微笑みの仮面劇 | ナノ



信用


「はあ…」

溜め息。出たくなるわそりゃー。
これで一週間だよ。いつの間にか日課になっちゃったよ。

「貴女も飽きないねぇ」

私は隣でうずくまってる彼女に言った。

「…好きでされてるわけじゃないもの」
「そう」
「……ねえ本当に知らないの?」
「何が?」
「…その、私がこうされる理由」
「興味ないなぁ、知らない人の事なんて」
「……一応、高一の時クラスメイトだったんだけど…」
「そうだっけ?それは失礼」
「…………」

彼女は黙ってしまった。それにしても、うーん。
元クラスメイトだったなんて…。失敗したな。

しばらく唸っていると

「…ふふ」

彼女がクスクスと笑い出した。

「何?もしかしてさっきのリンチで頭やられた?」
「ふふふ…違う違う、天宮さん面白いなって」
「はあ?」
「だって、高一の時はいつもニコニコ笑ってたのに、今はすごい不機嫌な顔してる」
「…人の不機嫌な顔が面白いの?」
「え!いや!そういう意味じゃなくて!私の知ってる天宮さんはずっと笑顔で…でも私を助けてくれた後はその、ちょっと不機嫌で面倒臭さそうにしてるから…その…新鮮で」
「………」

そういえばそうだ。私はいつからこの子の前で笑わなくなった?いつの間にかこの子には素で接してた。


私は彼女を見つめて


「どっちがいい?いつもの私と今の私」


聞いてみた。


「え?えっと…」

彼女は少し悩んでからしっかりとした目で私をみる。


「どっちも…かな」
「は?」


まさかの第三の選択肢に私はちょっと驚いた。

「だって、笑ってる天宮さんもちょっと不機嫌な天宮さんも…天宮さんにはかわりないから」
「…………」

成る程。どんな私も私でしかない…か

「ふーん」
「あ!でも私は素の天宮さん好きだよ!」
「…さっき”どっちも”って言ったのに?」
「だ、だからその…私えっと…」

彼女は自分の気持ちを整理するようにあたふたとしてから、私から視線を外して言った。

「もっと皆の知らない天宮さんを見たいっていうか…」
「……………へぇ」

素の自分が受け入れられるって結構良いものなんだね。そうだなー。こんないい思いにさせてくれたんだし、初めて他人事に首をつっこむのも悪くない。

私はお気に入りの木に寄り添いながら座りこんだ。

「天宮さん…?」
「…いい加減、何も知らずに助けるのは飽きたしね。話してよ、リンチの理由」
「え…で、でも…私の話なんて誰も聞いてくれないよ…」
「聞く聞かないは私が決める。貴女じゃない」
「でも…誰も…」

イラ…
ああ!うだうだと!

「うっさい!いいから話せって言ってんの!」
「は!はいぃぃ!!!」

彼女は私の前に正座して話し始めた。
…正座?

「私はD組の穂高真奈美。幼なじみに誘われて高一からテニス部のマネージャーをしています」

…なんで、ですます調?

「人気のあるテニス部のマネージャーだからファンからの嫌がらせは結構あったんだけど…それでもちゃんと仕事してたから嫌がらせは少なくなったんだ。

でも…」

彼女は少し悲しそうに俯いた。

「…………」

テニス部、か。
あーあ…なにやってんだ跡部さん。くそ、これは思ったより厄介そうだ。

しばらくして、彼女は意を決したように私をみて話し始めた。

「あの人が来たの」
「あの人?」
「姫川愛美先輩。忍足先輩の推薦でテニス部のマネージャーになったんだ」

おしたり…おしたり?誰だっけ?まあいいや

「あの人が来た時は、単に可愛い先輩が出来たって喜んでたんだけど…愛美先輩が来てから不可解な事件が起きたの」
「…例えば?」
「…部室が荒らされたり、予備のラケットが切り刻まれてたり、跡部先輩の紅茶が無くなってたり……」

いや最後のは違うだろ。それただ単に使い切ったんだろ。

「部室はオートロックだから内部犯だろうって事になって、不穏な空気がつづいてたんだ……でも」
「……でも?」
「写真…」
「写真?」
「跡部先輩宛てに写真が送られて来たの、私が部室を荒らしてる写真が」
「………」
「でも私はやってない!!」

彼女は力強い目で私を見た。

「やってないの…」
「続けて」
「……跡部先輩も写真だけじゃまだ決めようがないって言ってくれたんだけど…次の日…愛美先輩が傷だらけで登校してきて…わ、私がやったって……!」
「………」
「やってない…やってないのに!!でも誰も信じてくれなくて…私…」
「それで全校生徒から嫌がらせを受けてると」

彼女は涙目になりながら頷いた。

「………」

呆れた。写真なんて今しようと思えばいくらでも偽造出来るのに。

「その写真今ある?」
「…えっと、これ……跡部先輩がコピーしたやつ」
「へぇよく撮れてるね」
「………」

そこには穂高真奈美が机の上の紙をばらまいてる姿があった。

でもこれ、

「机拭いてるように見えるね」
「え?」
「ほら、周りにプリントが散乱してなかったら、机拭いてるように見えるよ」
「あ…」
「ね、見えるでしょ?」
「じゃあこれ…!!」

驚きを隠せない様子で、写真をにぎりしめワナワナと震えてる。

「誰が…こんなこと…」

誰が、か…

「分かってるんじゃないの?」
「……っ…」
「部室が荒らされ始めたのはいつ?予備のラケットが切り刻まれたのいつ?」
「……そ…それは…」
「その人が来てからでしょう?」
「……………」
「わかりやすいじゃないか。被害者ぶってれは、同情はひかれやすいし」
「でもどうして…」
「さあ、それこそ知らないよ」

私がそういうと彼女は黙ってしまった。そして、スカートの裾をにぎりしめながら、こう言った。

「…信じてくれるの?」
「何を?」
「皆私がやったって言ってる。それでも貴女は、信じてくれるの?」
「………」

確かに彼女を包む環境は犯人が彼女だと言ってる。写真。姫川愛美の証言。

でもさ

「してないんでしょ?」

とても綺麗に笑うこの子が、そんな事をするなんて思えない。

「その言葉を信じるよ」

素の私を好きと言った貴女を

「信じるから」


さあ
初めて他人を信じるときだ。
初めて素の私を出したのも彼女だ。
こうなりゃ、とことん初めてを突き通すでしょ。

穂高真奈美はきょとんとしてから、目をうるわせ

「…ありがとう……信じてくれて」

そう言って笑った。


うん、私の好きな笑顔だ。








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