海寮 | ナノ



VI



そして、午後9時。

「イソギンチャクたちを解放したい、ですか。ふふふ。しかし僕と取引をしたくても、あなたには魔法も、美しい声も、そして、一国の後継ぎというわけでも、ない。225人のイソギンチャクたちを解放するその担保、それは相当のものじゃないと」

VIPルームに通されて、アズール先輩は冷たい目でそう言う。

「たとえば、あなたの管理するオンボロ寮の使用権、とか」
「! てめーら!最初からそれが狙いで!!!」
「それともう一つ。これは僕から持ちかけた取引ではありませんからね、もう一つ、担保にかけてもらいます」
「...なんですか」

「あなたがロックウェールさんから頂いているというコロン、それもつけてください」

「っ!!」
「は?コロン?ユウ、リタ先輩からそんなもの貰ってるのか?」

ジャックはきょとんとしているが、アズール先輩は冷たく笑う。

「僕としてはこんな取引はしたくありません。なんせ225人もの貴重な労働力です。お引き取りくださってかまいませんよ」

「っ、」
コロンは、だめだ。私とリタさんがここにいるために必要なもの。私だけじゃなくてリタさんにまで迷惑がかかる。

『この魔法薬は他人の認識とか、注意とかを逸らしてくれるもの』
『手品とかってタネを知っていると、気にして見ちゃうだろう?それと一緒さ。だから効かないんだよ』

成分を調べられたら、効果がわかってしまう...!しかも相手は過去100年分のテストを集計して虎の巻を作ってしまうような人...絶対に、渡せない。

「...おいユウ、なんだかよくわかんねえが大事なもんなんだろ。あの人も言ってただろ、一旦引き上げるぞ」
『その場で契約せずに、必ず持ち帰って検討しますと言うこと。いいね』

そうだ、相談しよう。他にきっと方法があるーー

「今日は、帰り、
「その取引、乗ったーーーー!!」

私の声は全身泡だらけのグリムの声に阻まれてしまった。

「だめだよ!この話は一旦持ち帰って、」
「ふふ、ユウさん、唯一の寮生がこう言っていますよ?それと僕としては本来であれば受けなくていい取引を受けようとしているんです。今日お帰りになるのであれば、この話は、なかったことに」
「!!」
「くっそ!考える余地なしかよ!!」

グリムはフロイド先輩につままれ、涙目でこちらを見ている。

「と、取引の、内容を教えてください」

...あぁ、リタさん、ごめんなさい。




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