XIII
アズールのお話とは、予想はしてたが、やっぱり説教だった。
あぁわかってる。だからお前に相談してるじゃないか、今。…え、もっとはやく?いやそれは忘れてたというか、なんというか。…え!新学期から三人で付き添う!?頼むそれだけはやめてくれ!
...そんなことを話した気がする。途中から面倒臭くなって謝りながら適当に相槌を打っていたら、いつの間にか私の携帯の話になり、ホリデー中にスマホを買いに行く予定を組まさせれてしまった。…え、そんなお金ないけど。
「今日はご機嫌カリムだったんだゾ」
「ええ、僕の知る”いつもの”カリムさんでしたね」
私はアズールの言葉に甘えて昼食までぐっすり眠り、午後の訓練から参加した。カリムには、『リタなら言えよ
長髪はやめたのか?』と言われ、『隠してたわけじゃない。長髪だったのは魔法薬のミスだ』と言った。近くにいたバイパーは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。ちなみに、スカラビアの寮生たちとの深夜の鬼ごっこでユニーク魔法を多用したので、増毛魔法薬の効果はとっくに消え、私は普段の短髪に戻っている。
「彼はいつも朗らかで、成績が悪かったくらいで情緒不安定になるタイプには思えません」
あぁ、やっぱりそうなんだ。同級生で、同じ寮長であるアズールもそう思うのだから、やっぱりあのカリムの様子は変なのだろう。
「リタさんは二重人格かもしれないとおっしゃっていましたが、それはかなり、本質には近いかもしれませんね」
「その言い方だと二重人格の可能性は低いのか」
「えぇ。僕は圧政を強いるカリムさんを直接見ていないので、まだ確信はありませんが、おそらくカリムさんはーー」
確信はない、とはいうが、アズールははっきりとした口調で言い切った。
「ーー催眠魔法で、洗脳されています」
「!」
「洗脳!?そんなことできんのか?」
「…なんか、どこかで聞いたことがある話のような…」
「サバナクローのラギーさんのように身体を操る魔法とは別に、精神をのっとるタイプの催眠魔法も存在します。別の人物が操っているのですから、二重人格というのもあながち間違いではありませんね」
「…いや、私は完全に精神疾患の方を想像してた」
どうやってバイパーを押さえて、カリムのみを病院へ叩きつけようかと。
「しかし精神を操るとなると、かなり高度な技術と魔力を必要としますが...」
「ええ、ですからジェイド」
アズールはいつもの悪巧みする笑顔で、ジェイドに向き直った。
「問題解決のためにも、カリムさんのことをもっとよく知る必要があります。少しーー彼と”お話し”してきてもらえませんか?」
「ふふふ、かしこまりました。ジャミルさんは厳しそうですが、カリムさんなら、僕と”お話し”してくださいそうです」
「じゃあ、そのあいだ俺はウミヘビくんに遊んでもらおっかなぁ」
「それはいい。僕も一緒にお相手していただくとしましょうか」
「「「ふふふふ…」」」
「こいつら、目が笑ってねぇんだゾ…」
「......」
なるほど。邪魔されないように二手に分かれるのか。
「アズール、私たちはどうすればいい」
「…そうですね。ジェイドがいないのをあまり悟られたくないので、騒がしい、いえ存在感のあるグリムさんとユウさんは僕たちの方へついて来てください」
「今うるさいって言ったんだゾ!!」
「はいはい、グリムは私とアズール先輩たちについてこうね」
「では、リタさんは僕と」
「わかった」
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