海寮 | ナノ



XVI



「幽霊野郎!お前は下がれ!」
「!」
「あいつの狙いはお前だ!関係ねえ奴らの避難誘導でもしてこい!!」
「っ!わかりました!ユウ!一年たち!手伝ってくれ!」
「「「「はい!」」」」

一年生を引き連れて、倒れている者、怪我をしている者、それぞれを寮内へ押し込める。

「副寮長!これは!!」
「総員怪我人の手当てを。あと治癒魔法の使える上級生を談話室に集めてくれ。事情は後で説明する」
「かしこまりました!」
「下級生たちは上級生の指示に従い、絶対に外には出ないこと!」
「「「はい!副寮長!!」」」
「私は現場に戻る!」

大体の指示は飛ばせた。
急いでアーシェングロットのもとに戻るが、状況は変わっておらず、むしろ悪くなっていた。

「こいつ、魔力強えぇな!?」
「しかも手当たり次第逃げ遅れたやつの魔法吸ってるから魔法の種類が豊富っス!!」
「まずいですね、このままではアズールの魔力が尽きてしまう」
「その前にこっちの魔力が尽きちまうよ!」

四人はいたるところに傷を作っている。

だめだ、このままでは。


「あぁ...どこにいらっしゃるんですか...、
 取引、しましょうよ、
 僕と、
 取引を…
 ねぇ、僕を、みて……ロックウェールさん…!」


その時、黒いヘドロが、
なみだのように、
アーシェングロットの頬を伝った。

「!!!」

…あいつを、助けないと、

あいつは、私を呼んでいる...!


「…私が、いきます、!」

「「「「 !! 」」」」

マジカルペンに魔力を通し、私が一番使いやすい形状に変化させる。アーシェングロットのものとよく似た、先端に魔法石をはめ込んだシンプルなステッキ。寮長時代に模索した、私が一番魔力を行使しやすい形状だ。

「リーチ援護しろ!私があいつを正気に戻す!!」
「! かしこまりました、副寮長!」
「あははっ!おっけー!!珊瑚ちゃん!」

四人の前に躍り出て、自身の魔力を一気に練り上げる。



「『世界に変化を望むなら、』


 『自分自身が変化そのものとなれ…』」



練った魔力を、開放するッ!!



「『今この瞬間に感謝せよアプレシエト・ザ・モーメント』!!!」



ステッキをカツンッ!と床に打ち付け、魔力の波が広がった。

私たちを襲うはずだった魔法たちは全て消え去り、霧散する。


「はあ!?え!消えたんスけど!?」

「もうあいつの魔法は届かない。
 …今だ!たたみかけろ!」

「あははは!やっちゃおうぜぇジェイド!」
「えぇフロイド!」

フロイド主体の二人の魔法が、アーシェングロットに炸裂した。

「ゲホッ…!な、なんで僕の魔法が、どうして!どうしてだよお!!!」

「魔法が発現しなくて焦っていますね」
「足での直接攻撃うぜー」
「このまま押し切ります。僕に任せてもらえますかフロイド」
「いいよぉ、ジェイド!」

今度はジェイドの方に魔力が集まり、そして開放する。
アーシェングロットは防御魔法を繰り出そうとするが、なにも出ない。

「またアズールくんの魔法が!」
「…確信に変わったが、あいつのユニーク魔法は『魔法の無効化』だな」
「はああ!?なんスかそのチート魔法!!ハッ!じゃあもしかしてこの間のマジフト大会の時、俺のユニーク魔法が消えたのは…!?」
「十中八九、こいつのせいだろうな」
「えええええええ!!!!」

外野がうるさい。
集中しろ。
双子の魔法は消さず、アーシェングロットのもののみ消し去るんだ。

「っ!!」

二人を越えてきたアーシェングロットの足が、私をうつ。頬が切れた。

他にも二人に向いていない、消しきれなかった無差別の魔法が私の体に傷をつけていく。

「でもなんか、消し切れてなくないっスか…?」
「…あいつの魔力が少ないんだ。アズールの魔法全て消し去るなんて芸当、あいつにはできなんだよ」
「ええ!!このままじゃジリ貧っスよ!」
「…おい!リタ!!」

「!」

「あいつの後ろにいるあの化け物!あれは負のエネルギーとブロットが合わさった化身だって言われてる。あれをなんとかしろ!!」

「あれが…、わかりました」

もう一度カツンと床を鳴らし、アーシェングロットの魔法を再度打ち消す。

そして、駆け出した。


「リーチ!」

「「!」」

「私を、アーシェングロットの元まで、連れていってくれ!」

「「はい/はぁい!」」

双子はにっこり笑い、ジェイドとフロイドはお互いに逆方向に駆け出した。

「いきますよ、ロックウェールさん」
「ああ!」

私に向かって走ってきたジェイドに腕を伸ばすと、彼は私の腕をとり、私が駆けてきた勢いのまま、思いっきりぶん投げた。

...私を。

「えええ!!!」
「舌を噛まないように!あと着地する時は利き足を前に!ですよ!」

「あは!オーライオーライ!」

着地点らしきところに、フロイドがいた。

...そうだ、着地は利き足、だったっけ。
体を回転させて、利き足を、前に…。

フロイドが体の前に組んだ手に、私の足が乗る。

「アズールのこと、よろしくね?」

そして一気に、上へと、放り投げた。


今度は、体勢を崩さなかった。
目標はばっちり、アーシェングロットの真上、後ろの化け物の目の前へ。


「…ウチの寮長を、返してもらうぞ!」


持ってるステッキに練り上げた魔力をねじ込んで、


「『今この瞬間に感謝せよアプレシエト・ザ・モーメント』!!!」


化け物の脳天に突き刺した。



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