微笑みの仮面劇 | ナノ



決意


次の日、私は学校を休んだ。
その日の真奈美の葬儀は、とどこおりなく進められ、今の時間はちょっとした休憩時間になっている。

真奈美のお母様があのあと学校に連絡したが、イジメがあったことは否定されたそうだ。…あれだけの金持ち学校。マスコミに流しても潰されるだけだろう。

真奈美のお母様はひどくやつれていて、これ以上学校に談判させるのは危険な状態だ。


だから


あとは私が動くしかない


私が−−


「−−−!」
「〜〜〜!」


なんだ?騒がしい…


「おい見たか?跡部のご子息が来ていたそうだ」
「ああ、こんな所に顔を出すなんてな」


跡部さんが…来てる…?


「もう帰る所らしいな」


…っ!!



私は出入り口に向かって走り出す。



「跡部さんっ!!」


見知った背中を見つけて叫んだ。


「天宮…?」
「…はあ…はあ…」


乱れた息を整えて、


「……少しお時間ありますか?」


お嬢様の仮面を取り付ける。





人気のない薄暗い裏庭に入って、跡部さんと向き合うと

「……俺の前でその薄ら笑いやめろ」
「失礼な、営業スマイルですよ」

そんなことを言われた。…薄ら笑いってひどくない?

「はあ…なんでもいい、用件はなんだ」

そんなの、決まってる。

「何しに来たんですか?」

真奈美のイジメの原因であるテニス部の親玉がわざわざ来るなんて。彼女の死を喜んでたテニス部が…何しに来たんだ。

「……俺は生徒会長だ。義務がある」
「義務?よく言うよ、荷担してたくせに」
「…………」
「黙秘、か…そうだよね、どうせ…
「……ねぇ」
「?」
「俺は…やってねぇ」

は…?

「…何言ってるんですか?テニス部のせいで…」
「姫川が仕組んだ事だってわかってる…学校の奴らが騙されてることもな」

…この人は、それだけわかってて…

「…それじゃあ…全部知ってて…傍観決め込んでたって事ですか?」
「………」
「跡部さん…!」
「…ああ」
「…っ!」

感情が抑え切れなくて、跡部さんに突っ掛かる。

「……お前…」
「どうしてよ!!」
「……っ…」
「私だって!!…人の事言えませんよ……彼女の事、気づけなかったんですから…」
「…………」
「でも!貴方はKingなんでしょ!?王様なんでしょう!?」
「…学校の奴らは俺の予想以上に、姫川愛美に依存していた……止められなかったんだ」
「………そんなの…」
「悪かった」
「…いらない……そんな言葉…」

静かに、私の目から涙が伝う。

「……天宮…」
「私が…もっと彼女を見ていたら…こんな……」

何度…悔やんでも、過去が変わらないのは知ってる。

「私がっ!もっと……ぁ…!」

どんどん足に力が入らなくなって、崩れ落ちそうになったとき、跡部さんが私を抱き留めた。

「……離してください」
「どの口が言いやがる、お前が落ち着くまでだ」
「…………」
「…お前は、人のために泣けたんだな」
「…………」
「お前はいつも笑って自分の中に誰も入れなかったじゃねぇか」

…今までの私は確かにそうだ。でも…

「……真奈美の…」
「穂高の?」
「真奈美の笑顔が大好きだった…あの笑顔が私を素直にしてくれた……」
「…そうか」
「初めてですよ…私に友達と呼べる人が出来たのは」

跡部さんは黙って私の話しを聞いている。

「でも、私は”初めての友達”っていう肩書きに酔ってただけだったんです…」

彼女の変化に、気づくことが出来なかった。

「なにも…見えてなかった……」

また涙が伝う。

「泣くな…悪いのは止められなかった俺だ、俺が始末をつける」

そういって私を強く抱きしめる。

「…跡部さんだけじゃ無理でしょう」
「出来ることはやるつもりだ」
「駄目だよ…跡部さん、貴方優しいから丸く収めるつもりでしょ?」
「…………」
「…そんなの、駄目だよ」
「…………」
「私は、”私”が許せない…もう日和見決め込むのは無し」

そうだ。うじうじと私が泣いてたって仕方ない。


「まさか…お前…」

少し緩んだ腕の中から脱出して、



「跡部さん」



彼と向き合う。



「私を推薦してよ、テニス部マネージャーに」








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