XIII
「で、早速お願いがあるんですが」
「あ?もうかよ」
明日の作戦会議をし、本日は解散となった。
が、私はこのままでは帰れない。
「ブッチ、ちょっと鏡舎の様子見てきてくれないか。こっそり」
「え?鏡舎?いいっスけど…」
全員で鏡舎へ続く鏡に行って、ブッチだけが鏡をくぐる。
しばらくして、顔を真っ青にしたブッチが鏡から顔を覗かせた。
「なんスかアレ!!フロイドくんが今にも人を殺しそうな顔で突っ立ってるんスけど!?」
「あぁ、やっぱり」
「こっわ!寮服と相まってめちゃくちゃ怖え!」
「そ、そんなに怖いんだゾ…?」
「ユウくんとグリムくんも見るといいっスよ。夜眠れねぇっスから!」
二人は怖いもの見たさで鏡をくぐり、そして顔面蒼白で戻ってきた。ガタガタ震えている。
「で、お前はサバナクローから出てくるところをあいつに見られたくない訳だな?」
「はい。あなた方と私が繋がっていると確証されると明日の作戦に支障をきたしますので」
「てことだ、ラギー。行って来い」
「えぇ!!あの状態のフロイドくんにユニーク魔法仕掛けるんスか!?」
「別にユニーク魔法だけでやれなんて言ってないだろ。お喋りしてこい」
「無理!余計無理っス!」
「サバナクローから出たら、すぐに鏡舎の入り口から入り直して代わるから、頼むよブッチ」
か、貸し二つ目っスよー!と若干涙目になりながらも、ブッチは引き受けてくれた。
全員でサバナクローの鏡から出て、小部屋から大広間に少しだけ顔を出す。フロイド・リーチは鏡舎の入り口を物凄い形相で睨みつけていた。
「ひぃ、怖いんだゾ」
「いいっスか、話しかけて、いけそうだったら上向くんで、タイミング逃さないでくださいよ」
「あぁ、わかった」
ブッチは意を決したように、さも今来ましたと言う感じで飛び出していった。
「あれ?フロイドくんじゃないっスか。こんな夜更にどうしたんスか?」
「…コバンザメちゃんじゃん。そっちこそこんな夜になんでいんの」
「俺はレオナさんが、夜食ーって言うから今から食材取りに食堂へ。人使い荒いっスよね」
「ふーん」
「で、フロイドくんは?」
「…人待ち。戻ってきたらぜってぇ絞めてやる」
「へ、へぇー…」
「だ、大丈夫なんですかリタさん戻って!」
「絞められるんだゾ!」
「…大丈夫だよ。帰らないと寝れないし」
「まあそうだな。もうウチにこいつ泊める場所はねえ」
「そ、そうだフロイドくん。鏡舎の天井に面白い模様があるって知ってる?」
「はぁ?もよう?」
「そう、なんか三つの丸が重なってる模様があるんだって、見つけるといいことがあるかもっスよー」
「はあーーきょうみねぇーーー」
「そう言わずに、ほら、一緒に」
ーーー『
愚者の行進』
「あぁ??」
きた。
彼らはゆっくりと顔を上に向けた。
「ほら!あれっスかね」
「暗くてなんも見えねーんだけど」
抜き足差し足忍び足。なるべく早く駆け抜けて、鏡舎から出た。
「あぁー!!やっぱり食堂の天井だったかも!ごめんフロイドくん!」
「は?無駄に首使っただけかよ。意味わかんね、絞めてい?」
「ちょ!絞められるのは勘弁っス!」
あ、やばい。早く行かないと。
...なんて言おう。
「…かくれんぼは、私の勝ちのようだな」
「…珊瑚ちゃん」
リーチは掴んでいたブッチの胸ぐらを離し、鏡舎の入り口にいる私を睨みつけた。ブッチはひぃいいとサバナクローの小部屋に引っ込んだ。おい、夜食の嘘はどうした。食堂に行け。
「こんな時間までどこにいたの」
入り口から寮の鏡に向かって歩いていくと、リーチが私の行手を阻んだ。エグい身長差で私を見下ろす。
「お前がかくれんぼって言ったんだろ。隠れてたんだ」
「アズールには見つけてくるまで帰ってくるなって言われるし、ジェイドには鼻赤いの笑われるし」
「あぁ随分いい音でぶつかってたもんなぁ」
「あぁー、むかつくから絞めていい?」
「断る。かくれんぼで私に勝ってからするんだな」
「…ちぇ」
「うそ、あの身長差で見下ろされてなんで怖くないっスか」
「俺様だったらちびるんだゾ…」
「リタさん大丈夫かな…」
「……大丈夫だろ。俺は戻るぞ」
「ほら、帰るぞ、私の就寝時間はとっくに過ぎている」
「じゃあさっさと帰ってくればよかったじゃん。俺も珊瑚ちゃんのせいでも帰れなかったんだけど」
「お前たちが勝手に始めたんだろ。そんなの知るか。アーシェングロットにでも怒るんだな」
「…珊瑚ちゃんがアズールと喧嘩しなきゃいいだけじゃん」
「あいつが吹っかけてきたんだろ」
キリがないので、横を通り過ぎようとすると、ぐでぇーとリーチがのしかかってきた。
「お、おもい…!」
「疲れたから運んでー」
頭に顎、肩に伸ばした腕、全身力を抜いてのしかかってくる。
「じ、自分で、歩け…!!」
「えぇー、だっていつもは俺が珊瑚ちゃん運んでんじゃん。交代」
「頼んでない!」
ギャーギャー口論しながら寮に入った。
「すげえわ、あの人」
そんなブッチの声が鏡舎に響いた。
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