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「…」
あぁ、私はまだ夢から覚めないのか。
フネが意識を取り戻したのは、元の世界の自室ではなく、全く知らない天井だった。
「あら、お目覚めね」
黒髪のショートカット、利発的な女性がフネの顔を覗き込んだ。
フネが目を覚ましたのは頂上戦争の翌日。海から回収したのはなんとあの赤髪海賊団副船長、ベン・ベックマンだそうだ。その後マリンフォードからシャボンディ諸島の冥王シルバーズ・レイリーに、ルフィの帽子共々預けられ酒屋のシャッキーの店まで運ばれたそう。
「お世話になったようで、ありがとうございます」
「いやなに、目的地が一緒だろうからな」
レイリーはルフィに用があり、そのルフィはローが治療をしてる。フネにとっては渡りに船だった。
まあまさかその船が小船で、途中で嵐に会い、そこから泳いでいくなんて思いもしなかったが。
そもそも小船の時点でレイリーがものすごい速さでオールを漕ぎ、およそ手漕ぎボートでは出せないようなスピードだったことから始まるが、泳ごうとなった時、レイリーがこれまたものすごい速さで泳ぐので、なんとかついていこうとしたフネも黄猿戦のダメージもあってか早々に気絶した。離れないようレイリーがフネにくくりつけた腰紐に引きずられるようにして、フネはローたちがいるであろう女ヶ島にたどり着いた。
「…言い残すことはあるか?」
「…えっと、勝手に飛び出してすいません?」
「まだあるだろ」
「え。まだ…?まだってなんだ…?」
「「「心配かけてごめんなさい、だろ!!!」」」
「あ、はい。ごめんなさい」
目を覚ましたフネを待っていたのは、説教であった。
気絶したフネはレイリーによって引き上げられ、案の定2週間前の黄猿戦の傷が開いていたため、ローによって処置をほどこされた。
腹部に大火傷、背中に裂傷、腕や足には細かくヒビが入っている。本来なら海の中を泳ぐなんてのはナンセンスだ。
ローによってバラバラにされたフネは、罰として動かせる最低限の状態でくっつけられ、艦内の掃除を命じられた。
頭、胸、両手首の先、股下、両足首の先…小人もいいところだった。
「…」
「あはははははは!!!!ちっちぇええ!!」
「チビじゃん!!!」
シャチとペンギンは大爆笑。他のクルーたちも押さえてはいるが、肩が笑っている。
いつもの一部体がない状態のフネなら見慣れているが、ツギハギ人形状態のフネは誰もみたことがなかった。
フネは小さく息を吐き、ペナルティーである掃除をするのだった。
「フネー、どこだー?あ、わりぃ、ちっちゃくて見えなかったわ」
「…」
「フネ、甲板で組み手やろーぜ…あ!忘れてた!ちっちゃくちゃできないよな!」
「…」
「「あははははは!!!」」
3日目の朝。フネを揶揄って笑うシャチとペンギンは、フネを持ち上げたり腕の中に抱えたりして遊んでいた。他のクルーたちはとっくに見慣れて、フネに対しては普通に接している。
「ちょっと、やめなよ」
イッカクが見かねて二人からフネを預かるが、二人は笑ったままだった。
「いーだろ!こんな状態のフネなかなか無いし」
「これに懲りたら少しは自分の体大事にするかもしれないじゃん」
「「なー?」」
「…そりゃあフネには自分の体大事にしてほしいけど、」
「…」
フネはあまり感情が動かない。無表情が張り付いている顔に引っ張られているのか、特に怒りに関しては、この世界に来て全くと言っていいほど怒ったことがなかった。許容範囲が恐ろしく広いのか、彼女の逆鱗に触れることが未だにないのか…それはわからないが、この状態は少し、フネにとって不愉快だった。
「イッカク、下ろして」
「え、うん」
そもそも絡み方がちょっと単調。他のクルーとは違い同じ旗揚げ組だからこんな絡み方をしているのだろう。別にフネはシャチやペンギンが細切れにされてても大変そうだなとしか思わないし、フネのこの状況も大変そうだなと捨て置いてくれればいいだけなのに。かまってほしいのかなんなのかしらんが、
いい加減、
「…しつこい」
「え?」
シャチの足元にきたフネは、バチリと覇気を纏って飛び上がりシャチの頭を横から蹴り付けた。
「ぶべらっ!」
「えええ!シャチいいいい!」
「お前も」
「へ?…グヘアッ!!」
ペンギンも同じようにのされた。
「…3日もよく飽きないな。いい加減慣れろ。しつこい。お前ら何歳だ」
「う…25、さい」
「幼稚な絡み方するな」
伸びている二人を冷たく見下ろして、フネは落ちてるモップを引きずりながら甲板を出ていった。
「俺たち…小さいフネにも勝てねえのか、」
「速くて見えなかった…」
その様子を見て、クルーは思った。
やっぱり普段怒らない人をおこらせちゃいけない、と。
「いい覇気だ…よく練られてる」
ジャンバールだけは違うことを考えていた。
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