海寮 | ナノ



XI




「…つまり、話を要約しますと」
「ユウさんが不用意に受けてしまったスカラビア寮の問題解決の手伝いに、」
「珊瑚ちゃんがものの見事に巻き込まれて、」
「現在進行形で、リタさんがスカラビア寮内で追われている、と」

「「…はい/なんだゾ」」
グリムと二人で思わず正座をして俯く。魔法の絨毯も真似してか、隣で大人しくしていた。恐る恐る三人を見上げると、三人は揃って頭を抱えていた。

「あんの人は…!!どうしてこうも…!!」
「ふふ…じっとしているようでじっとできない方ですね」
「やっぱり三人交代でついてた方がいいんじゃね?」
「「賛成です」」

満場一致でなにかが可決してしまった。

「…大体、巻き込まれたらすぐに相談して欲しいと言ってあったのに…!」
「あ!あの、アズール先輩!」

これだけはリタさんのために言っておかなければ。

「リタさん、本当はアズール先輩に相談しようとしたんですけど、携帯の電池が切れちゃって連絡取れなくて、」
「…予備のバッテリーはお持ちじゃなかったんですか」
「…いつも三日くらいもつからと充電器持ってなくて。充電満タンだったのになんでだろうとは言ってましたけど、」
「…ああ、なるほど」
アズール先輩はクイッとメガネを押し上げた。
「あの人の携帯、ガラケーでしょう?しかも三世代くらい前のものでしてね。現在の一般的なネット回線では使えないんですよ」
「え?」
「圏外なんです。学内と、このオクタヴィネル寮以外では」
「え!?」
「学校では様々な学生に対応するために、このオクタヴィネルではあの人のために。一般的には廃止された古い回線を余計に引いているんです。あの人は知らないでしょうけど」
「えぇ!?」
「大方、携帯が電波を探してバッテリーを消費したんでしょう」
アズール先輩は大きくため息をついて、このホリデー中に絶対にスマホにさせてやると呟いた。

「…ユウさんもスマホを配給されたのなら、僕のマジカメアカウントを検索すればいいじゃないですか。僕は経営者として本名でやっていますから、検索すればすぐにヒットしますよ」
「あ。…なるほど」
その発想はなかった。

「はぁ…リタさんのことは、後で直接本人とお話しするとして。スカラビアの問題のお話が引っかかりますね。あのカリムさんが圧政とは」
「ええ、イメージにありません」
「ラッコちゃんそういうことするの?」
「ユウさん。もっと詳しくカリムさんの様子や、スカラビア寮でのことを話してください」
「え、で、でもリタさんが、」
「はやく」

アズール先輩たちは、あーでもないこうでもないと話し出してしまった。…話を聞いたらすぐにスカラビアに助けに行ってくれると思ってたのに…。

「…クラスメイトのジャミルさんが困っているのであれば、力を貸して差し上げなくてはいけませんね」
「ふーん?」
「ほほぅ…」
「我が副寮長も巻き込まれ…いえ、問題解決に乗り出しているようですし……ってユウさん、なんです。その絶妙な顔は」

「だって、今この瞬間も、リタさんはスカラビア寮で追われているのに、」

私にはどうすることもできないからアズール先輩たちに助けを求めてきたのに、その先輩たちがすぐに動いてくれずもどかしく思っていると伝えると、アズール先輩は、そんなことですか、と鼻で笑った。

「そんなことって、」
「あの人はこのオクタヴィネルの副寮長ですよ。魔法ではなくすぐに手が出る野蛮な獣人の多いサバナクローならともかく、期末テストでもマジフト大会でも最下位だったスカラビアの一般寮生に、遅れをとるわけないじゃないですか」
「え」
「ここは実力主義のナイトレイブンカレッジ。そしてこの寮は海の魔女の慈悲の精神に基づくオクタヴィネル寮。無能が副寮長になれるほど、うちの寮生は慈悲深くありませんよ」

アズール先輩はなにを当たり前なことを、と私を一瞥し、そして、少し準備がありますのでと、奥へ引っ込んでしまった。え、えっと...、

「...あの、ジェイド先輩」
「なんでしょう」

私はお茶を入れてくれたジェイド先輩に声をかける。

「アズール先輩って、…もしかして結構こじらせてますか?」
「ふふ、ユウさん。そんなの、」

ジェイド先輩はその尖った歯を見せながら、にやぁ…と笑った。

「こじらせてるに決まってるじゃないですか!」
「う、わぁ…」

なんて楽しそうな笑顔…。

「陸に上がって初めてできた敬慕する相手に自分を認識して欲しくて、決闘を挑み寮長になるような男ですよ」
「あ、ぁ…」
「女性とわかってからは庇護対象になってはいますが、同時に寮長だったあの人に夢を見ていますからね。そんじょそこらの小魚たちに魔法で負けるわけないと、本気で思っていますよ」
「え、えぇ…」
「ふふ…アズールは今頃大変でしょうね。あなた経由ですが、初めてリタさんに頼られたので。いかにスマートに事態を消息させるかで頭一杯でしょう」
「…ジェイド先輩、なんかすごく楽しんでます?」
「ええ。あの二人を見ているととても面白いので」
「あぁ…」
「さぁユウさんもお疲れでしょう。ゲストルームへご案内します」
「え!それって一泊10000マドルの...?」
「もちろん」

ふふふ、と楽しそうに笑ったジェイド先輩は、すでに夢の世界に旅立ったグリムを抱え、私をゲストルームへ案内した。…お金、どっから捻出しよう。





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