微笑みの仮面劇 | ナノ






あれから一日経った朝。

「天宮」
「ああ、おはようございます、忍足さん」

天宮は何事もなかったように朝練に来た。忍足さんの後ろには、冷めた目をした向日さんがいる。

「……自分、あのあと愛美に脅迫電話かけたらしいやん」
「さあ?なんのことだか」
「そのすまし顔、いつまで続くか見物やな」
「来い」

俺はこのあと何が起こるか、知っている。真奈美のときと同じこと。にもかかわらず止めに動けなかったのは、連れていかれる天宮が笑っていたからだと思う。その笑みは、まるでこれから起こることを楽しみにしている表情…そのものだった。


しばらくして、忍足さんや向日さん、宍戸さんと鳳がコートに帰ってきた。ちなみに跡部さんは生徒会の用事で居ない。芥川さんはあいかわず寝ているし、滝さんは興味なさそうに練習を続けている。俺は忍足さん達に気づかれぬよう、その場をあとにした。


部室裏の茂みに、ソレはいた。綺麗に着込んでいたはずの制服は土がつきボロボロで、腹を抱えるようにソレは倒れている。

「…天宮」
「…ああ、日吉君か」

声をかけると、思ったより陽気な声が返ってきた。身体を動かし、俺の方に顔を向ける。その美しく整っていた顔は血と泥で汚れ、所々腫れ上がり、醜くなっていた。

「何しに来たの?ああ、殴りに来たならちょっと待って。今立ち上がってあげるから」

まるで日常会話のような口調で話す天宮。ゆっくりと身体を起こして、俺の前に立つ。

「さあ、どうぞ?」

天宮はにっこりと笑う。

「…俺は殴りに来たんじゃない」
「あら、そうなの?それは残念」

本当に残念そうに天宮は肩をすくめた。

「…謝りにきた」
「は?」
「…俺は、また真奈美のときと同じことを繰り返した。それを謝りにきた」
「……………」

天宮は制服についた泥を振り払いながら、少し考えるような素振りをみせる。

「…それってつまり、止めに入れなくてごめんってこと?」
「ああ」
「ふーん。まあ好意は受け取っておくけど、いらないよ、それ」
「は?」
「前に言ったよね?口ださないでって。今回は未遂だから許してあげるけど、今後、私のシナリオ変えようとしたら許さないよ。君はただ見てればいいの。君の仕事は、私の劇が終わったあとから始まる。だから、しばらくはこの余興に付き合って。楽しまなきゃ損だよ?」
「…………」

歪んでる。

この女は歪んでる。

にこにこしながら言う言葉じゃない。自分を殺すつもりなのか?わざわざ自分を殴らせようとしたり、普通じゃない。

「ほら、早く練習戻りなよ」
「お前は…」
「?」



「歪んでる」



「…褒め言葉として受け取っておくよ」

俺がそう言うと、天宮は笑いながらそう言ってその場から消えた。









「歪んでる…ねぇ」

そうなのかな。自分じゃわからないけど。

鏡を鞄から取り出して、自分の顔を見る。ああ醜い。でもこのぐらいじゃまだまだ。もっと、もっと…あの子はもっとひどい痛みを受けたのだから。

「ああ、痛みが欲しい」

さあ、殴りなさい。蹴りなさい。何してもいいよ。まあ自分で自分の首を絞める事になるけどね。

「ねぇ、上手く出来た?」

私がそう言えば、どこからともなく天宮の使用人が出てくる。

「はい、優様」
「へぇ綺麗に撮れてるね。才能あるんじゃないの?」
「…優様…」
「なに?」
「…私は、優様のお体が心配でございます」
「まあ好意は受け取っておくけど、仕事はしてね」
「…………」
「返事」
「…かしこまりました」

私の手の中には、数枚の写真。先程の部室裏の写真だ。うん、よく撮れてる。ね、自分の首、締めてるでしょ?

「執事長に新しい制服とメイクスタイリストを用意するよう言って」
「かしこまりました」

ほら、びっくりしない?さっきボコボコにしたはずの人間が元通りになってたら。あははは。面白いでしょ?


あれ?

もしかしてこれが


歪んでる?







さすがプロのメイクスタイリスト。顔の腫れまでカバーするなんてすごいね。

何事もなかったように2-Aの教室に入り、席に座る。すると、一人のクラスメイトが近づいてきた。

「あの…天宮さん、姫川先輩虐めてるって本当?」

見ればクラス中の視線が私に集まっている。なるほど、もう広まってるのか。動くときは速いのね、姫川愛美。

「虐め?」
「う、うん。ドリンクかけたり、脅迫文送り付けたり…今朝は靴に画鋲が入ってたみたい」
「ふーん。じゃああなたたちは、そんな低レベルなこと私がすると思ってるんだ」
「え!い、いやそうじゃなくて…その確認、みたいな…」
「優柔不断」
「え」
「貴女それでも氷帝生?人に聞いたり噂に流されてちゃ、上に立つ人間にはなれないよ」
「そ、それは…」
「自分で決めなさいよ。誰についたら自分が得か。経済力、人脈、全てを考慮して選びなさい」

クラスは静かに私の話を聞いている。


「でもまあ…ドリンクかけたのは本当だけどね」


「…………」

「ほらほら、突っ立てないで席についたら?授業始まるよ」

私がいつもの笑顔でそう言うと、クラスメイト達は自分の席へ戻っていく。

あーくだらない。自分でモノ考えない奴が多すぎる。周りに流されて自分もそうするとか、虫ずが走るな。馬鹿なテニス部の方がまだマシに思えてきた。これが終わったら転校でもするか。場所は…そうだな…海が見えるとこがいいな。あ、でも関係ないか、だって私は…










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