微笑みの仮面劇 | ナノ
掃除
次の日の朝、私は朝練に来ていた。
姫川愛美は来ないそうだ。なんでも、始発がないだとか。バカバカしい。そんな遠くから来てるのか。普通に考えてありえないな。
さてと、
「じゃあ、それ中に運んで下さい」
「かしこまりました」
洗濯乾燥機が届いた。
もちろん自腹で私が買ったモノ。
それを部室に運んでもらったあと、私は部室を見渡した。跡部と榊が共同融資して改装した部室…運動部だからもっと汗くさいと思っていたけど、そうでもなかった。
このほのかに香るのは…香水かな。つーことは姫川と跡部さんか。…香水ってつけすぎると臭いよね。
綺麗に整頓された部室。
でも、
「…ほこり」
窓の縁を指で擦ってみたら、案の定、指にほこりがついた。ぱっと見は綺麗だ。でもよく見ると、至るところにゴミが落ちている。
…これもマネージャーの仕事、か。
面倒臭い。果てしなく面倒臭い。おい姫川仕事しろ。えーじゃあ何、私がココ掃除するの?これでも私お嬢様だよ?あーあイヤすぎる。
私はおもむろに携帯を取り出して、電車をかける。
「もしもしこんにちは、クリーンセンターですか?掃除を一件お願いしたいんですが……
そこまで言って、携帯が私の手から離れた。
…あ。
「わりぃな。間違い電話だ」
ピッ!
私の携帯をとった人は、勝手にそう言い電話を切った。
「…携帯、返して下さい。跡部さん」
私がそういうと、跡部さんは睨みながら私を見た。
「お前な、どこの世界に部室の掃除を業者に頼むマネージャーが居やがんだ?アーン」
「ここに居ますよ」
「人の揚げ足を取るんじゃねー」
跡部さんはイライラしながら携帯を投げ、私に返した。
「でも跡部さん。ほらこんなに汚いんだからプロに頼んだ方が得策ですよ」
「てめぇでやることに意味があんだよ」
「あーはいはい。わかりました」
いいですよ、今度使用人連れて来るから。
「わかってると思うが、使用人もナシだ」
「………………………」
何故バレたんだろう。
放課後
「姫川さん、ちょっとよろしいですか?」
「え?天宮さん?」
私がみんなに応援を送っていると、天宮さんに話し掛けられた。黙ってついていくと、部室についた。
「これ、引いてください」
「う、うん」
差し出された二本の割り箸。片方を引き抜くと、“雑巾”と書いてあった。なにこれ。
「では姫川さんは雑巾で窓の縁とか床とかふいてください。私は“箒”でしたので、床を掃きます」
「え、え!?待ってよ!掃除するの!?私この前したよ!?」
「この前っていつですか?細かいゴミが残ってます。隅々まで綺麗にしましょう」
「で、でも!私応援しなきゃ…
「応援は外の女子生徒達がしますよ。ドリンクも作った。洗濯は乾燥機の中。さあ、余った時間は掃除しますよ」
「………………」
じょ、冗談でしょ…!?この私が、掃除!?しかも雑巾!箒で床を掃いたりはしてたけど雑巾で床ぶき!?信じらんない…私はヒロインなんじゃないの!?
「姫川さん、雑巾これです。私は箒をとりに行くので先に窓とか拭いといてください」
「………………」
天宮さんは終始笑顔でそう言った。
「実は、両方“雑巾”なんだよね」
そういって、雑巾の文字を黒く塗り潰した割り箸を私は捨てた。
−−−
たぶん一番歪んでるのは、優ちゃん
良い性格してるねー