微笑みの仮面劇 | ナノ
六角にて1
夕日に染まる地平線。
広大な海が目の前に広がっている。
「…………」
砂浜と一般道路の境目。ハンカチを一枚引いて、日傘をさして、私は座っている。
海風が冷たい。潮風って顔とかベトベトになるんだよね。それが悩みちゃー悩み。
「…冷たい」
海風に当たり過ぎたのか、手で顔を触れば冷たくなっていた。そろそろ執事長が帰るようせかして来る頃だろう。
「…天宮さん!」
そう思っていたが、聞こえてきた声は想像とは違う声だった。
「?」
顔をあげれば、坊主頭の少年が目に入る。…この子は確か、テニス部の…
「ボクはテニス部一年生部長の、葵剣太郎です!」
ああやっぱり。
横目で見れば、プレハブ小屋の様な部室の脇からこちらを覗くテニス部員が見える。
「テニス部部長が私に何か用?」
「いや、あの、た、頼みたいことがありまして…」
「お断りします」
「えっ!?…ま、まだ何も言ってないのに…」
テニス部に関わると面倒な事しかない。以上。
「…くぅ…よ、よし!ここで断られたら女の子と一生デート出来ない…!よし!いける!!」
「?」
何をぶつぶつと…
葵君は独り言を呟いたあと、力強い目で私を見てきた。
「テニス部のマネージャーになって下さい!!」
「却下」
「即答!?」
マネージャー?絶対やだ。面倒以外の何物でもない。
「そ、そこをなんとか…!!」
「ごめんなさい、今、忙しいから」
「いつも海見てるだけなのに!?」
「うん」
にこやかな笑顔でそう言えば、葵君は言葉に詰まった様子で黙った。
「優様」
ナイスタイミング。
「執事長から、お屋敷に戻るようにと」
「わかった、柏木」
後方からの声に答えて、私は葵君に向き直る。
「というわけで、この話はこれで終わり。貴方達のマネージャーなんてなりたい子いっぱい居るんだから、他をあたりなさい」
立ち上がりながらそういえば、後ろから「…うぉー…デートがあ…!」という謎の言葉が聞こえた。
…デート?
一方浜辺
天宮の乗ったバンが発車して、「デートがぁ…!!」とか言いながら頭を抱える剣太郎を見る。
「…だから真正面からは無理だって言ったんですよ」
俺の言葉に、バネさん達は腕組みをしながら思い思いの事を言い始めた。
「でも、まずは一回部長が堂々と頼みに行くのがセオリーだろ?」
「そう言うならサエも一緒に行けばよかったのね」
「確かに副部長だもんな」
「…樹っちゃんにバネ…わかった。次は俺がいってくるよ」
「でもさっきの様子だと、ただ頼むだけじゃきっと断られるだろ」
「樹っちゃんが料理作って勧誘は?」
「俺が秘蔵のドリンクを−−
「「「それは却下」」」
「でも樹っちゃんの料理って案はいいんじゃないかな?」
「食べ物で釣られるとは思えないのね」
「「「うーん」」」
全員で腕を組み、唸る。
ふと、バネさんが顔を上げて俺を見た。…まさか
「そう言えばダビデ、お前彼女と同じクラスだよな?」
「まあ、そうスけど」
「よし!次お前が行ってこい!」
「えぇ!」
「そうだね。剣太郎は相手にされなかったけど、クラスメイトなら話を聞いてくれそうだよね」
「ちょ、サエさん!」
「よし!じゃあこれで解散!!」
「え、えぇー!?」
俺の叫びは、夕焼けに消えた。
「デートがぁあぁ……」
ついでに剣太郎の叫びも消えた。