海寮 | ナノ



XII




翌日。
昨日の不機嫌が嘘のようにものすごいいい顔をしたアズール先輩と共に、スカラビア寮に乗り込んだ。

昨日ボコボコにしたスカラビア生には、勘違いをした申し訳ないと大袈裟に謝り、絨毯を受け取ろうとしたジャミル先輩には、カリム先輩に直接渡したいからと笑顔で押し切り、談話室へ歩き出す。

「オクタヴィネルの奴ら、なんつー強引さなんだゾ…」
「味方になれば心強い…ってやつだね」

談話室には、様子のおかしくないカリム先輩がいた。アズール先輩はビジネストークでスカラビア寮のことを褒め、絨毯を手渡すと、さて本題とばかりに目つきが変わった。

「ところで、今年スカラビアはホリデーを寮で過ごされるとか。実は僕たちもなんですよ!そこで、これを機にオクタヴィネルとスカラビアで親睦を深める合宿をいたしませんか?この冬採用されたスカラビア独自の学習スタイルも学ぶところが多そうですし…いかがです?」
「なっ…!?!?!?!」
「そりゃいい!オクタヴィネルの寮長がうちの寮に滞在してくれるなんて願ってもない!」
「そうでしょうそうでしょう!!」
「…カリム。俺は反対だ」

ジャミル先輩は他の寮へ追いつくために合宿しているのに、他寮に手の内を明かすような真似は意味がないと言う。

「でもオンボロ寮の二人を連れてきたのはジャミルじゃないか」
「それは…そうだが。…俺はお前たちのためにも言っているんだぞ、アズール!」

そう言われたアズール先輩は、にっこりと笑ってジャミル先輩に向き直る。

「ふふ、ジャミルさんも面白いことを言いますね。それはもう、今更ではありませんか?」
「…は?」

「なぜなら、このスカラビア寮の訓練には、”我が寮の副寮長”が既に参加しているのですから!」

「……はぁ!?」
「え、リタ来てるのか?」
「…まさか、オンボロ寮の二人の連れの、あの影の薄い冴えない長髪のチビか!?」

「…まあそれでも、寮長である僕に手の内を明かしたくないと言うのであれば仕方ありません。僕らはこれでお暇しましょう」

固まってしまったジャミル先輩をおいて、アズール先輩は話をどんどん進めた。

「あぁ副寮長はよくて、寮長の僕はダメ、ですか…」
「頑張って魔法の絨毯を捕まえたんですがねぇ…」
「モストロラウンジも、めちゃくちゃになったのになぁ…」

「「「はぁぁぁ………ションボリ」」」

うわぁ…

「な、なんてあからさまな、”引き止めて欲しい”って態度なんだゾ…」

「ーーちょっと待ったぁ!!」

「……はぁぁ」


…茶番すぎるオクタヴィネル劇場は、カリム先輩の一声で、アズール先輩の思惑通りの結末となった。早速アズール先輩の胸を借りて特訓をすると言うカリム先輩に、アズール先輩は笑顔で応えた。

先輩たちの荷物を置きに、私たちが滞在していた客室に行くと、鍵がかかっていた。アズール先輩の開錠魔法で開けると、中にはくたびれた様子のリタさんがいた。

「リタさん!大丈夫ですか?」
「あぁユウ、おはよう」

せっかく逃げ出したのだから元の部屋へは戻らないだろうという心理をついて、部屋に戻っていたのだという。少し汚れているけれど、怪我はなさそうだった。

「リタさん」
「…あ、アズール…」

アズール先輩はものすごくいい笑顔で、リタさんに近づく。リタさんはバツが悪そうに、顔を引きつらせた。

「あとでお話が。僕らはこれからカリムさんたちと特訓に行って参りますので」
「あ、あぁ…いってらっしゃい」
「また施錠しておきます。少し仮眠を取ってはいかがです?」
「え、あぁ…そうするよ、」
「それとこちら。真夏の行進で汗をよくかいたと聞きました。もう予備がないのでは?」
「うわ…言ってないのによくわかったな。ありがとう、助かるよ」
「…レシピを知らないので、見様見真似ですが」
「え!私の部屋の予備じゃなくて、アズールが作ったやつ!?」
「…女性の部屋に許可なく入れるわけないでしょう。以前見せてもらったときに少しだけ拝借したものを解析しました」
「…お前、やっぱり末恐ろしいな」

私は、あぁ昨日の準備があるって魔法薬作りのことか、と思うのと同時に、この間の、魔法薬を契約に入れてしまったことは本当に危ないことだったんだなと、改めて思った。

「あなたの分もありますよ、ユウさん」
「ありがとうございます、アズール先輩!」

...味方でよかった。




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