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グランドラインもそろそろ折り返し地点に差し掛かってきた。ニュースクーによると、ローは11名の超新星として有名人になっていた。
「惜しかったよなぁフネ」
「なにが?」
シャチは手配書とニュースクーをペシペシと叩く。
「懸賞金8000万ベリー。あと2000万あればフネも超新星だったのに」
「超新星?」
「もうすぐシャボンディ諸島に到達する億越えの海賊のことだって。キャプテンも入ってる!」
「へえ」
「…お前、あんまり興味ねえな?」
「あるよ」
シャチから新聞と手配書の束を受け取って、フネはパラパラと読む。ルーキーと呼ばれる立ち位置になったロー達最悪の世代は、ハートの海賊団ももうすぐ到達するシャボンディ諸島にやってきていた。
(…ここで、初めて、ローが出てきた気がする)
フネは異邦人である。
ただ、本人曰く夢であるこの世界が、ONE PIECEの世界であるということにものすごく最近気がついた。そこからキャプテンローがいずれ麦わらの一味と海賊同盟を組むトラファルガー・ローと同一人物であることに気づくことすら、だいぶ時間がかかった。
(…アラバスタのニュースで気づいたんだけど、すごい。もう懸賞金がこんなに。ロビンに、フランキー…仲間が集まってる)
「…」
「…」
じーと表情が変わることなく手配書を見つめているフネにシャチは珍しいこともあるもんだと思っていた。もう長い付き合いだが、何かに興味を持つこと自体かなり珍しい。基本的にはローや自分たちのあとをついてくるやつだし、自主的に動くとしたら戦闘と鍛錬くらいなものだ。ニュースもたまに読んでいるが、こんなに長く読んでいるのは初めて見た。
「シャボンディに来た億越えのルーキーが、11人もいるのはかなり珍しいんだな」
「みたいだな」
見終わった手配書と新聞をシャチに返し、フネは口元に手を添えた。
(…シャボンディで、何かあった気がする。なんだっけ)
ここで麦わらの一味が新世界に行くまで、2年の月日が経過した気がするが、どうして2年だったのか思い出せない。この夢を見続けてもう数十年、漫画を読んでいた記憶なんて曖昧だ。いい加減醒めてほしい。
「…フネ!」
「うん?」
顔を上げるとシャチが至近距離で覗き込んでいた。近い。思わず手で押しのける。
「なんだ」
「…お前、今何考えてたんだよ」
「え?別に考えてないけど」
「嘘だ!お前が口に手を当ててる時は大抵ロクなこと考えてないんだ!」
「そんなことないだろ」
「いいやある!!」
この間だって!と、切り出された話は、シャチとペンギンが些細なことで喧嘩した時に二人揃って穂先に吊るす提案をしたことや、風呂に入りたがらないベポに対して海に突き落とせば否が応でも入るんじゃないかと提案したことなどだった。ちなみに前者は採用され、今でも喧嘩が起きた時はこの対応をされる。後者は半泣きのベポを哀れに思ったローによって却下された。
「…別にそんな変なこと言ってないと思うけど」
「他にもいろいろあっただろ!!」
「あった?」
「あった!!」
身に覚えがないので、フネは仕方なく黙った。
シャボンディ諸島についたクルーの反応はそれぞれだった。浮かれるやつ、怯えるやつ、無反応。ローとフネは無反応だった。正確にいうとフネは多少浮かれていた。ただ顔に出ることがなかっただけで。
いつも通り補給班と待機班に分かれて、行動しようとなっていた時だった。フネは顔の横にスッと手を挙げた。
「私も上陸したい」
「「「「!?!?!?!?!?」」」」
「…」
クルー全員が驚いた。自分から動くとすればそれは戦闘か鍛錬のみ。補給班に行きたいと言い出すことはあったが稀だった。
「…理由は?」
ローは眉間に皺を寄せ、低く問う。警戒をしていた。
「11人の超新星を見てみたいから」
「却下だ」
即答だった。
「なんで」
「…騒動があったら突っ込んでいくだろ」
「いや、流石にそんなことは」
「大人しくしてろ。あとお前にはポーラータング号に居てもらわねえと困る。ここはシャボンディ。海軍海賊人攫い、入り乱れの島だ。艦に残す戦力も考えねえといけねえ」
「…」
「そういう意味ではお前がベストだ」
「…わかった。そういうことなら」
「あぁ」
麦わらの一味を見てみたいと思っていたが、ローにそう言われればフネは引っ込んだ。その様子にクルー達は安堵した。とりあえずフネが何か騒ぎを起こすことはなさそうだった。
そうしてローたちは、フネと数人のクルーを残しシャボンディ諸島へ上陸した。
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