微笑みの仮面劇 | ナノ






毎日は平然と過ぎてゆく。昨日も今日も、多分明日もそれは変わらない。

「おはようございます」

私はいつものように部室に入る。すると、跡部さん以外のレギュラーが勢揃いしていた。

珍しい。この時間はいつもコートにいる日吉君もそうだけど、ソファーで寝ているだけとはいえ、芥川さんまでいる。

「天宮」
「おはようございます、忍足さん」

そう思っていると、いつものように忍足さんが私に話し掛けてきた。このあと起こることはもう決まってる。さあ、姫川が演じた私は、いったい何をしたの?

「自分、学習能力ないんちゃう?」
「人並みにはあると思いますよ?」
「愛美のバックにゴミ仕掛けたらしいやん」
「さあ、なんのことだか」
「…その顔、ホンマいらつくわ…ぐちゃぐちゃにしてえぇ?」
「どうぞ」
「…むかつくやっちゃなぁ」

その言葉と同時に、蹴りが腹に入る。

ああ痛い。

それを合図に他の人達も参加する。
殴って蹴っての繰り返し。

でもこれだけ?

馬鹿の一つ覚えみたい。…ああ、そうか。“みたい”じゃなくて、こいつら馬鹿だったね。…あれ?


「!」


向日さんと目が合った。

殴らないの?蹴らないの?いつものように参加しないの?

向日さんはただ私を見てる。フラフラしながら私も向日さんを見る。

すごい眉間のシワだ。

悩んでる?もしかして。でももう


遅いよ。


「考え事なんて、余裕ですね」
「!」

鳳君の拳が、頬を打つ。
…口の中が切れた。血の味がする。

「この女はいつだって余裕だろ、長太郎。気色わりぃ笑い方しやがって」

宍戸さんの足が腹にのめり込む。
…吐きそう。胃液が逆流した。

でも大丈夫。痛みこそが全て。
真奈美が受けたもの全て受けなきゃ。

そう思うと自然と笑みがこぼれる。


「その笑いが気味悪いんや…!!!」


忍足さんは手を振り上げた。

ああ、これはやばい。
顔面にもろ入る。
鼻折れるな。きっと。
痛いかな?痛いならいいか。


時間がゆっくりと流れた気がした。


手が振り下ろされる。


スローモーション映像みたい。


振り下ろされる手をジッと見ていると
視界の端に、人影がうつった。


ああ、君が動くのか…


パシッ


渇いた音と共に、忍足さんの腕が止まる。


「やめませんか」


冷静な声が、部室に響いた。









そうだ。ただ見てるだけなんて、それこそ一番の偽善者だ。
俺はもう、偽善者にはなりたくない。

「なんや日吉。この女の肩を持つ気かいな」
「…見るにたえませんよ。寄ってたかって一人の女に何をしてるんですか」
「愛美を虐めたからに決まってるやろ」
「それを誰か見たんですか」
「愛美が嘘つくわけねーだろ!」
「…真奈美のときもそうでしたね。揃いも揃って馬鹿だらけだ」
「なんやと…!?」

忍足さんが、俺に向かって腕を振り上げる。俺はとっさに古武術の型をとるが……

「うぐっ…!!!」

横から飛んできた拳が、忍足さんを殴る方が速かった。


「あー痛い。人を殴るのって殴る側も結構痛いのね、覚えとこ」


忍足さんを殴った人物、満身創痍の天宮が涼しい顔でそう言った。忍足さんは少しよろいたあと、天宮を睨みつける。

「……自分、覚悟できとるか?」
「覚悟?覚悟するのは貴方達の方だよ。馬鹿じゃない?長年一緒にやって来たんでしょ?その後輩を殴るの?あはは、なんて滑稽」

天宮は俺と忍足さんの間に立ち、いつもより低い声でそう言った。

「君達が殴るのは私だけ。他の人を殴るのはお門違いでしょ?しかも、自分の後輩なんて、流石、どこまでもクズだな」
「なっ…!!」
「その足りない頭をフル回転させて考えなさいよ。貴方達は、私が姫川愛美を虐める現場を見たことがある?ないでしょ?当たり前よね。だって初めのドリンク以外、私は手をだしてないんだから」
「あ、愛美が嘘つくわけねーだろ!!」
「へー…朝練に来ないマネージャーを信じて、殴られるとわかってても朝練にくるマネージャーは信じないの」
「…っ!!」
「あーあ、興ざめよ。今日の部活まで時間をあげる。さあ、ゆっくり考えなさい。今日で全てが終わるから」

天宮はそう言って、笑った。
どす黒い笑顔だ。

忍足さん達は天宮を恐れるように部室から出て行き、残ったのは終始寝ていた芥川さんと俺、そして天宮だ。

「日吉君」

天宮が俺を呼ぶ。

「まさか君が動くとは思わなかったよ」
「…………」
「手出し無用って言ってあったのにね。まあ一応お礼は言っておくけど。ありがとう」
「…俺は…
「あーあ。せっかく邪魔が入らないよう生徒会に仕事増やして、跡部さん来れないようにしてたのに。まさか日吉君が動くとはね」
「!」

跡部さんが最近部活に来なかったのは天宮のせい…なのか?

「まあいいか。ちょうど潮時かなとも思ってたし。あ、そうそう日吉君」

天宮は俺に向き直った。

「前に、“歪んでる”って言ったよね?」
「あ、ああ…」
「あのあと少し考えたんだ。確かに私は歪んでると思う。でもね

馬鹿の言葉を鵜呑みにして

暴力しか脳のないあいつらの方が

歪んでると思わない?」

「…………」

その言葉に、俺は何も言うことができなかった。




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びっくりするくらいジロちゃんと滝さんが空気
すいません







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