鉄 | ナノ


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海軍より『鉄の看護師』の異名がつけられたハートの海賊団副船長フネは、戦闘狂である。本人に戦闘狂の自覚が皆無だが、小競り合いがあると真っ先に飛び込んでいく。無表情で敵を切り裂き返り血を浴びるその姿は、鉄の看護師ではなくどちらかというと血の死神だ。怖い。
敵を殲滅し帰ってきた甲板で血も落とさずぼーっとしているフネに、ペンギンはタオルを持っていくと、ダランとした腕が目についた。

「あーー!!!」
「あ」

少しだけ「あ、見つかった」みたいな顔したフネを後目にペンギンは全力で叫んだ。

「キャプテーーーーン!!またフネがけがしてますううううう!!」
「いや、こんなの目が覚めたら治る」
「治んねぇよこのばか!!左肩に刀傷!推定8針!!」
「大袈裟な」

ブウゥンという特徴的なローの“ROOM”が発動し、すぐ近くの樽がローに変わった。額には大きな青筋が浮いている。

「おいフネ…てめえ…」
「キャプテンも言ってくれ、ペンギンが大袈裟なんだ」
すでにブチギレてるローにいつもの無表情でそんなこと言うフネ。血管の切れる音がした。

「あ」

次の瞬間にはフネの生首がローの掌の上に収まっていた。

「避けられねぇじゃねぇか、いつものお前なら避けられたよなぁ?」
「少し目が霞んでて、でも目が覚めたら治るから」
「血の流しすぎだ、ばか!!」

全治2週間、1週間の絶対安静を言い渡されたフネは、罰として両足、左肩を切断され、船長室で帳簿ツケ係となった。しかしこの右肩しかないフネの状態は、悲しきかなよくあることで…この異様な光景をハートのクルーは若干見慣れてしまっている。なんせ足を奪っておかないと動く。患部も外しておかないと、動かす…。患者としては最悪の部類に入るのだ。本当勘弁してほしい。

しかもハートの海賊団で必須の医療行為…鉄の看護師の異名が泣いているが…これが全く出来ない。本人は真面目に取り組もうとしているが、脈は測り間違えるし、包帯すら巻き直せない。壊滅的に不器用だった。

「………」
ペンギンが船長室に差し入れのコーヒーを持っていくと、フネは自分の左腕を持って、器用にベットへ移動していた。自分で巻き直す気なのだろう。フネは外された左腕を股の間に置き(なお足はない)、巻かれた包帯を外そうとしている。いつも患部や足はあいつの届かない場所に置かれるが、今回はまだ置かれていなかったようだ。どうせうまく巻けないのだからやらなきゃいいのにと、ため息混じりで入室すると、
「あ」
患部の腕が、ベットから落ちる…しかも、傷口の方から。
え!?くっそ間に合わねえよ!?!?とペンギンが駆け出す前に、
「シャンブルズ」
「あ」
パサッとフネの足元には、伝票が落ちた。そしてペンギンの後ろには、鬼がいた。手には、棍棒ではなく、フネの左腕を持っている。

「どうせうまく巻けねぇんだからやるんじゃねえ…」
「…それもそうなんだけど」
「下手くそ」

ローは落ちた伝票を拾い、机に置いた。そして椅子に座り、左腕から包帯を外す。

「…ペンギン、化膿止めと解熱剤もってこい」
「アイアイ」

コーヒーを置いて薬剤室へ向かう。あんな涼しい顔してフネには熱があるようだ。普通肩がバッサリ切れていたら、患部が炎症を起こすのは当たり前か。


ペンギンが薬を持って戻ると、包帯は解かれ、痛々しい傷が目につく。フネはベッドで横になり寝ていた。ロー曰く、フネは痛覚が先天性的に鈍いらしい。以前スキャンで調べたそうだ。まあフネに関しては大概なことに鈍いが…。

「キャプテン、持ってきましたよ」
「あぁ、寝ちまったから後で飲ませる」

目が覚めたら治るとは本人談だ。もちろんそんなすぐ治るわけなく、治るまで普通に時間はかかる。



2週間後、フネは絶対安静という名の謹慎が解けた。肩には当たり前だが傷が残り、ローから次怪我したら外に出さねえとのお達しを受けて大怪我は避けるようになった。…ように見えた。

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