海寮 | ナノ



XVIII



私とアズールはジェイドに、カリムとユウとグリムはフロイドにそれぞれ掴まり、猛スピードで川を移動し、スカラビアに帰ってきた。

中ではバイパーが、寮生たちを操って宴を開いていた。虚な寮生たちはただただバイパーの言うことをきく人形のように力なく突っ立っている。そうして口々に、ジャミル様万歳と呟いている。

「ははは、そうだろう。俺を褒め称えるがいい」
「あなた様は、とてもハンサムで…」
「ほう?」
「色黒で、背が高くて!」
「それで?」
「目がつり上がっていて、とても賢そうです」
「それから?」
「肩がイカっててぇー」
「見るからに強そうなかんじだな!」
「…えっと、おひげみたいな模様が、」
「見ているだけで、うっとりします」

「ふん、なかなかの褒め言葉じゃないか……ってお前たちは!?」

「乾いた川に水を満たして泳いで帰ってきた!」
「思ったより遠くてかなり疲れたぁ!」

カリムはマジカルペンをコブラのついた杖に変化させて、バイパーと相対す。

「正々堂々、俺と勝負しろ!
 そして俺から奪った寮長の座…返してもらうぜ!」
「奪っただと?...ハッ、どの口が…!!
 俺から何もかも奪ったのは、お前の方だッ!!!」

バチバチと、バイパーの体に魔力が集まっていく…

「思い知るがいい!!この俺の本当の力を!!

 あっはっはっはっは!!!!!」

そして、バイパーと彼の操る寮生たちの猛襲が始まった。


「ユウさんグリムさんは物陰に隠れて!ジェイド!フロイド!ジャミルさんの狙いはカリムさんです!サポートを!」
「はい!」
「かしこまりました」
「いいよぉー」

私はステッキを床に打ち付け、迫りくる寮生たちの足元に風を送り、すっ転ばせる。
「アクアウェーブ!」
すかさずアズールが水の魔法で、すっ転んだ寮生たちを押し流した。そう、なるべく早く寮生たちを無力化し、向こうに合流しなくては。

『二手に分かれましょう。ジャミルさんはおそらくカリムさんを狙うでしょうから、ジェイドとフロイドをサポートにつけ、引きつけてもらいましょう。その間に僕とリタさんで操られているスカラビア生を無力化、そしてジャミルさんの裏に回りましょう』
『裏に?』
『先程は正面切って反撃をもらってしまったので、死角である裏手から、ユニーク魔法をぶつけましょう』
『...うわ、卑怯なんだゾ』
『これは立派な戦略です。...向こうはとにかく数が多い。集中するためにもある程度、無力化しましょう』
『あぁ、わかった』

飛んできた魔法を無効化、風の魔法で押し返す。こちらへ!とアズールの声のする方に行けば、バイパーのすぐ側面、向こうからは柱で影になって見えにくい位置についた。

「俺こそが!スカラビアの真の支配者だ!!」
「...ぐっ!お、おれは!絶対に諦めない!!」

ボロボロになったカリムたちが、バイパーに食らいついていた。
はやく、しなければ...!

すぅー...と大きく息を吸って、魔力を練り上げる。

その途中で、はたと止まる。

「リタさん?」
「……」

チャンスは、一回だ。
これは奇襲なのだから。
失敗したら、また弾かれたら、バイパーは私を警戒しだす。

先ほどできたお腹の痣が、じくじくと痛み、私の思考を弱らせる。

…やるしかない。わかってる。
でも、
もし、うまく、いかなかったら…

「リタさん」

前に構えたステッキに、後ろからのびたアズールの手が重なった。

「え?」

すっぽりと抱え込まれ驚いて上を向くと、すぐ近くでアズールと目があった。

「僕の魔力を使ってください」
「え、」
「先程の魔力同調術式を使えば、僕の魔力をあなたは使えるはずだ」
「それは、そうだけど…」

アズールの魔力を使ったら、きっと…

「...僕の魔力を使って、僕の変身薬が解けてしまうことを心配しているなら大丈夫です」
「!」
「先ほどあなたがしてくれたように、僕が魔力コントロールをサポートします。それに、万が一人魚に戻ってしまっても、そこの噴水に避難しますよ」

アズールは私を安心させるように、とても優しい瞳でーーふわりと微笑んだ。

「……!」

その顔は、初めて見た。

アイスブルーの瞳が、とろけるように私を映す…

「リタさん?」
「ぁ、あぁ…わかった、」

借りたままのコートを着ているせいか、なんだか体があつい。

でも、いつの間にか...痣の痛みが引いた気がした。

「…アズール」

弱気なっていた心も、今は落ち着いている。
私はもう一度ステッキを握り直し、バイパーを見据えた。

「私に、力を貸してくれ!」
「ええ、もちろんです!!」

重なった手から、アズールの魔力が流れてくる。

「う…」

あ、あつい…!
私の魔力に、同調するどころか飲み込まれそう!
私の中で、アズールの魔力が暴れてる。

「くっ…!」
「…リタさんっ!」

私の中で暴れる魔力を、アズールが押さえ込んだ。

「…いけ、る、!」
「はい!」

アズールが力強く私の手を握り込む。
私はチラリとアズールを見上げ、うなづいた。

「一緒に…!」
「えぇ...!!」


「「『…世界に変化を望むなら、』

  『自分自身が変化そのものとなれ…!』」」


私の中でくすぶる膨大な魔力を、バイバーめがけて、解き放つッ!!!


「「『今この瞬間に感謝せよアプレシエト・ザ・モーメント』!!!」」


ガツンッ!!と打ち付けたステッキの先から、魔力の波動が床をえぐるような勢いで発射した。


「なっ!?」

真横から唐突に現れた魔法は、

バイパーとその後ろの化け物を飲み…

「ぐぁあああぁッ!!!!!」

彼は対処する暇もなく、

私の、いや私たちのユニーク魔法に飲まれた。


「これで…一番に、
 自由になれたと思ったのに……、」


後ろの化け物は、黒い粒子となって散り…バイパーは力なく倒れ込んだ。

「ジャミル!!!」

同じく満身創痍のカリムはバイパーに駆け寄った。



「はぁ…はぁ…」
…すごい。なんて、威力。
今まで、波紋状にしか発動しなかったのに、まっすぐ…しかも、なんかビームみたい。

「…ぁ、やば、」

足の力が抜けて崩れ落ちそうになるが、後ろで私を支えていたアズールが力を込めた。

「大丈夫ですか!?」
「…魔力、すっかからんだ、」
「そ、そうですか…よかった」

私はすっかり疲れてしまったが、アズールは変わりない。
…やっぱり、有能な魔法士は、違う…、ってこと、か...?

「あれ…なんか、気持ちわるい…」
「え!」
「おぇ…なんか袋…」
「袋!?」




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