微笑みの仮面劇 | ナノ
終焉
コツ…コツ…
静かな夜に、靴音だけが響く。
これで、終わった。
姫川愛美は居ない。先輩達も正気に戻った。天宮のおかげで…
だが、これでいいのか?
胸騒ぎがする。
この胸騒ぎはなんだ。
『お前は…歪んでる』
“俺には今のあいつが、死に場所を求めてもがく、手負いの猛獣にしか見えなかった”
………。
『…私はね、わからせてあげたいんだ』
『自分達がいかに重いことをしたのか。いかに取り返しのつかないことをしたのか』
あいつの目的はなんだ?
わからせることだ。罪を認めさせること。
じゃあ全て終わった今、あいつは?
“死に場所を求めてもがく、手負いの猛獣”
ああ、まずい。
俺がの予想が正しければ
天宮は
死ぬつもりだ。
満天の星空。
静かだ。とっても静か。
ああ、綺麗。
まるで…
『この星空に、誓うから』
あの日みたい。
『これから私がすることに手出ししないで下さいね』
笑うな。そんな笑い方をしないでくれ。
『貴方達はやっと気づいたんだよ。自分達が一体何をしたのか、どれだけ重いことをしたのか。その罪から逃げることは許さない。あはは!可哀相!一生その罪を背負って生きていくのよ!あはは、あははははは!!!!』
やめろ。そんな笑い方はお前には似合わない。
『繰り返すんですよ。真奈美がされたことを再現するんです。殴られて、蹴られて、無視される。ね、跡部さん。私はそれを全部受けなきゃ。私は彼女の“友達”なんだもん』
違う。そんなもんは友達なんかじゃねえ!
目的を果たしたあいつは次に何をする?
クソ!最悪の結末しか思いつかねぇ!!
コンコン…
「景吾様」
ノックのあと、俺の部屋に使用人が入って来た。
「なんだ!」
「実は天宮家から−−−−」
!!
クソ!!
「出かける!至急車を出せ!!」
「かしこまりました」
“優様が行方不明と”
見下ろす下界は、街灯がスパンコールのようにキラキラしている。
なんて綺麗なんだろう。
車を走らせ、俺はある場所に向かう。
あいつはきっと…
ピピピピー
電話が鳴る。ディスプレイには“日吉若”の文字。
「俺だ」
「跡部さん!天宮が…!」
「ああわかってる。今向かってる」
日吉はその一言で全てを悟ったようだ。
「…跡部さん。俺は、天宮を助けられませんでした」
「…ああ」
「でも俺は…もう人の死なんて見たくないです」
「ああ」
「他人任せですみません、でも…
「大丈夫だ」
『…お前が覚悟を決めたんだ。俺も、同じ過ちは二度と繰り返さねぇ……俺がお前を守ってやる』
「俺は、もう二度と同じ過ちを繰り返さねぇ…!」
「風が気持ちいい」
誰も居ない学校の屋上に、私はいた。
今日で全てが終わった。姫川愛美を豚箱に押し込み、レギュラー達には罪を自覚させた。終わったんだ。私のすべきことは終わった。
でも足りない。
身体中に出来た痣や傷痕を見る。
足りない足りない、まだ足りない。
わかってたよ、こんなことしてもあの子の笑顔は見られないことは。でも大丈夫。これから見られるよね。
落下防止の柵にしては少し低い柵を乗り越えて、屋上の縁に立つ。いい眺めだ。
「私も今から行くからさ」
足を一歩踏み出そうとしたとき…
「…真奈美?」
目の前に、真奈美がいた。
どうしてそんな悲しそうな顔をするの?
どうしてそんな辛そうな顔をするの?
真奈美には笑ってて欲しいのに。
どうして
どうして笑ってくれないの?
真奈美は今にも泣き出しそうだ。
私は笑ってほしくて、真奈美に手を伸ばす。
「天宮!!!」
あ…
振り向けば、肩で息をした跡部さんがそこにいた。
「跡部…さん、」
跡部さんはカツカツと私の方まで来て、逝かせまいと腕を掴んできた。
「どうして、ここが…」
「学校で自殺者が出れば、穂高の虐めも学校は無視出来ない。違うか」
「あはは…なーんだ。バレちゃってたのか」
やっぱり跡部さんには敵わないなー
「笑うな」
「え?」
気づいたら、私は跡部さんの腕の中にいた。
「…もう、笑うな。なんでも一人で溜め込むな。無理して、笑うんじゃねぇ」
制服越しに跡部さんの鼓動が聞こえる。
「お前が死んだって、穂高は戻らない。お前が傷ついたって、穂高は喜ばない。お前に出来ることは…!!」
強く、強く、跡部さんは私を抱きしめる。
「今を生きることだろ!!」
その言葉に、私は泣いた。
泣かないと誓ったあの日以来だった。
夜空はあの日のように、星がキラキラと輝いている。
空で真奈美が、優しく笑った気がした。
そう、私の大好きな笑顔で
−−−
柵は優ちゃんの腰の上くらい。
落下防止の柵にしては低いですが、まあフィクションなので←