微笑みの仮面劇 | ナノ
別れ
次の日の朝。
「優様、お電話でございます」
「……電話?」
朝早くに電話が掛かってきた。
「誰?」
私の睡眠を邪魔するなんて、どこのどいつだ。
「穂高様…と」
「…真奈美?」
なんだ真奈美か、なら良しとしよう。
「いえ、御学友ではないかと」
「?…まあいいや貸して」
「かしこまりました」
寝起きの悪い体を起こして電話を受け取る。
「かわりました、私が優ですが−−」
しばらくして
「え?」
寝ぼけ頭を一瞬でたたき起こす言葉が聞こえてきた。
「…真奈美が……死んだ?」
それからの事はあまり覚えていない。無我夢中で車を走らせて。指定された警察署に駆け込んだ。
「真奈美っ!!」
霊安室には真奈美のお母さんらしき人と、青白い顔の、真奈美が横たわっていた。
「真奈美?」
どこか浮世離れした生気のない青白い顔は、とても綺麗で、私の心を落ち着かせてくれた。
「…………」
顔に触れるとひんやりと冷たい。その冷たさは彼女がもうこの世に居ないことを実感させた。
「…もう、笑ってくれないんだね」
私の大好きな笑顔は
もう
この世にない
「自殺なの…マンションの屋上から飛び降りて」
真奈美に似た女性がそう話しながら近寄ってきた。
「…そうですか」
「薄々は…気づいていました、あの子がイジメを受けていること」
「…………」
「でもあの子…笑うから、気づかないフリをしてたんです」
「………私は、気づけませんでした」
笑顔は、とても優しい拒絶。
「もっと、もっと、彼女と関わっていたら…!」
真奈美は生きられた筈なのに…!
「天宮さんのせいではありませんよ」
「……いいえ…気づけなかったんです」
「でも…貴女の事を話す真奈美は本当に楽しそうだったんです。貴女のお陰であの子は救われたんだと思います」
「………」
違う
私は何もしてないじゃないか
「お母様、学校への連絡は?」
「…まだ…今日しようと思ってるの」
「…そうですか…ありがとうございます、真っ先に知らせてくださって」
「当然よ、貴女と話したかったの…あの子にこんなに素敵な友達が居てよかったわ」
「……恐縮です、それであの…葬儀は…」
「…明後日を予定しているの」
「そうですか…ではまた何かあったら、いつでも呼んでください」
「えぇ」
「すいません。動揺しているので、今日はこれで失礼します」
バタン
霊安室を出て走り出す。
どこにぶつけていいのかわからない。
一体なんの感情なのかもわからない。
ただただ
空虚感が包んでく。
あぁ
無力だ。
静かな公園のベンチに座り込む。
「優様」
しばらくして天宮家の使用人が、私を迎えに来た。
「……一人にしてくれ」
「本日、学校は…」
「休む」
「かしこまりました。では車を用意してあります、お屋敷に戻りましょう」
「………」
「優様」
「…わかった」
その日、私は初めて泣いた。