微笑みの仮面劇 | ナノ



堕落


人が一人死んでも、世の中は何もなかったように進んで行く。放心状態の体を無理矢理動かし、完璧な営業スマイルを張り付けて…私は学校へ行く。

なにもかもが変わらない。

A組の教室はいつも通りだ。


「−−!」


でも、

もう真奈美は居ないんだ。


「天宮!!」
「!」


気がつくと、クラスの視線が全て私に向いていた。


「どうした?ぼーっとして…お前らしくない」

私らしく…か

「…すみません、朝から体調が悪くて…保健室に行ってきます」
「ああ…気をつけてな」
「はい」

「天宮さん、私付き添おうか?」
「大丈夫、ありがとう」


駄目だな。ここまで精神的にくるなんて。

…それだけ、

彼女が私の中で大きかったんだ。


「失礼します、体調が悪いので−−−」


保健室のベットに滑り込む。

保健室の先生は午後から出張だそうだが、気分が良くなるまでここに居ていいそうだ。…天宮家のお陰か。

程なくして睡魔が襲ってきて、私は静かに目を閉じた。





「ん…んーん!」

うーんよく寝た。頭少しすっきりした気がする。今は…放課後か。本当によく寝たな。


なんだこれ?

上半身を起き上がらせると、隣に何か寝ているのがわかる。布団を退かすと、くるくるの金髪が目に入った。

「…うわぁ」

何この人可愛い。思わず声が出ちゃったよ。でもどうしよう。

布団が退かされてもすやすやと寝ているこの人は、まるで私を抱きまくらのようにして眠ってる。何となく髪に触ってみたくて撫でてみると、気持ち良さそうな寝息が返ってきた。

…可愛いな、これ

寝顔が可愛くなかったら、たたき起こすんだけど…できないな、これは。

途方に暮れていると


「ジロー!!!!!」


すごい大声が保健室に入って来た。


…うるさいなぁ。保健室は静かにする場所だろ。


ザア!!

ベットを区切ってあったカーテンを開けて入って来たのは…

「おいジロ………こんな所で何してやがる、天宮」
「…保健室では叫ばないでください、跡部さん」

樺地君を従えた跡部さんだった。

「…今日は午後から保健室は使えねぇ筈だが?」
「…保健室の先生が好きなだけ居ていいって言ってくれたんですよ」
「………」
「ところで、今の時間部活じゃないんですか?」
「ああ…お前に抱き着いてるそいつを回収しにきた、樺地!」
「ウス」
「あ」

金髪の人は樺地君に抱き上げられ、私は自由の身になった。

「んー樺地ー?ありが…Zzz…」

金髪の人はまた寝てしまったようだ。

「はあ…悪かったな」
「いえ、では私はこれで」

私は身嗜みを整えて、保健室を出た。



「………」

あの人…テニス部か。真奈美がマネージャーだった部活…

でもきっと、あの子の死でわかるはず…

自分達が犯した過ちがどれ程重いか…

これで…


「ねぇ聞いた?あの女死んだんだって!」
「聞いた聞いた!!ざまあみろよねー」


…は?


「愛美をいじめるからこうなったのよ」
「ウケるー!!」


何を言っている?


私は逃げるように走った。


この学校は…そこまで堕ちたのか?
人の死で…感じたものはないのか?


考えたくなくて、


走って…


走って……



ガシャン!!

走り疲れて、フェンスに寄り掛かる。


ここは−−


「なあ岳人、聞いたか?あの女死んだらしいで」


聞き慣れない関西弁。あれは…
跡部さんと同じジャージ…テニス部か…


「は?なんだよそれ!!クソクソ穂高!どうせ死ぬならもっと殴っとけばよかったぜ!!」


なっ…


「でもこれで、愛美先輩が傷つかないですむじゃないですか!」
「そうだな長太郎、これで愛美も安全だぜ」


何言ってんだこいつら


「あー!!みんな何してるのぉー!仲間外れにしないでよぅ!!」


なんだ?この耳障りな金切り声…


「愛美!」
「愛美先輩!」


”あいみ”?
あいつが…姫川愛美。


「朗報やで、愛美」
「どうしたの?」
「穂高が死んだんや」
「え!?真奈美ちゃんが!?」
「自殺だと、激ダサだな」
「そんな…真奈美ちゃんが…」
「あんな奴の為に泣かんでええんやで、愛美は優しいなぁ」
「だって…一緒にやって来たんだよぉ!?悲しいよぅ」
「愛美はいい奴だな!」
「ぅふぇぇん!…………ふふ」


「……っ!!」


私はまた走り出す。



いい奴?ふざけるな!

あいつ…


あいつ…!



笑っていやがった。




「はあ…はあ…」

逃げるように人気のない教室に滑り込む。


教室には、

2−D

と書かれていた。


真奈美の教室…


教室を見渡すと一際目立つ机があった。


「菊の花…」


ゴミだらけの机の上に菊の花が一輪置いてある。


『ばーか』
『死ねよお前』
『きもい』


落書きだらけの汚い机。
中にはたくさんのゴミが入っていた。



「…真奈美……」


私は

彼女の何を見ていたんだろう?


『貴女の事を話す真奈美は本当に楽しそうだったんですよ。貴女のお陰であの子は救われたんだと思います』


違う…


違うっ…


『こんなに素敵な友達が居てよかったわ』


「違うッ…!!!」



私は…



「何もしてないじゃないか…!」



救われた?


違う


それは私の方だ…



私が彼女の笑顔に



救われてたんだろ…?




「…うっ……うう…」



泣くな…
私が泣いたって仕方ないじゃないか




「くそ…」



でも



「ごめん…真奈美……こんなに…」



涙が止まらない



「気づけなくて…ごめんね…真奈美」









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