海寮 | ナノ



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翌日。
下手すると双子の監視があるかと思ったが、特になく、一日が過ぎた。

「レオナ・キングスカラーの部屋に居候してる…?同室はやめろとあれだけ言ったのにどうしてそうなった…しかもよりによってキングスカラーの部屋…」
「話の、流れで…」
「すんません、リタ先輩。ウチの空き部屋は物置になっちまってて、」

ユウたちと昼食を取りながら、今後の予定を聞いた。キングスカラーにそそのかされたとはいえ、確かに一度アトランティカ記念博物館に行かないことには始まらない。…例え結果がわかっていても、彼らにはわからせないといけないから、あえて止めなかった。

お飾りとはいえ、オクタヴィネルの副寮長である私が、大っぴらに寮長と対立すると寮内に要らぬ混乱を招く。あまり表立って動けないので、珊瑚の海にはあの子たちだけで行ってもらうことにした。

「ユウ、これ」
私は鞄から今日急いで作った錠剤型の魔法薬を渡した。
「海の中ではいつものは効かないから、これを飲むように」
「はい」
小声で要点をぼかして伝える。エースたちは雑談に夢中だ。

初めて錠剤型にするのが不安でクルーウェル先生に調薬を見ていただいたものだが、試しが出来ていない。一応goodは頂いたので多分大丈夫だろう。

「飴か?俺様も欲しいんだゾ!!」
「めざといな」

まったく関係無いただの飴をあげた。







「なんで人魚だって教えてくれなかったんスか!!」
「リタのバカー!!ほんとに怖かったんだゾ!!」

その日の夜。
今からサバナクローまできて欲しいとジャックに電話で言われ、ついていた見張りに注意しながらコソコソ行けば、開口一番、ジャックとグリムにそう怒鳴られた。

「…口頭で伝えたって、実際目の当たりにしないと海では人魚に勝てないってわからない頭が多いからだよ。ジャックとユウ以外の話な」
「ぐっ…否定できねえ…!」
「あぁ…」
「ふなぁー!!!」

静まりかえったサバナクローの談話室には、レオナ・キングスカラーとラギー・ブッチもいた。

「…珍しいやつが来たな」
「うわぁ、ロックウェールさんがウチの寮内にいるとか、変な感じっスね」
「こいつらはお前のとこのタコ野郎と契約中なのに、一緒にいていいのか?幽霊野郎」
「…個人的に寮長と喧嘩をしていましてね、この子たちに勝ってもらった方が都合がいいんですよ」

担保に取られたコロンの話とか余計なことは言わずに、宣戦布告のようなものは確かにしたので適当に言う。

「へぇ、こいつはいいな。お前とあのタコが対立してんのか。このバカどもの勝率もほんの少しばかり上がるな」
「できればご内密にお願いします。うちの寮生に悟られると面倒ですので」
「は、気が向いたらな」


サバナクローの談話室での作戦会議は思いの外はかどった。

「俺なら契約書の方をどうにかする。ちょうどここにあのタコの副寮長もいることだしな」
「でもあの契約書は無敵なんだゾ…」
「どうなんだ、幽霊野郎」

話を振られ、少し考える。

「私は『黄金の契約書イッツ・ア・ディール』で契約したことないから、詳しいことはわからないけれど…。反抗した寮生があの金の契約書に魔法を弾かれているところは見たことがある」
「ほら!やっぱり無敵なんだゾ!」
「どんな魔法にだって弱点はある。どれほど優秀な魔法士だって、魔法は無限に使えない。だからあいつの『黄金の契約書イッツ・ア・ディール』がずっと無敵であり続けることなんて、それこそ”絶対に”あり得ないんだよ」
「…海で人魚に挑むより、契約書の弱点を暴くことの方が、勝算は高い…ってことか」
「こっちには情報源もいることだしなぁ。おら、早くあのタコの弱点吐け」
「…知りませんよ。お飾りの副寮長なんですから」
「元は寮長だっただろうが」
「ものすごい短期間なの知ってますでしょう」
「役に立たねぇな、なんでもいいからあのタコが契約書持ってる時のことを話せ」
「うっ、うーん…」

キングスカラーに言われ、なんとか捻り出そうと頑張り、有益かもわからない情報をポロポロとこぼす。

「…あの契約書はモストロラウンジのVIPルームの金庫に仕舞われてて、対象の契約者が来ると取り出している。…金の契約書が魔法を弾いているように見えたが、今思えば、近くにフロイド・リーチがいたからあいつのユニーク魔法で弾いているのかもしれない。でも契約違反者は術者に絶対服従だから、そもそもイソギンチャクの魔法は無効化されているのかも。だったらイソギンチャクじゃない人たちなら、契約書は破ける…のか?」
「…お前のユニーク魔法はどうだったんだ」
「私のユニーク魔法は試していませんが、そもそもあいつと本気で対立したいわけでは、ない、か、ら……っ!!!」

考えごとに集中しすぎで口が軽くなった。
顔をあげれば、キングスカラーがニヤニヤとしている。

「お前のユニーク魔法は?」
「…言うわけないじゃないですか」
「まあ察しはついてるけどな」
「……胸に秘めていてください」

とりあえず今日は契約書を破く方法へシフトチェンジすることで解散となった。






一方その頃、オクタヴィネル寮談話室。

「…なんですって?ユウさんがレオナさんと?」
「はい。どうやら契約者はサバナクローに転がり込んだようです」
「なるほど。それは…少しばかり予想外の展開だ」
「それと、あの方の部屋がもぬけの殻でした」
「…見張りをつけておいたはずですが?」
「撒かれていました。見事に。いつもの無自覚ではなく、意識して隠れていらっしゃいます」
「…ユウさんとレオナさんだけなら放って置くのですが、我が副寮長がそこと繋がっていると厄介です。フロイド」
「はぁい」
「明日からロックウェールさんに付いていてください」
「あははは、珊瑚ちゃんと本気のかくれんぼ楽しみぃ!!!」
「ジェイドは引き続きユウさんたちの監視を頼みましたよ」
「はい」




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