海寮 | ナノ



I



オクタヴィネル寮は、八割の人魚と残り二割の人間で構成されている。寮内での種族間の仲はそれなりに良好だが、寮全体の結束はそれほど強くない。自己責任がモットーのこの寮は、前寮長の恐怖による支配や、アーシェングロットの契約による支配など、寮長達のカリスマで成り立っている。…私?私の時は前寮長の威光でなんとかなっていた。

そんなオクタヴィネル寮だが、年に数回、寮生達が自主的に一致団結し、寮をあげて盛り上がるイベントがある。

そう、期末テストだ。

大変聡明で大の勉強家だと伝えられている海の魔女。魂の素質でこの寮に選ばれた寮生達は、彼女に強い憧れを持っており、テストで無様な点数をとることはそれすなわち、死を意味する。上位50名は学校側が掲示板に名前を貼り出し褒め称えられるが、下位50名は寮独自の調査で晒し上げられ、入ってしまおうものなら寮生全員から吊し上げられる。

そう、この寮、馬鹿にとても厳しい寮なのである。

そして、そんな馬鹿に厳しい寮で副寮長なんていう大層な肩書を持ってしまっている私は、この時期、とても必死になっている。

寮長であるアーシェングロットは、ハーツラビュル寮寮長のローズハートと同率一位か僅差で次点。素晴らしい成績だ。
一方私といえば、上位50名に食い込めばいい方である。三年はシェーンハイトや、マレウス・ドラコニアが上位を飾っている。上位10名に食い込めるのが一番いいのだろうが、なかなかうまくいかない。あぁ、寮生の視線が痛い。直接言われたことはないが、私の成績に不満を持っている寮生も多いだろう。

だから。

「勉強を教えてもらえませんか…?」

申し訳なさそうにそう言ったユウに、快諾できなかったのも許してほしい。

「え、っと」

そうだよね。ついこないだ常識外れのこの世界に飛ばされたばかりだし、いつも事件に巻き込まれていれば、勉強で分からないところなんて山ほどあるよね。

「その、」

人に教えている余裕なんてない。自分のことで精一杯だ。しかも今回はアーシェングロットも活発に商売していると寮内で有名だし、本当に限界を超えて頑張らないと危ないかもしれない。

でも、

「ご、ごめんなさい!なんでもないです!リタさんお忙しいのに、魔法薬まで作ってもらってるのに、図々しくてすいません!やっぱり自分で頑張りますね!」

…お前だって助けてもらってたんじゃないか。

頑張ってみてどうしてもわからなかったところがあるんだろう?この子が不真面目な子じゃないことくらいわかってるじゃないか。だからいつも面倒ごとに巻き込まれているんだ。

私が受けた恩を思い出せ。そしてそれを与えるんだ。慈悲深い海の魔女の精神で!

「…いいよ、私でわかる範囲なら」
「! い、いいんですか!?」
「ただし、人と一緒に勉強するなんて本当は一番非効率的なんだ。勉強は自分との戦いなんだからね。私語厳禁で、聞きたいところだけ聞くように!」
「はいっ!」

大丈夫。日々の積み重ねは絶対に応えてくれるはず。人に勉強を教えることも勉強になるし。




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