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「…暇だ」
ローたちを見送り、いく気満々だったので何もすることが思い浮かばず艦の柵に腰掛け、目を瞑る。
(麦わらの一味を生で見てみたかったなー。シャボンディで一悶着あった気がするけど、一向に思い出せない。結構重要だった気がするんだが…)
「フネー。暇なら洗濯手伝えー!」
「…わかった」
うーんと悩んでいると、下からそんな声が聞こえたので、瞼を開ける。今日はいい天気だ。絶好の掃除洗濯日和かもしれない。
洗濯も終え、適当にお昼も待機組で食べて、することがないから甲板で寝ていると、どこかで何かがはじけた気がして飛び起きた。
「なんだ今の」
「どうした、フネ?」
「感じなかったか?あっちの方で大きく何かがはじけたんだ」
「?俺には全く」
「…そうか」
フネは口元に手を添えた。…はじけた方が騒がしい。ざわざわとフネの何かが騒いでいる。
「嫌な予感がする、いつでも出航できるようにしておこう」
「…わかった」
こういう時のフネの勘はよく当たる。クルーたちは急いで洗濯物を取り込んだ。
しばらくして、補給班が帰ってきた。
…海軍を引き連れて。
「おおいいいいい!!!大変だー!!!!!麦わらのルフィが天竜人殴ったあああああああ!!!」
「キャプテンも共犯になってるううううううう!!!」
「海軍撒けなかったあああ!!!たすけてええええええ!!!」
「「「なんだとおおおおおお!!!」」」
「…あ、奴隷ショップへ人魚を助けに行ったやつか」
クルーがワタワタしてる中、フネはずっと思い出せなかったシャボンディで麦わらの一味が起こす騒動を思い出していた。アハ体験。しかし遅すぎる。
「ハートの海賊団の船を発見した!至急応援を、グハッ!!!」
補給班が引っさげてきた海軍の連絡係に鞘を投げつける。
「あれは!鉄の看護師!!懸賞金8000万ベリー!!」
「副船長だ!捕らえろ!!!!」
「…私が行く。こぼれたものはよろしく頼む」
「わかった!」
柵に足を掛けて、一気に飛び降りる。すでに抜刀している刀を振り回し、おそらく司令官であろうどこぞの大佐に切り込んだ。
名があるかどうかはわからないが、フネの太刀を4、5回受けなんとか耐えるも、最後の太刀で弾き飛ばされ、大佐は木にめり込む。それを見た海兵たちが怯んだその一瞬で、フネは最近練習している”技“へのモーションへ入った。
「…っ!」
両手でぐっと柄を握り込み、眉間に皺がよるくらい強く“力む“。そのまま左足をぐっと出して、一気に横一閃へ、振り回した。
「「「「ぐああああああ!!!」」」」
フネを中心に周りの海兵が吹き飛んだ。
「…覇気使うたび、こんなに力むのやめたいな」
寄った眉間の皺を指で伸ばしながら、先程投げた鞘があったので拾う。海も走れるようになってきたが、まだスマートに覇気を纏えていないのが悩みだった。
「たった一人に何を押されている!!かかれえええええ!!!」
「…キリがないな」
第二第三の海兵が押し寄せることに、はぁと息を吐けば、少し離れたところで戦っているクルーたちから声がかかる。
「フネ!大丈夫か!?」
「あぁ、ありがとう。問題ない」
投げられたタオルで返り血拭って、ズレてきたツナギを結び直す。右手に太刀、左手に鞘を構えて、海軍を見据えた。
「私たちが船守を任された。ローが戻るまで、この艦には指一本触らせない」
「「「アイアイ!」」」
「あれが、お前たちの船か」
「…海軍がいるな」
ローたちが七武海をまいて艦に戻ると、そこは海軍に囲まれていた。
「みんな大丈夫かな」
「フネがいるから大丈夫だろ」
「ほら、あそこ」
ペンギンが指差した先に一際大きな人垣がある。ポーラータング号を背に、倒れた海兵の山の中心にはよく見知った顔が、血だらけで立っていた。
「…チッ、全部返り血だろうなぁ?」
ローの舌打ちと同時くらいに飛びかかってきた海兵を、そいつは蹴散らした。数は多いが名のある将校は来ていないようだった。
「あ、ジャンバール、あれウチの副船長だから」
「女だったのか」
「え、すげ、あの血濡れ状態でよく女だってわかるね」
「なんとなくだ」
「無駄口はいい、送るぞ」
ローがRoomと唱えると薄い青のサークルはポーラータング号まで包み込んだ。
「シャンブルズ」
パッ
変わった先はフネがこれから相手をしようとしていた海兵たちだった。急に出てきたローに、フネは少しだけ目を丸くしたが、すぐさまいつもの硬い顔に戻った。
「…遅い」
「出航準備はできてるか」
「キャプテン待ちだ」
「よし」
「死の外科医…トラファルガー・ロー!!」
「絶対に逃すなああああ!!!」
「気を楽にしろ、すぐに終わる」
ニヤッと悪い顔をしたローは向かってくる海兵を全員真っ二つにし、ハートの海賊団は無事シャボンディ諸島をあとにした。
「フネは診察だ。体洗ってから医務室に来い」
「今日は怪我してない」
「…いいから返り血落としてこい」
「新しい仲間か?俺ウニ!」
「あ、あぁ、お前たちの船長に救われた。これからよろしく頼む」
「ひゅー!じゃあ今夜は宴か!?」
「海軍をちゃんとまけたらだろー」
「麦わらのせいでキャプテン共犯になっちゃったんだぞ!?」
「とりあえずキャプテンからの号令を待つかー」
「…怪我してんじゃねーか」
「目が覚めたら治る」
「治ったことねえだろ」
腕と太ももに裂傷。大砲でも打ち込まれたか?消毒をして、包帯を巻いていく。
「抗生物質と解熱剤を出しておく」
「いつものか」
「…しばらく安静だ」
はあ、とため息をついて、動かすなと言っているのに腕をグルグル回し出すフネを見る。普通だったら痛くて動かせないはずだが、やはりフネは痛覚が鈍いらしい。
こいつはしなくていい怪我をする。避けられる攻撃もわざと受けて、敵の油断を誘うのに使う。なんとかやめさせたいが、目が覚めたら治ると聞きやしない。
それ以上動かすなら腕を落とす。そう告げるとフネは静かに腕を下ろした。
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