VII
「現在南の島でバカンス中…ゴホンッ!重要任務中につき、スマホの電源を切っております。ご用の方はピーッという音のあとにメッセージを。気が向いたら折り返します。私、優しいので」
「「「……」」」
「コラアアア!お前今バカンスって言ったんだゾ!?」
「……」
「り、リタさん、気持ちはわかりますけどスマホ叩き割ろうとしないでください…」
その夜。魔法の酷使でくたくたになった私たちは、部屋に戻るよう指示され、見張りらしい寮生たちにしっかりと扉を施錠された。まるで囚人のようなこの現状を学園長に報告しようとユウが言うので電話をしたら、対応が、それ。あてにならないとは思っていたが、思わず殺意が湧いた。ユウいわく、鏡の間の時点でアロハシャツだったそうだ。よかった、鏡の間行かなくて。直接見てたら嫌味の一つや二つ、三つや四つくらい言ってしまっていた。
「ユウ、とりあえずエースとデュースにでも連絡しとくんだゾ」
「…そうだね」
ユウはスマホを操作し、いつもの一年コンビに連絡を入れていた。
「…ん?」
二人のそんな何気ない会話とその様子を見て......私は、思い出した。
『今後巻き込まれたり、学園長からのお願いがあったときは、必ず僕に相談してくださいますか?』
『絶対僕に相談してください!!了承してくださらなければ、寮生全員にあなたの持ち回りシフトをつけます!』
「あー、」
そんなこと言われていたな、と...
「リタさん?」
「どうしたんだゾ?」
二人が不思議そうにこちらを見る。
「いや、アズールに面倒ごとに巻き込まれたら絶対相談しろと言われていたな、と」
「「……は、」」
「あいつホリデー帰らないって言ってたし、対価も身内価格って言ってたから、相談してもいいかもしれない…、って二人とも、どうしたーー
「何でそういうことを早く言わないんだゾ!?」
「早く連絡してください!!」
「うお!」
二人はすごい剣幕で、私に詰め寄った。
え。そんなに?
二人の目が怖いので急いで携帯を開くと、ピーっという音と共に、スマホよりだいぶ小さい液晶が真っ黒になった。
「あ」
「まさか、」
「嘘、なんだゾ…?」
電源マークを長押ししても、うんともすんとも言わない。
「電池、切れちゃった」
「…どうして!!このタイミングで!?」
「充電器は!?充電器はないんだゾ!?」
「いつも三日くらい持つから持ってきていない」
おかしいな、まだ充電いっぱいあったと思ったけど。
「…私今日初めてリタさんのこと、少しだけ、本当に少しだけポンコツだなって思いました」
「リタのバカー!ポンコツ!!」
「…わるかったな、ポンコツで」
スカラビアに来る前は満タンで、昨日は丸一日使ってないから減るはずないんだが、なぜか私の携帯は電源が落ちてしまった。使えない携帯をしまって、私はユウとグリムに向き直る。
「…とりあえず、アスールに協力を求めよう」
「だから、どうやって外にいるアズールと連絡を取るんだゾ」
「リタさんの携帯は真っ黒ですし…」
二人はジト目で私を見る。
…そんなにダメだったか?携帯の電池切らしたこと。
「...ここから出よう。オンボロ寮に戻ると連れ戻されるだろうけど、オクタヴィネルだったら追ってこられない」
「…だからそもそも出られないんだゾ」
「見張りの人もたくさんいますし…」
「常に見張られてるわけじゃない。ドアに耳を当てて巡回のタイミングを把握すれば、誰もいない時もあるはずだ」
「でも扉には鍵もかかってるんだゾ?」
「…ただの部屋鍵と妨害魔法がかけられてるだけだろ。これなら開錠魔法でいつでも抜け出せる」
「「…え?」」
「私に妨害魔法なんて無意味なんだよ」
私は二人に見えるようにマジカルペンを小さく振った。
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