海寮 | ナノ



T



「ーーーー私、優しいので」

確かにあの時、あの鏡の前で、差し出された手を取らなければ、私はのたれ死んでいたのだろう。

常識外れのこの世界で。





あれから3年。今日は入学式だ。
学園長は私の世界を探してくれるとは言ってくれているが、一向に進展がない。一体どうなっているのやら。
3年目になる制服に袖を通しかけ、いやいや、今日は式典服の方だったと寝ぼけた頭を叱咤する。
いつもより濃くアイラインを引いて、シャドウをさす。男子校なのに意外とみんなバッチリメイクをしてくるから手を抜けない。

「ロックウェールさん、おはようございます」
「...ノックをしろ、リーチ片割れ」
「これは失礼しました」
ノックもせずに部屋に入ってきた彼はにっこりと悪びれる様子もなく、毎度のやりとりをする。
「準備は出来ましたか?少し遅れているようなのでお迎えにあがりました。寮長が待っていますよ、副寮長」
「...いくよ、今すぐに」
ベッドサイドに常備してある香水を手に取って、大きく一度噴きかける。
「たまには違うコロンはしないのですか?」
「...」
他人の認識を鈍らせ、注意をズラす、特製の魔法薬。
周りにはコロンということにしている特注品。
「好きなんだよ、これが」

今日もリタ・ロックウェールは女であることを隠してる。




top


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -