微笑みの仮面劇 | ナノ



六角にて2


次の日

俺にだって策がないわけじゃあない。

まず俺のギャグで笑わせて、その隙にこの入部届けにサインをさせる…

完璧、完璧な計画。

では早速…


「窓を開けたらマドンナが居た…プッ…」











「おはよう、天根君」

朝っぱらからダジャレを言ってきた天根君。仕方ないから挨拶で軽く流す。

「…ああ、おはよう」

天根君は残念そう手帳に書き込みながら、私に挨拶をしてくる。

この人は本当に飽きないな。ここがいつもの浜辺なら無表情で「つまらない」の一言でも言ってあげるが、生憎ここは教室。笑顔の仮面は崩せない。

「何か用?」

挨拶が終わったにもかかわず、私の前から動かない天根君。

「……………」

彼は黙ったまま私を見つめ…

「うちのマネージャーに…
「却下」
「…………」

またか。昨日に引き続き、何がしたい。

せっかくクラスの女の子達と仲良くなってきたのに、こんな理由で壊したくない。…大体テニス部のマネージャーなんて、いい思い出がない。

「今まで居なかったマネージャーを、どうして今更探してるの?」

朝独特のクラス内のざわめき。これなら何を話しているのかなんてわからないだろう。

「大体、なりたい子なんていっぱい居るのに、なんで私なんだか」

どこのテニス部も同じ。
顔良いよね。

「…それが問題になっているんだ」
「どういうこと?」

天根君は成り行きを話し始めた。



『…まずいね』
『…まずいのね』

レギュラー達の前にはフェンス越しに見える女子生徒達。

『…まさか、あれからこんな事になるなんて』

事の発端は先週、一人の女子生徒に一日マネージャーを頼んだことが始まりだった。

『佐伯くーん!私をマネージャーにしてー!!』
『ちょっと!私がなるの!!』


『…………』

こんな感じで女子生徒達の間に抗争が起こってしまった。

それはもー凄くて、罵声が飛んだり、物が飛んだり、騒がしくて仕方ない。

この事態を治めるために、新たにマネージャーを設けよう!ということになった。

しかしどの生徒にしても暴動は避けられそうにない。

が、ある生徒が浮かんだ。

何も知らない転校生なら!実家が金持ちのお嬢様なら!

女子生徒達も納得するかもしれない!



「…というわけだ」
「…成る程、それで最近女の子達がギスギスしてるのか」

マネージャーが欲しいことはわかった。

「…で、なんで私なの」

私である必要がわからない。

「だから転校生で、お嬢様で、」
「ていうかさ、マネージャー志望の子集めて交代制でやれば良いじゃない」
「…うまくいくと思うか?」

「いいや。全然」

「…お前、他人事と投げやりになってるだろ」
「実際他人事でしょう」
「…地が出てるぞ」
「顔は笑顔だから大丈夫だよ」
「………………」
「…じゃあ、男マネージャーって言うのは?女より暴動ないと思うけど」
「………試したんだが…」
「…まさか」
「女子生徒達全員にいびられ、現在休学中だ」
「……どこのテニス部も変わらないな」
「ん?」
「こっちの話」

話を無理矢理終わらせれば、天根君は「そうか」と追及しなかった。

「とにかく、そんな面倒な役職嫌だから」

私がそういうと、もう朝のHRの時間になったようで、担任が入って来た。

「ほら、HR始まるよ。天根君」

彼はしばし考える様な表情をしたあと、私を一瞥し、笑った。

…笑った?


「なに!?天宮!テニス部のマネージャーになってくれるのか!?」


「!?」

あろうことか、天根君は大声でそう言った。


「えー!!天宮さんが!?」
「うそー!抜け駆け!?」


ま、まずい…女の子達の視線が痛い。

「…あ、天根君。申し出はありがたいけど…

「そうか!ありがたいか!!では今日の放課後からよろしく!!!」


「っ!」

天根君は颯爽と教室から出て行った。
言い逃げ…!?


「天宮さん!どういうこと!?」
「抜け駆けなんてずるい!!」

「……………」

このテンションの彼女達に何を説明しても無駄というもの。私はにこやかな笑顔を貼付けたまま、密かにため息をついた。












あれから先生達総動員で、事態は収拾した。そしてあっという間に私の事が学校中に広まった。

「…貴女が天宮さん?」
「はい、そうですが」

放課後
さっさと帰ろうとしたら、先輩のお姉様方に捕まった。

「…これからテニス部の部活よね?」
「断りに行くところです」

少しは話が出来ると判断し、私は先輩方と対峙する。

クラスには男子生徒はおらず、女子生徒のみ。…まずい。四面楚歌とはこのこと。

「…私、頼みがあるの」

リーダー格の先輩が、私を見てくる。
…マネージャーやめなさい、かな。

「……………」
「……………」

しばしの沈黙。

やがて、


「お願い!マネージャー引き受けて!!」


「は?」

予想外の言葉に、思わず地が出た。

「私、生徒会長なの!いい加減このくだらない茶番を終わらせたいのよ!」
「私、風紀委員長!もう校長に怒られるのは勘弁!」
「私、会計!このままだと生徒会経費が減らされそうなの!!」

私に詰め寄った先輩方は泣きそうな勢いでそんなことを言った。

…いや、そんなこと言われても。

「あの、先輩方?私はマネージャーのお仕事とか出来ませんし…休学なさっている方も出ているんですよね?私には荷が重いです」

完璧な営業スマイルでそう言うが、

「大丈夫!要するにマネージャーが居るっていうことが重要だから!」
「いえ、それでは申し訳ないですし…」

先輩方には通じない。

「さっき、女子全員で話し合ったの。みんなも収拾をつけたいみたいで…マネージャーは転校生の貴女にお願いする!ってことが決まったの」

いやいや…だったら誰もならないって選択肢は生まれなかったんですか。大体女子全員って、私呼ばれてないです。

「お願い!やめないで!」

クラスに居るすべての人が私を見る。

「……………」

激しく断りたい。ただでさえテニス部関係だ。

でもここで断ったらもっと面倒な事になるだろう。

「……………」

私は心の中でため息をつき、営業スマイルを貼付ける。


「皆さんがそう言うのであれば引き受けますが、私が相応しくないと思われましたら、すぐおっしゃってくださいね」


先輩方の顔はパッ!と明るくなり、何故か拍手が起こった。

…学校での株が上がった、とポジティブに考えておこう。





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