海寮 | ナノ



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「...おや、こんな深夜にどんなお客様がいらっしゃったかと思えば」
「...小エビちゃんとアザラシちゃんかぁ」

リタさんが離脱したあと、操縦できていたのかはよくわからないが、私とグリムは無事、オクタヴィネル寮のモストロラウンジに絨毯ごと滑り込んだ。

「やったー!牢獄から脱出出来たんだぞ!!」
「...牢獄、とは?あなた方は“我が副寮長”と楽しくバカンス中のはずでは?」

ジェイド先輩はにっこりと笑ったまま、そう言う。あれ、言い方にすごいトゲがある...。

「それがその、実は、」

「見つけたぞ!!!!」

バンッと大きな音がしたかと思えば、私たちを追ってきたスカラビア生がズカズカとモストロラウンジに入ってきた。

「ぎゃっ!!こんなところまで追手がきたんだぞ!リタはオクタヴィネルまで追ってはこないだろうって言ってたのに!!」
「はぁ?珊瑚ちゃんがどーしたの?」

「もう逃げられないぞ!盗人ども!」
「大人しく神妙にお縄につけ!」

一歩一歩近づいてくるスカラビア生に、床に座り込んだまま後ずさっていると、背後からカツンと床を鳴らした音が響いた。

「君たち、こんな深夜に一体なんの騒ぎです?」

ステッキ片手に、不機嫌そうなアズール先輩がカツカツと靴を鳴らしながら近づいてきた。

「...お前は、オクタヴィネルの寮長、アズール・アーシェングロット...!」
「...よく見れば、床に転がって震えているのは、”僕達を差し置いて”リタさんとホリデーを楽しんでいるユウさんとグリムさんではありませんか。あまりに小汚いので、雑巾かと思いましたよ」
「...こ、これには、海よりも深いわけが、」
「ほぅ」

アズール先輩はあの事件以降見なかった、ものすごい冷たい目で私を見た。あぁ、なんでかとっても怒っている…。

「...おい!早くその二人を引き渡せ!!」
「引き渡さないのであれば、ただじゃおかないぞ!!」
「はあ?誰に向かっていってんの?」
「…モストロラウンジではいかなる揉め事も認めません。ここは紳士の社交場ですから」

相手にする気はない、アズール先輩たちにはっきりそう言われると、スカラビア生たちは襲いかかってきた。

「...今の僕はものすごく虫の居所が悪いんです。ジェイド、フロイド、彼らをつまみ出しますよ」
「「はい/はぁーい」」

不機嫌を隠す気のないアズール先輩と、楽しそうなリーチ兄弟の一方的な蹂躙が始まった。


「う、うわぁ…」
「こ、怖いんだゾ…」

私たちの目の前では、オクタヴィネルの三人がニコニコしながら魔法を繰り出し、鬱憤を晴らすようにスカラビア生をボコボコにしていた。…これではどちらが先に仕掛けたかわからない。一旦退却!との掛け声と共に、彼らはモストロラウンジから逃げていった。

「ふん。他愛もない」
「散れよ小魚ども!!あはは!!」
「皆様のまたの御来店、お待ちしております」

グリムと一緒にガタガタ縮こまっていると、アズール先輩は本当に雑巾を見るかのように冷たい目で私たちを見た。

「それで、”うちの副寮長”と楽しくお泊まり会をしているはずのユウさんとグリムさんが、どうしてお二人でオクタヴィネルに?」
「ひえ…」

…あぁ、これはもしかしなくても、私たちがリタさんとホリデーを過ごす予定だったのを怒っているのでは…。

「あの、アズール先輩、実はリタさんが、」
「えぇ、そうですとも。冬期休暇帰省申請書の提出がなかったので、ホリデーは自寮にいると勘違いし、あの人を誘わなかった僕の落ち度ですよ。ええ、わかっています」
「そ、そんなこと言ってないです…」
「まさか外泊許可書の提出を直前にしてくるなんてね。ええ、そうですとも。僕の、確認不足です」
「あ、あの、」
「ふふふ、ユウさん。アズールはホリデー開始からずっとこんな調子でして」
「そんなにぐずぐずするなら迎えに行けばいいじゃんって言ったんだけどさ」
「断られると思っていなかったので、断られたのがショックすぎて動けないんですよ」
「ジェイド!フロイド!うるさいですよ!!」
アズール先輩はふん!とそっぽを向いてしまった。
…私は、この不機嫌なアズール先輩に、ホリデー開始からの出来事を話さなくてはならないのか。え、すごい、いやだ…。でも早く言わないと、リタさんを助けられないし…うぅ、言うしかない。

「あ、あの、アズール先輩。実は、助けて欲しくて…リタさんが、」
「…はい?」

私はことの顛末を話した。




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