海寮 | ナノ



XV




そのあと、取ってきてくれた紫の絨毯を私の遠慮も聞かず押し付けたカリムと共に、談話室にてマンカラというボードゲームで遊んでいたアズールたちと合流した。バイパーはカリムと私たちが一緒のところを見ると、目の色を変え、カリムを引き連れて足早に自室へと戻っていった。

私たちもお互いの成果を客室で話し合った。

「ははは!実に面白い!カリムさんの人情にジェイドのユニーク魔法が敗北したわけですね」
「…非常に悔しいですが、そういうことですね」
「ですが、これで犯人ははっきりとしました」

アズールは楽しそうに笑う。

「あとは仕上げですね。砂に潜った犯人の尻尾を捕まえるとしましょう。僕に作戦があります」

作戦の内容は、こうだ。
まずカリムとバイパーを接触させないために、適当な理由をつけてバイパーの仕事を奪う。そしてカリムのそばには、常にユウとグリム以外の誰かをつける。二人を除いた理由は、ユウも洗脳されていた可能性があるからだ。このスカラビアの問題に首を突っ込むきっかけとなった、ユウの”いつの間にか返事をしていた”というのも、バイパーの催眠魔法のせいだろう。

「でもウミヘビくんだって、簡単に引き下がらないんじゃない?」
「そこはカリムを使おう。バイパーを休ませたいとか適当なこと言えば、きっと乗ってくる」
「確かに、それでいきましょう。では僕とジェイド、ユウさんとグリムさんはカリムさんのお世話へ」
「俺と珊瑚ちゃんで、食事ね」
「…大丈夫か、その人選。私とジェイド替わった方が、」
「切ったり炒めたりはできるでしょ。味は俺が見るよぉ」
「…まぁそれなら」

「勉強は、僕が虎の巻からさらに厳選した問題集を使いましょう。体力育成系はフロイドに任せます」
「はぁーい」
「ジェイド、リタさん。二人とも魔法薬学が得意科目ですよね。錬金術含め、お任せします」
「かしこまりました」
「わかった」
「俺たちは何をするんだゾ?」
「グリムさんたちはーー、今まで通り寮生たちと一緒に特訓を受講してください」
「ふなっ!?」
「あぁ、戦力外通知だ…」

バイパーがどうして寮長を操り、寮生たちを苦しめていたのかはわからないが、きっと目的は、寮生たちによる暴動だろう。一瞬そんな雰囲気まで寮生たちは熱に浮かされていた。ならば、暴動が起きないくらい有意義な合宿にすれば、計画を遂行するため、私たちオクタヴィネルを追い出しに動き出すだろう。

「…彼がカリムさん以外に操るとしたら、寮長であるこの僕でしょう。ある程度ジャミルさんの鬱憤がたまる頃を見計らって、僕が囮になります」
「催眠魔法はどうするんだゾ?」
「…それは、」
アズールは少しだけ言い淀んだ。

「フロイドか、リタさんのユニーク魔法を、僕の『黄金の契約書イッツ・ア・ディール』で貸してもらい、防ぎます」

「!」
「へぇ…」
「ほぅ…」

「まあ、もちろん無理強いはしませんが…」

「俺はいいよぉ?対価になに貰おっかなー」
「…フロイド、正気ですか?アズールと契約なんて。…なんだかんだ理由をつけて魔法を返してくれない気がするので、僕は絶対アズールと契約なんてしたくありませんね」
「俺別に魔法返ってこなくてもいいもん。契約してなんかおもしれーもんもらった方が得じゃね?飽きたら別の契約すればいいし」
「…はぁ...我が兄弟ながら感心しますよ」

そんな双子の話を耳にしながら、私も自分の意見を言う。

「…私のは、やめた方がいい」

「っ!!!」
「おや、そうですよね。普通は」
「あれ?アズール、傷ついてるの?」

「り、リタさん、作戦が終わったあとはちゃんとお返ししますし、対価もそれ相応のものを…!」

何やら焦った様子のアズールが私に詰め寄ってきた。

「うん?あぁ、違う。貸すのは別に構わないんだけど…」
「…そ、そうですか、では何が?」

アズールはあからさまにホッとした様子を見せたが、今度は不思議そうに私に問う。

「…私のユニーク魔法『今この瞬間に感謝せよアプレシエト・ザ・モーメント』はお前たちも知っての通り、あらゆる魔法効果を無効化する」
「え、えぇ」
「私のみそっかす魔力で、それだけの効果があるんだ。アズールの良質で豊潤な魔力でこのユニーク魔法を使ったら、」

私は目の前にいる三人の人魚たちを見上げた。

「多分、お前たち変身解けるぞ」
「「「え」」」

「変身薬の予備なんて今ないだろ」
「で、ですが、魔力コントロールさえすれば、」
「ぶっつけ本番で?お前が優秀なのはわかってるが、リスクが高すぎる。やめた方がいい」
「…うっ」

アズールは少しだけ残念そうにしたが、わかりましたと引き下がった。
…というか、そういう作戦なら、

「そもそも私が囮をやればいいんじゃないか?…アズールは契約書使うの禁止されてるし…」

「「「それは絶対にダメ!/ですッ!!!!」」」

「えぇ…」

「恐ろしいことを言い出さないでください…!」
「あなたが敵に回ったらあらゆる魔法が無効化されて、ものすごく面倒です」
「俺珊瑚ちゃん絞めんのやだなぁ」

「…なんで全員失敗すること前提なんだよ」

「「「たまに抜けてるから/です」」」

「……」

「…それはちょっとわかるかも、」
「ポンコツリタなんだゾ」

「……」

お前たちまで…。





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