微笑みの仮面劇 | ナノ



閑話


次の日

「優様」

用事があるのは放課後からだから、午後まで起きないつもりで寝てたのに…

「…何?」
「実は…」
「…………は?」


タタター


「…遅いじゃねぇか」

何故か跡部さんが迎えに来た。

「…今何時だと思ってるんですか?」
「6時だ」
「………」

何そのさも当然みたいな顔。

「お前、午後まで学校サボろうとしてただろ」
「………」

なんで知ってんだよ。

「生徒会長としてサボりは見過ごせねぇからな」
「………」

虐めは見逃してたくせに。

「何か言いたそうだな」
「いいえ、別に」
「まあいい、早く車に乗れ」
「……はあ」

私は深いため息と共に車に乗り込んだ。




「…で言い分はわかりましたけど、なんでこんなに朝早いんですか?」

無駄に豪華な車に揺られながら、私は向かい側に座る跡部さんを睨みつけた。

「俺の朝練に遅れるだろーが」
「……だったらわざわざ来なくていいのに…ふぁ」

欠伸堪えながらまだ冴えてない目をこする。

「…眠そうだな」
「眠いですよ、朝ごはんもまだだし」
「ああそれならランチと一緒に使用人が持たせてくれたぜ」
「え?」
「ほらよ」

いつもより大きめのランチボックスを跡部さんから受け取り、中を見る。

「サンドイッチだ」

そこには小さな一口サイズのサンドイッチがところ狭しと並んでいた。こ、これは…お腹がすいた…で、でも…

「…食わないのか」
「…さすがに車の中だし……」
「別に気にするな、俺しか居ない」
「………」

いや貴方がいるから無理なんですよ。私も一応レディだし。……でも。

サンドイッチ達は食べて食べてときらきら光って見える。一つだけなら……

と手を伸ばしたら

パク

「うめぇな」
「!?」

私が取ろうとしていたサンドイッチを跡部さんが食べた。この人は…

「ほら、腹減ってんだろ?」

跡部さんが私の目の前にサンドイッチを一つつまみ上げる。

「…自分でたべれまふ…!?」

彼の手からサンドイッチを取ろうとした瞬間…サンドイッチを口にねじ込められてしまった。

「……もぐもぐ」
「うまいか?」
「……もぐもぐ」

まずい。って言ってやりたいのに…

「……ゴクン」

サンドイッチはすごく美味しかった。

「…おいしいです」
「そうか」

跡部さんはそれで満足したのか、自分の鞄を開けて何かを探しはじめた。

「………ぱく」

私はもう一つサンドイッチを口に放り込んで、ランチボックスを閉じた。

「まあサボり防止も一つの理由だが、本当はこれを渡しにきた」
「…何ですかこの分厚いファイル」
「マネージャーの仕事内容と部員の資料だ」
「…人の顔覚えるの苦手なのに?」
「部員はレギュラーと一部の準レギュラーを覚えれば上出来だな」
「………」

まじですか。

「ほら、これを貸してやる」
「…鍵?」
「生徒会室の鍵だ、朝のHRまで貸してやるから、これからそこで覚えとけ」

跡部は私に鍵を押し付けて、身仕度をする。

「用件はそれだけだ、俺は朝練に行く」

そういって跡部さんはドアを開けさせ、車の外へ出た。いつの間にか学校に着いたようだ。扉が閉まる直前…

「…少しは元気出せよ」

跡部さんがそんな事を言った。

……私、元気なかったのか

「はあ…」

ため息を一つついて

「開けてもらえますか?」

私は車から出た。






「おはようございます!跡部部長!!」
「ああ」

俺がテニスコートに着くと、まだ朝練開始時刻ではないが、平と準レギュラーの奴らが挨拶してきた。ちなみに姫川愛美は朝練には来ない。始発がないらしいな。初めは信じていたが、それもどうだか…調べるのも面倒だ。

レギュラーの部室に行くと、日吉がいた。

「…おはようございます。跡部さん」
「ああ、お前も相変わらず早いな」

そんな会話をしながら、俺の席につき、パソコンを起動させる。…まだ準レギュラーの個人メニューを入力してねぇんだったな。カタカタとキーボードをうち、仕事を終わらせる。

…次は……生徒会の会計報告か。印鑑は…

「跡部さん」
「何だ、日吉」

…生徒会室に忘れて来たか?いや…これだ。

「少しお話があるんですが」
「…手短に言え」

…これでいいな、次は……


「穂高真奈美の葬儀の後の事です」
「…なんだと?」

俺はその言葉に顔をあげた。日吉は机を挟んで俺と向かい合うように立っていた。

「盗み聞きするつもりはなかったんスけど、結果的にそうなりました」
「………」

…穂高は若の幼なじみだったな、居て当然か。

「…知ってたんですね、跡部さんは」
「…悪かった」
「俺も跡部さんを責められる立場じゃないので」
「………」
「でも安心しました、貴方が正気ならまだウチのテニス部にも希望がありますから」
「!」
「正気、あんな女の為に練習をしなくなったテニス部に、下剋上の意味なんてないですし」
「…お前は」

俺は日吉の言葉を切り、日吉の目を見た。

「お前は随分冷静なんだな」

幼なじみが死んだにしては随分と落ち着いてる日吉に俺は言った。

「………」

日吉は少し黙り、そして口をく。

「腸なら煮え繰り返りました。でも…貴方が、跡部さんが、あいつの遺影に頭下げてるの見て、冷静になったんですよ」
「…見てたのか」
「えぇ…天宮が何をするつもりか知りませんが、俺に出来ることなら手伝うつもりです」

日吉は俺に背を向け、歩きだした。

「俺も、同じ過ちを二度も繰り返すのは嫌なんで」
「…そうか」
「では、朝練行ってきます」

そういって日吉は部室から出て行った。

「………」

同じ過ち、か…








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