛み砕いて、ようやく理解した。
「…なんで、私?」
絞り出した言葉がそれだった。
「あ〜」
「まあそうなるよね〜ジーマーで」
「………」
いつのまにか近くにいた龍水が、私を見下ろす。
「決まっている。欲しいからだ!貴様が!」
「いや、答えになってないだろ」
はぁ〜と深いため息をつくと、目の前の龍水が片足をつき座っている私の手を取った。普段絶対に見ることのない上目遣いと、上流階級の身のこなしに少しだけ胸が高鳴る。
「な、なにを、」
「いきなりのことで混乱しているだろう。無理もない。俺は貴様の全てが欲しいが、無理強いするつもりはない」
「な、なら、」
「だが!今貴様は断ろうとしているな?俺と言う人物をよく知らずに断られるのは我慢ならん!」
「…世界一の欲張りで十分でしょうよ」
「「「ウンウン」」」
私がぼそっと言った言葉に周りにいた科学王国民がほぼ全員同意した。
パチン!
空気を変えるが如く、空いている手でいつものように指を鳴らすと、龍水はこれまたいつもの如く笑った。
「はっはー!7日だ!これから俺は貴様を7日間かけて口説き落とす!」
「は、?」
「それでも気持ちが変わらなければ…」
「か、変わらなければ…?」
「日にちを空けて再度口説き落とす!」
「いや諦めろよ!」
思わず突っ込むと、龍水はフッと笑った。
「諦める?俺は世界一の欲張りだぞ。必ず葵を俺のモノにしてみせる。だから、」
「っ!?」
「覚悟しておけ」
手の甲に軽く口付けて、龍水は会場から颯爽と立ち去った。
「な、ななななな、」
「あ〜ジーマーで大丈夫?葵ちゃん」
「なんなんだアイツはー!!!!」
私の雄叫びは娯楽に飢えた女子たちからの質疑応答でかき消えた。…ニュースにするのはやめてもらった。
top