XV
途中小脇に抱えるスタイルから、走りにくいと、背負うスタイルに変えられて、我がオクタヴィネルの寮内へ行けば、そこには虚な目をしたアーシェングロットが一般学生から無差別に魔法を吸い取っていた。
「アズール!!貴方なにをしているんです!」
「うわ、なにこれ、どーなってんの!?」
「なんだ、これ」
ジェイド・リーチを先頭にしたユウたちも同時に到着した。
「ジェイド、フロイド、ああ、やっと戻ってきてくれたんですね?」
アーシェングロットはとろけるような目でリーチたちを見つめる。
「そこのバカどものせいで、
僕の契約書が全てなくなってしまったんです。
…だから、あなたたちの力も僕にください。
ねえ!!僕にくださいよぉお!!!!」
「お待ちなさい!貴方のユニーク魔法は強力すぎる故に、契約書なしでは制御できないはず…そんなことをすればどうなるか、自分が一番よくわかっているでしょう!!」
「だって、なくなっちゃったんですよ、全部……、あはは、あはははは!!!このままじゃ!昔の僕に戻ってしまう!!!」
「あのさー今のアズールって、昔のアズールよりずっとダサいんだけど!」
「…あぁー、そうですか。どうせ僕は一人じゃなにも出来ない、グズでノロマなタコ野郎ですよ」
アーシェングロットの体から、じんわりと魔力が滲み出す。
「だから、もっとマシな僕になるために、みんなの力を奪ってやるんです」
…このままじゃ、まずい。
「美しい歌声も、強力な魔法も!全部!僕のものだぁ!!」
体の芯からゾワゾワと嫌な感じが広がっていく。
「寄越しなさい!!全てを!!!」
アーシェングロットから魔力の波が広がった。近くにいた学生が飲まれていく。
しかも、彼の体から魔力とは別の、黒い、ヘドロのようなものが滲み出した。
「ユニーク魔法の使い過ぎです。ブロットが蓄積許容量を超えている!!このままでは…!」
「…これが!オーバーブロットか…!」
「あは、あーはっはっははー!!!!」
一番大きな魔力の波とともに、アーシェングロットの体から滲み出た黒いヘドロが、彼の体を包んだ。
そして、黒い八本の足に、顔には黒い模様…左目に、紫の炎を灯した姿になった。
「ふなっ!あいつ、足がタコになったんだゾ!」
「あれが、アスールの海の中での姿です」
「あの後ろのなに!?俺でも絞められないほどデカいんだけど!!」
「負のエネルギーが集まってできた何か、って授業では言ってたな」
「珊瑚ちゃん冷静!」
事態が急変し過ぎてずっと背負われたままだったので、リーチにおろしてもらうと、アーシェングロットと目があった。
「あぁ、ロックウェールさんっ!」
とても、優しい目だった。
「レオナさんから聞きましたよ?僕に勝つためにレオナさんと取引をされたとか。あぁ何故ですか?あなたにとってオンボロ寮やユウさんは赤の他人のはず。今まで他人と最低限の付き合いしかされてこなかったのに、どうしてユウさんにはそんなに親身になっているんですか?学園長のお願いだからなんですか?僕には同じコロンを絶対に渡さないと言っているのに、どうしてユウさんには渡すんですか?以前後輩には勉強を教わらないと言っておきながらユウさんと一緒にリドルさんから勉強を教えてもらっていたのは何故です?僕ではダメなんですか?僕がグズでノロマなタコ野郎だから?あぁ!ずうーっと寮にいて、僕の目の届くところにいて欲しいのに、どうして出ていってしまうんですか?僕の前から消えてしまうんですか?教えてください、答えてくださいよぉ!!!」
「っ!」
薄暗い、感情の波のようなものが、私を襲う。体に纏わりついて、不快だ。
「おいてめえ!やっぱり執着されてんじゃねえか!」
「アズールくんこじらせ過ぎっス!」
「ロックウェールさん、下がってください」
「ちょーと、やばいかも」
「あぁ、ジェイド、フロイド、
どうしてあの人を隠すんですか。
そこを、どいて。
どきなさいよぉ!!!」
「来ます!」
「まずはアズールを正気に戻すことが最優先だ!!」
アーシェングロットの長い足と、魔法による強襲が始まった。
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