II
「お願いリタくん!!一緒に勉強会しよっ!!」
「絶対にやだ」
今日も一日の授業が終わった。帰り支度をしていると、ダイヤモンドからそんなふざけたお誘いが来た。即座に断った。
「リタくん占星術苦手なんでしょ?オレ得意だから教えてあげられるよ!代わりに魔法薬学教えてほしい!!」
「冗談じゃない。魔法薬学ならクローバーに聞け。サイエンス部のあいつの方が得意だ」
「トレイくんはダメなんだって!」
「なにがダメなんだ」
喚くダイヤモンドを置いて席をたつが、うるさくついて来る。無視を決め込み廊下を進んでいると、前からクローバーと険しい顔のローズハートがやってきた。
「ケイト!往来の廊下で騒がしくするんて、一体何をしているんだい?!」
「げ、リドルくん」
「やあ、ロックウェール。ケイトがすまないな」
「ちょうどよかった、クローバー。ダイヤモンドは魔法薬学が苦手だそうだ。見てやってくれ」
「え、そうなのかケイト」
「ちょ!リタくん今それ言っちゃ、!」
「ケイト、それはどういうことだい?君は先日、苦手なのは実践魔法だけだと言ったじゃないかッ!!!」
「ち、ちが!赤点やばいのは本当に実践魔法だけ!魔法薬学は少しだけわかんないとこがあるだけだって!!」
「他寮生に迷惑をかける前に、この僕に相談することだね!」
「だ、だってリタくん占星術苦手っぽいから、それだったらオレ教えられるし、Win-Winかなって!」
「お断りだ。占星術の実技が苦手なだけで、筆記はなんとかなる」
「えぇー!!!」
魔力を行使して色々行う実技は苦手な科目は多いが、それをまとめて筆記テストに落とし込んでいるものはなんとかなっている。まあ得意科目なわけではないが。
「...ロックウェール先輩は、占星術が苦手なんですか?」
「え、あぁ、まあ得意科目ではないな」
「ふむ…」
ローズハートは少し悩んだあと、私に向き直った。
「では、これから僕たちと勉強しませんか?」
「え」
「おいおいリドル、」
「まじで!?」
「ロックウェール先輩にはお世話になっていますし、占星術だったら三年の範囲も前倒しで勉強しているので、力になれると思います」
「リドルくんすげー!!」
「まぁリドルがそういうならそうなんだろうけど、はは、すごいなうちの寮長は」
「え、いや、いい」
「えぇー!!!」
「はは、」
「どうしてでしょうか?」
「勉強は一人でやった方が効率がいいし、他寮に借りを作るわけにはいかない」
「そこは僕も同意します。ですが、苦手科目はそうもいかない。勤勉な先輩は復習をよくされると思いますが、理解できていない部分を覚えるのは大変ではないですか?術の基本をきちんと理解するための補足の説明があれば、勉強の効率は上がります」
「うっ」
「おぉ、リドルくんが優勢だ」
「あぁ、ロックウェールがたじろいでるな」
「借りについですが、先日の先輩の怪我の件では僕が先輩に借りがあります」
「いや、あの件はあのあとパーティーに招待してもらったし、もうチャラだ」
大会後、ハーツラビュルのなんでもない日のパーティーに何故か招待された。招待状を寮長直々に手渡しされたため、出るしかなかったそのパーティーは、怪我の償いと言われたものだ。私の中ではもう済んでいる。というか初めから貸しとも思っていない。
「僕の気が晴れません」
意外と引かないローズハートは、少し首を傾げ、同じくらいの背である私に対して、少しだけ上目遣いになった。
「僕のわがままに、付き合って頂けませんか?」
「うっ」
善意から来るこの瞳に弱い。いつも胡散臭くて小生意気な奴らしか相手にしてないし、しかも奴らは無駄に馬鹿デカイ。うわ、瞳がキラキラと輝いているようにすら見える。
「…わ、わかったよ、」
「うわ!リドルくんの押し勝ちだ!!」
「もしかしてあいつ、年下に弱いのか?」
「では15分後、図書室でお待ちしてます。いくよ、トレイ、ケイト」
「あぁ」
「はーい」
「...どうしてこうなった」
仕方がないので、オンボロ寮にいたユウを連れて勉強会に参加した。
開始30分もしない内に、私はローズハートの優秀さに心底驚いた。彼が優秀なことは知っていたが、まさか、これほどだなんて。三年の範囲なのに、少しお待ちくださいと教科書や参考書を読んで、10分やそこらで答えてくれる。私の探し方が悪かったのだろうかと肩を落とすが、クローバーがあいつがすごいんだと慰めてくれた。そしてスイッとそらされた目線を追えば、ダイヤモンドがローズハートの作った分厚い対策ノートを必死に睨み付けている。確かに私はあそこまでではない。
ユウはというと、ローズハートが一年の頃に作成したまとめノート(200ページある)をクローバーが厳選し、更に私が同郷にわかりやすいよう難しい単語の意味を注釈した特製ノートで勉強中だ。これはわかりやすい。
自分より頭のいい人達との勉強会は、大変捗るということがわかった。ローズハートには教えさせるばかりで申し訳ないが、毎回満点の彼に死角はないそうだ。そんなこと、一度で良いから言ってみたい。よければまた明日も、とのお誘いを受けたので、私はもちろん、ユウも私だけよりローズハートやクローバーがいた方が良いだろうと思い、こちらからもお願いした。
「なにかお礼をしないとな」
「はい」
「テストが終わったらなにか考えよう。私たちお金ないからささやかになっちゃうだろうけど」
「はい!低コストでなにが喜んでもらえるか、考えます!」
「そういえば、今日グリムはどうしたの?」
「それがエース達と遊んでるみたいで」
「...まあ、いいけど」
そして、数日後期末テストが始まった。
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