海寮 | ナノ



II



ウィンターホリデーというものがある。闇の鏡を利用しての一時帰宅が許され、家族で年越しを祝う冬の長期休暇だ。相変わらず元の世界への帰り方がわからない私は、また年越しをこの世界で過ごすことになりそうだ。

でも今回は、去年一昨年と少し違う。

「リタ!ターキー!ターキー買って欲しいんだぞ!」
「リタさん!ケーキはどれにしますか!?やっぱりブッシュ・ド・ノエルですか!?」
「待て二人とも、私はローストビーフが食べたい」
「「それも食べたいんだゾ!!/ですっ!!」」

そう、身寄りのない二人と一匹、オンボロ寮で年越しを過ごすことにした。

いつもは前寮長のご好意で彼の実家にお邪魔していたが、今年は面倒を見る子ができたからと断った。そもそも海の中だし、まずい魔法薬を飲み続けなければ息ができなくて死んでしまうというのが、毎回少し怖かった。ただ、身寄りのない私を心配して卒業後も招待してくれたり、毎回美味しい深海の料理をご馳走してくれたりと、本当にお世話になっていた。

前寮長は、お前の友達気になるから連れてくれば?と言ってくれたが、二人はついこの間、海で海のギャングに追いかけまわされたばかりだし、まだ苦手だろうと断った。…まあそんなものは建前で。単純にあの人の顔に免疫のない二人が気絶しないか心配だったからである。

学園長にはうまいこと話をつけて、三人分のホリデー駄賃をもぎ取った。対価は大食堂の暖炉に住み着いている火の妖精に薪をくべること。妖精たちにはいつもお世話になっているし、断る理由はなかった。

今は私が持参したノートパソコンで通販サイトを見ている。グリムはよだれがタレそうな勢いで画面にかぶりつき、ユウは目がキラキラと輝いている。見ていて楽しいなこいつら。

「じゃあ年越しに届くように指定して、…これで、よし!」
ターンッ!と勢いよくエンターキーを叩いて、注文を完了した。
「あ!受注完了メッセージきました!」
「じゃあ大丈夫だね」

ピロリンとユウのスマホに通知が届く。学園長は、休暇中何かあればとユウにスマホを与えた。本当は私の通販用アカウントを使おうとしたが、マジカメアカウントで登録すると少し安くなるキャンペーンがあり、ユウに登録してもらった。私のガラケーではマジカメを見ることすらできない。パソコンでもやらない。

「ご馳走!ご馳走!楽しみなんだゾー!!」
グリムは談話室のソファを飛び跳ね、ゴーストたちと戯れている。
「元気だな」
グリムの楽しそうな様子を見ていると、のんきにホリデーのことを考えられていることを安堵する。

「...追い出されなくて、よかった」

気をつけているつもりだった。
私のユニーク魔法は便利だが、使用すると自身にかけた魔法薬の効果もなくなる。魔力増強薬を飲んで使用したときなんかは、懐に入れていた魔法薬そのものが、ただの水になっていた。だから普段は使わないようにしているし、多用したあとは誰にも会わないようにして、魔法薬を改めて吹き付けている。

...あのときは、完全に頭からすっぽ抜けていた。レオナ・キングスカラーやラギーたちがいるのをわかっていたはずなのに。

『ねぇ、僕を、みて……ロックウェールさん…!』

あの、黒い涙を流すアズールが、忘れられない。いつもの自信に溢れた表情からは想像もつかなかった、辛そうで、悲しそうで、寂しそうな、かお。無我夢中に飛び込んで、考えのまとまらないまま魔法を突き刺して...目を覚ましたアズールに安堵した。わずか一年生で、寮長として分不相応な私を引きずりおろすネタを持ってきた、大変優秀なうちの寮長。無事で良かったと、それしか考えられなかった。

結果的には、黙っていてくれるという協力者が出来たのでよかったが、私の魔法のせいでユウやグリムも追い出されることになってしまう。それにこれからは私たちの秘密を知る協力者たちにも迷惑がかかってしまうだろう。今まではこの子達の所為で、と思っていたが、私もよりいっそう気をつけなければいけない。

そう、

『絶対僕に相談してください!』
『『あぁー心配です/だなぁー』』

私を心配しているんだか、からかっているんだかわからないあの小生意気な後輩たちに、私がしっかりしているというところを見せつけなければ。





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