海寮 | ナノ



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そもそも全寮制の男子校に女子を通わせることは厳しいと言われた。もっともだと思った。クソまずい変身術の薬を飲まされ、男の姿になったのは、学園長が海の魔女のような慈悲で私の面倒を見ると言ってくれたすぐあとだった。薬を渡してくれたクルーウェル先生の苦い顔をよく覚えている。
入学式に紛れ込ませよう。
幸い今年は定員に余裕がある。
そう言われて、身体を作り変える薬の反発に耐えながら入学式に出た。

「汝に相応しき寮は、オクタヴィネル」

某組分け帽子よろしく、しゃべる鏡が私の行く末を決めた。オクタヴィネル寮生と思わしき集団から静かに拍手が上がり、その場所に向かって重い脚を引きずる。寮生の証しである白い石のついたペンとエンブレムをもらった。例年通り厳かな式典だったと思う。当時は気持ち悪くてそれどころではなかったから。

他の新入生の後について寮へと続く鏡へ向かっていると、学園長は私を呼び止めた。追加の魔法薬を渡すのと、今後について、寮長にだけは話しておいた方がいいとのことだった。
変身薬が合わないのか、気持ち悪くて、待っている間は学園長室のソファに寝かせてもらった。
学園長の話し声と聞いたことのない青年の声がどこか遠くに聞こえる。
ガチャとドアの開く音に目蓋を開ければ、そこには、
「よぉお目覚めか?」
ものすごい悪人顔のめちゃくちゃ背の高いであろう青年がこちらを覗き込んでいた。
「...ひぇ」
「寮長くん、怖がってますよ」
「あ!あぁわりぃわりぃ。どうも生まれつきのこの顔のせいで損してるよな俺」
好青年だったらニカッと笑っている様子だっただろうが、どう見てもヤクザが相手を見下してる時の笑みにしか見えなかった。今思えば寮服のせいもある。
「......」
「あーまあとりあえずその合わねえ薬抜いちまおう。学園長、水はあるか?」

魔法薬学が得意だった前寮長は、クルーウェル先生が作った薬を薄め、「ようは女とバレなきゃイイんだろ」と「完璧すぎる薬飲ませて癖になっちまったら元の体に戻れないし」とつらつら述べ、変身薬ではなく、一種の呪いのような、認識障害のような薬を作ってくれた。

極悪人顔とは裏腹に、とても親身になってくれた前寮長はサメの人魚だそうで、何も考えていないのに周りが勝手に畏怖し、何も望んでないのにいつの間にか寮長に押し上げられたという。怖がられて副寮長もいないから、ちょうどいい副寮長やれよ、と本人は朗らかに笑って見せたらしいが、当時の私には脅しにしか見えずあまりの恐怖で気絶した。




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