微笑みの仮面劇 | ナノ
終演
「な、なによ、これ…!」
放課後。姫川愛美の呻きがコートに響いた。
「なにって、写真だけど?」
彼女の目の前には天宮。彼女の周りには忍足さん達。天宮の周りには跡部さんや俺、少し離れたところに滝さんと芥川さんがいる。
天宮の手からバラバラと落ちるのは、姫川愛美が写った写真達。自分の机に落書き、自分の鞄にゴミを詰める…その他諸々。自作自演の裏側だ。
「………あ、愛美…」
写真をみた忍足さんは辛そうな声をだす。他の人達も信じられない様子で固まった。
「こ、こんなのでっちあげよ!!私を陥れるための…!!」
「でっちあげなんかじゃないCー」
「え…?」
いつの間にか近くに来ていた芥川さんと滝さんが天宮の隣に踊り出る。そして、芥川さんはポケットから数枚の写真とボイスレコーダーを出した。
「その写真は俺と滝と跡部天宮両家の使用人がとったんだよ」
「ボイスレコーダーもあるけど、聞くかい?」
ボイスレコーダーを軽く振りながら、滝さんは言う。
「…っ!!」
「愛美…なんで嘘なんかついたんや…」
「わ、私はっ!!嘘なんか…!」
「これだけ証拠があがってるのにまだ足掻くの?」
「アンタ…!!」
天宮が馬鹿にしたようにそういうと、姫川さんは目を見開き逆上した。
「大体アンタのせいよ!!アンタが来なければ!全てうまくいったのに!!」
「…………」
「穂高真奈美のときも!私は!私は神に愛されたヒロインなのよ!?全て許されるのよ!!なのに!これはなんなのよ!!」
姫川は狂ったように叫ぶ。
俺はただひたすらに、その様子を哀れに思った。
俺達は、こんな女に躍らされていたのか。
真奈美は、こんな女のために死んだのか。
そう考えると虚しくてしかたない。
「言いたいことはそれだけ?」
天宮の冷めた声が響く。
「神に愛された?馬鹿馬鹿しい。自分で言ってて恥ずかしくないの。ああ、でも大丈夫か。貴女はこれから素敵なところに行くのだから」
「は…?」
天宮がそう言うと、学校の敷地内に一台の車がやってきた。車はコート近くに止まり、中から刑事らしい男二人が出て来た。
「姫川愛美さん、ですね?」
「な、なに…なんなの!?」
「窃盗容疑が掛かってます。御同行お願いしますね。はいこれ、礼状」
「なっ…!?」
「ど、どういうことだよ!!」
「そうや!愛美が何を…!」
「彼女はね、穂高真奈美さんの預金通帳を盗み、金をおろしたの。立派な犯罪者だ。友達を信じたいのはわかるが、物的証拠もあるし、証人だっている」
「「!!」」
「わ、私そんなことしてない!!!」
「犯人は皆そう言うんだよ。あとの話は署で聞くから」
「い、いやあああああ!!!」
姫川は車に連れ込まれ、その車も直ぐに発車した。
残された俺達の間には沈黙が流れる。
「ま、その証人て私なんだよね」
その沈黙の中、天宮は楽しそうにそう言った。
「え…?」
「天宮にかかればこんなもんか。物的証拠もでっちあげ。証人もでっちあげ。あはは、警察もちょろいもんねぇ」
「お、お前…!!」
「うるさいなー何も見えてなかったお馬鹿さん達は黙ってなよ。誰が姫川愛美の写真しかないって言った?」
「!!」
「よく撮れてるよ。くっきりと。私のこと楽しそうに殴る蹴る貴方達の姿が」
「……っ…」
天宮はひらひら写真を忍足さん達に見せつける。
「まあ安心して。私も君達テニス部が活動停止になるのは困るから」
「!」
天宮は一瞬俺をみた。
『…元の部活に戻したい。それが、俺からあいつへの罪滅ぼしだと思うから』
…そうか、ここからは、俺の仕事か。
天宮は俺達に向き直り
「跡部さん、滝さん、芥川さん、それから日吉君。ご協力ありがとうございます」
軽く頭を下げる。
俺には、礼を言われる理由がわからなかった。横を見ると、跡部さん達も苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。これで、いいのだろうか。
そんなことお構いなしで、天宮は踵を返す。
すると
「すまなかった!!」
宍戸さんが帽子を脱ぎ捨て、天宮の前に飛び出した。
「悪かった!今まで、お前に酷いこと…
「何を勘違いしているんですか?」
「え…」
天宮はどす黒い闇色の瞳で宍戸さんを見る。
「私、謝って欲しいなんて言いました?言ってませんよ。貴方達が謝るのは別の人。私じゃない」
「…あ……」
宍戸さんの、いや、虐めに関わったレギュラー達の顔が青ざめてゆく。そう、天宮が指してる人物は…
「穂高…」
宍戸さんがそういうと、天宮は嬉しそうに顔をほころばせる。
「あははははは!!そうよ!貴方達が謝るのは私じゃない!真奈美よ真奈美!でも残念。貴方達のせいで真奈美はこの世にいない。どんなに謝っても許しの言葉なんてもらえないよ!どうするの?貴方達はどうやって彼女に罪を償うの?毎朝真奈美のお墓にお花でお供えする?それとも真奈美のお母様に土下座でもする?駄目よ真奈美のお母様からは許しの言葉を得られるかもしれないけど、真奈美からは得られないもの!!当たり前よね?貴方達がそう仕向けたんだから!!」
天宮は今までにない生き生きとした様子で言う。
「ゆ、許されんことをしたのはわかっとる!ただ俺達は…!!」
「貴方達のソレは自己防衛よ。たとえ許されなくても、謝るという行為をすることで自分を罪の意識から逃がしてる。ただの偽善者」
「!!」
「貴方達はやっと気づいたんだよ。自分達が一体何をしたのか、どれだけ重いことをしたのか。その罪から逃げることは許さない。あはは!可哀相!一生その罪を背負って生きていくのよ!あはは、あははははは!!!!」
静かなコートの中央で天宮は笑う。ケラケラ笑う。
狂ったように、笑う。
「天宮!」
跡部さんは悲しそうな顔をして天宮を呼んだ。天宮は笑うのをやめ、跡部さんを見る。
「大丈夫だよ跡部さん。これで私の余興は終わり。あとは日吉君と跡部さんの仕事でしょ」
「…天宮」
「じゃ日吉君、頑張ってね」
天宮はそう言ってコートから出て行った。それを追うものは、誰も居ない。
「…………」
『…元の部活に戻したい。それが、俺からあいつへの罪滅ぼしだと思うから』
『君は君のしたいようにしなよ』
『あとは日吉君と跡部さんの仕事でしょ』
『じゃ日吉君、頑張ってね』
…そうだ
ここからは俺の仕事。
「忍足さん」
俺は忍足さん達に向き直る。
「俺達は、許さないことをしました。俺もただ見てただけ…他人のことは言えません。だからせめて…」
レギュラー達は俺の話を静かに聞いている。
「テニスをしましょう。それが俺達から真奈美に出来る罪滅ぼしです」
静かなコートに、俺の声は響いた。
−−−
あれ
跡部君よりのはず…
日吉君よりっぽいな笑
関西弁はわかりません←
他人と書いて、ヒトと読む。