鉄 | ナノ


3




お騒がせキャラになりつつあるが、そもそも戦闘以外は大人しい方で、無表情に慣れさえすれば、偏食もないしわがままも言わないし、気もつかえる副船長だ。

たまに当番で作る料理はクルーに好評で、レパートリーがないから本人は嫌がるが、女子が作ったというだけでクルーたちはいいらしい。いいのかそれで。ちなみにフネが作っていると深く考えると血みどろのフネが鍋をかき混ぜている想像をしてしまい一気に食欲が無くなるそうだ。いかにやつの性別だけに焦点をあてるかが鍵らしい。これにはイッカクも当てはまるが、料理の腕ではフネに軍配が上がる。
あと、しょっちゅう絶対安静という名の謹慎が入るので、食事当番が回ってこない方が多く、たまにしか食べられないことが人気の理由かもしれない。


「島だー!」
「ログの確認と食料と医療品の確保をしないと!」

長い潜水期間を経て、久しぶりの海上、久しぶりの陸地にクルー全員のテンションが上がる。船を目立たないよう港から逸れた場所に停泊し、補給組と待機組に別れた。買い出しリストはフネが用意している。はい、と手渡された内容をペンギンが確認するといつもより食材が多めだった。

「キャプテンが久しぶりの島だから豪勢にしようって」
「それは」
「つまり…」
「「「宴だああああああ!!!」」」

フネの言葉に近くにいたクルーが沸いた。奥にいるローは羽目を外しすぎるなと一言言ってブウゥンという能力発動と共に消えた。

「フネも買い出し行くよね?」
「いややりたいことあるから行かない」
「えー」
「何するんだよ?良い天気だし洗濯か?」
「あぁ、それは良いな。たしかに。でも違う」

フネはスッと海を指さした。

「海、」
「あ!釣りだな!キャプテン魚好きだもんな!」
「大物よろしくな!」
「…あぁ、うん。頑張るよ。いってらっしゃい」

少しだけ何か言いたそうにしたフネを残して、ペンギンたちは買い出しと散策に出かけた。

「海を走ってみるって、言えなかったな。まあ良いか」
そんなフネの呟きは誰も聞いていなかった。





「どうしてこうなった」
「そりゃ俺たちがギャンブルに負けたからだろ」
「うぅ…キャプテン…」

数時間後、ペンギンたちは島中央の豪邸で捕らわれていた。
順調に買い出しを進めていた補給班だったが、シャチがギャンブルに手を出したあたりから雲行きが変わる。最初は勝っていたが、いつのまにか負けがこみ…芋づる式に仲間達全員挑戦して全員負けてしまったのだ。賭け金が払えないと分かると用心棒的なやつが奥からゾロゾロ出てきて、ペンギンたちを捕らえた。もちろん抵抗したが、さすがはグランドラインの島。地の利が向こうにあるのもあって人質を取られてからは無抵抗に従うしかなかった。

「キャプテンに合わせる顔がない…」
ペンギンの言葉に捕まったクルー達は全員項垂れた。





「…なにしてんだ、フネ」
「おかえり、ロー」

ローが島の散策から帰ってくると、そこには数名のゴロツキをのしてその上に座るフネがいた。

「ロー、ペンギンたちが捕まったらしい」
「は?」

フネと残り数名の待機クルー達で釣りをしたり海を走ったりしていると、ガラの悪いゴロツキ達が急にやってきて、「ギャンブルの金を寄越せ、なければお前のところ船長を出せ」と騒いだらしい。

「詳しく聞こうと思って、相手をしたら倒してしまった」
「…そうかよ」
「場所はわかってる」
ピッとさし出された奴らから奪ったであろう地図を受け取る。
「行くだろ、キャプテン」
「あぁ、馬鹿なクルーをバラさなきゃいけねぇからな」
ローは待機組にさらに待機を命じ、ゴロツキの山から飛び降りたフネを伴って地図に示された屋敷に足を向けた。





「キャプテン!!」
フネが屋敷の扉を蹴破ると、そこには鎖に縛られたクルー達がいた。

「…俺のクルーを返してもらおうか」
「トラファルガー・ロー…ハートの海賊団船長、良い額だなぁ。お前のクルーはギャンブルに負けてここにいるんだ。しめて1億ベリー。お前の首と交換でも良いぜ?」

敵の親玉らしい葉巻を咥えた男は、ポーカーテーブルの前でふんぞり返り、ローの手配書を手にローとフネを見据えた。フネはローを見て、ローは小さく頷く。

「…悪いが、俺たちは海賊だ」
「ああ?」
「欲しいものは奪う。取られたもんは力ずくで奪い返す」
「ハッ!やってみろ!こっちはこんなに人質が居るんだぜ?そこから一歩でも動いてみろ。こいつらの首が飛ぶぞ」
「動く必要はねえ…”ROOM”」
「!?」
ローから青く薄い幕が広がる。
「シャンブルズ」
ペンギン達に向いていた銃や刃物の類は石ころと変わった。
「なんだと!?」
「なっ!?グハッ!!!」

ペンギン近くのゴロツキが驚いているところへフネの跳び膝蹴りが決まった。身を翻し、地面に足をつけることなく、ペンギン達を拘束していたゴロツキどもを相手していく。

「なっ!?!?」
「フネ、怪我するなよ」
「善処する」

ローは鬼哭を抜き、親玉へ斬りかかった。クルー達とゴロツキを引き剥がしなら、ゴロツキを相手にしていくフネ。ローは親玉とその側近をあしらいながら、クルーをシャンブルズで外へ移動させた。

「と、とまれ!!こいつの命がッ、グヘッ!!」
唯一の女性であったイッカクを盾にしたやつがいたが、フネは止まることなく、腹パンを決めた。
「グッ…!!」
イッカクの首にまわる手を振り払い、回し蹴りでゴロツキを蹴り飛ばす。ゴロツキは壁にめり込んだ。
「怪我は?」
「ない!ありがとうフネ!」
「艦で合流。ここは私とキャプテンで制圧する」
「わかった」

シャンブルズでイッカクが消えたのを見つつ、フネは腰の刀に手を添える。これでようやく、安全に、振り回せる。フネに剣道の知識はない。我流である。このグランドライン前半の海ではまだ珍しい覇気を会得しつつあるフネは、刀に覇気を通して薙切ることしかできなかった。それはもう、バッサバッサ。防御を無視したバーサーカーである。

フネは戦闘が好きだ。経験値が身体に蓄積され、なんだかよくわからないけど強くなっていくこの感覚が大好きだった。うん、楽しい。


最後の一人が終わったところで振り返ると、とっくの昔に親玉とその側近をのしたローが呆れた目で見ていた。

「…お前、怖えんだよ」
「どこが?」
「その返り血拭いてから言え」

白いつなぎは真っ赤に染まり、刀は刃こぼれ、顔にもべったり血がついていた。

「刀、買わないと」
「いい加減いいの買えよ」

フネがまだ覇気をうまく使えていないせいか、刀はよく折れた。安物を好んで買っていることはないが、フネが買ってくる刀はそんなにいいものではない。しかも白鞘にわざわざ入れ替えて使っている。本人曰く、かっこいいからとのことだった。鍔がないせいで手を切ってくることも多いので、ローとしてはやめさせたい。

「怪我はねえな」
「ない」
顔についた返り血をタオルで拭いながら、今日の夕飯はなんだろうな、と呑気なことを言うフネに、ローはため息をついた。その前に風呂へぶち込もう。


艦へ着くと、出迎えに来た補給班のクルー達をローはまとめて切り刻んだ。
「ぎゃああああああ!!」
叫んでいるが痛みはないはずだ。フネもよくやられている。

「どうせお前らが発端だろ、シャチ、ペンギン」
「そうだけど!そうですけど!俺らだけコマ切れ!!」
「うるせえ」
「金は取り返して、プラス奪って来たからしばらくはお金に困らないね」
「フウ〜!!やったー!」

切り込まれたクルー達と待機していたクルー達との温度差がひどい。今日は宴の予定だったが、補給班から何もなかったので、待機班が釣った魚がメイン料理になっていた。

「キャプテン!焼き魚とおにぎりです!」
「あぁ」
「フネ!……あ、フネは、先に風呂かな」
「?わかった」

ローは返り血一つ浴びていないのに、フネは全身真っ赤で、クルーは引いた。





次の日。ペンギンやシャチ達補給班がまだくっついていないので、待機組だったフネ達が補給を行うことになった。宴をする気分でもないだろうと宴は中止、代わりに日持ちするものと、米を大量に買った。米が好きなキャプテンローのためである。ガラガラと手押し車を押しながらフネ達が歩いていると、どうもチラチラと島民たちがこちらを見ている。買い物する時も少し雰囲気がおどおどしていた。

「フネ、俺ら見られてるよな」
「昨日のゴロツキの家族かな。そうしたら恨まれてかも」
「…なるほど」

街の中央に鎮座していた大屋敷を潰したのだ。殺した奴もいるし重症で動けない奴もいただろう。とりあえず売られた喧嘩を買っただけだし、過剰にせよ正当防衛は主張したい。島民には見られているだけだし、買い物もさせてくれる。あまり気にすることないだろう。
そう思っていると、小さい花を手に持った少年がフネ達にパタパタと近づいてきた。
「お、おい!」
島民達が慌てている。

「あ、あの!にーちゃん達!」
「うん?」
手押し車を止めて、フネは少年を見下ろす。身長差と無表情が相まって、少年から見ると結構怖いのだが、フネは気づいていない。少年の表情が固まったのを見たクルーが、急いで屈み、目線を合わせた。

「どうした?ボク」
「あ!え、えっと…、」
体をもじもじさせた後少年は意を決して、フネ達を見上げた。

「昨日の!あいつらを倒してくれてありがとう!」
「え?」
「おれのかーちゃん、ずっとあいつらんとこにいて、帰ってこなかったんだけど、昨日そこのにーちゃんに助けてもらったって!」

指差されたフネを、クルー達は見上げる。
「あぁ、お金探すのに動き回ってたら牢屋見つけたから壊したな」
「これ!朝摘んできたんだ、にーちゃんにあげる!」

ずっと差し出された花をフネは一瞥して、手に取った。

「…君、これはお母さんにあげたほうがいいよ。あと私はねーちゃんだ」
もう一度少年に花を持たせて、フネは少年の頭をポンポンと叩く。

「礼だったら頼みがある。医療品を取り扱っている店と、刀を扱っている店に案内して欲しい」
「う、うん!!わかったよ!」

キラキラした目を向けられながら、小さな案内人を連れて補給を再開した。
少年がいることで話しやすくなったのか、島民達は少し雑談をするようになった。曰く、あのゴロツキ達は急にやってきた海賊で、若い娘やら労働力になる男性やらを徴兵し、こき使っていたそうだ。過酷な労働で死人も出ていたという。海軍に連絡しようにもでんでん虫は没収され、手紙もチェックされ、商人が仕入れのために他の島に行くのにも護衛などと言って監視が付いていたそうだ。結構な徹底ぶりである。

「本当にありがとう、ねーちゃんたち!」
「ありがとうございました」

補給が終わる頃には、手押し車は補給品とプレゼントで山盛りになり、港に向かう手前では島民達がぞろぞろと並んで頭を下げた。いい刀も手に入れて、ついでに白鞘へ差し替えてくれた店主に、フネは内心ほくほくだった。

「少年、私たちは海賊だ」
「うん、知ってるよ」
「喧嘩を売られたから買っただけ」
「でも俺たち助かったから!」
「そうか」

初めはおどおどしていたのに、今ではにっこりと笑ってフネを見つめる少年。ずいぶん懐かれたものだ。

「ここまででいい。ログも溜まったことだろうし、私たちは出る。またね、少年」
「うん!!」

大きく手を振ってこちらを見送る少年に、フネ達補給班は背を向け、想定より重くなった手押し車を押した。



「海賊が馴れ合ってんじゃねえよ」
一部始終を見ていたらしいローに、そう怒られたフネ達だった。


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