VII
「......」
今夜はユウがアーシェングロットに会う日。
オクタヴィネルの部屋にいても落ち着かなくて、オンボロ寮であの子たちの帰りを待っていた。
嫌な予感がする。アーシェングロットは一体何をしようとしているんだ?あの子は魔法も使えない、ただの普通な子なのに。今回イソギンチャクたちはかなり多い。ユウに関係する誰かも勝手に掛かるとふんでいたのか、はたまた偶然か。こんなことならグリムもひっ捕まえて勉強会に参加させておくんだった。
あぁ…やっぱり私もラウンジについて行った方がよかっただろうか。一緒に行ったら、なおのことどういう関係なんだと問い詰められそうで辞退したんだが…。私はともかくユウの口が滑りそう。
しばらくして、玄関が開く音がした。
「おや、ロックウェール副寮長、こんなオンボロ屋敷にいらっしゃるなんて」
「あれ珊瑚ちゃん。いつもならもう部屋に引きこもってる時間だよねぇ」
「り、リタさん、」
「リター!!!」
ここにいるはずのない人魚二人が、二人と一緒に帰ってきた。
「…なんでここにいる」
「ユウさんがアズールと契約なさったんです。このオンボロ寮とあるものを担保に、イソギンチャクたちの自由をかけて」
「!!!」
すぐさまユウを見ると、申し訳なさそうに小さくなっている。
「だから小エビちゃんとアザラシちゃんにはここを出て行ってもらうんだ。でも荷造りする時間くらいはあげようと思って」
「ここが正式にアズールのものになったら私物は全て廃棄しますので、そのおつもりで」
あぁそれと、とつなげて、ジェイド・リーチはユウの私物から、私の魔法薬を取り上げた。
「こちらも、お預かりしますね」
「!?」
思わず手が伸び、奴の腕を掴む。
「こちらも担保の一つなんですよ、副寮長」
「なっ」
「そうそう、珊瑚ちゃんが小エビちゃんにあげたコロンね」
頭が、沸騰しそうだった。
「アーシェングロットは私のコロンを持っているだろ!なんでユウからッ!!」
「さぁ僕たちには想像もつきません」
「珊瑚ちゃんなに焦ってるの?」
リーチたちはニヤニヤと私を見下ろす。
私は舌打ちを一つして、それから、落ち着かせるようにふぅーーと長く息を吐き出した。
落ち着け。
奴らのペースに飲まれるな。
考えろ。
今こいつらに、この魔法薬は絶対に渡せない…!
「...これは私のものだ。この子に預けているものを今日、取りにきた」
「それはそれは」
「へぇー...」
「だから、これは渡せない。これは”私がユウにあげたコロン”ではなく”私の私物のコロン”だからだ」
私より幾分高いところにある奴らの顔を睨みつけて、魔法薬を奪い取る。
「かしこまりました。しかしユウさんが条件を達成できなかった場合は、もちろんいただきますよ」
「…あぁ、」
「小エビちゃんにあげてる”本当”のコロンね」
「!!」
私は思わず目を見開いた。
「あなたもよくご存知でしょうが、アズールはとても優秀ですから」
「詳しくはアズールから直接聞いてね?」
「…っ」
私は奴らを睨むことしかできなかった。
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