海寮 | ナノ



IX



ついにこの日がきた。
ラギー・ブッチは己の感情が高揚するのがわかった。
アズールの作った魔力増幅薬を片手に、これから入場するディアソムニアの連中を見据える。そのすまし顔が崩れるこの瞬間を!!俺たちは待っていた!!

「さぁ!
 ヌーの群れみたいにみんなで走れ!!
愚者の行進ラフ・ウィズ・ミー』 !!!」

ユニーク魔法を発動させて、目の前の観客たちを一気に操る。

「な、なんだ、体が!!」
「きゃーー!!勝手に!!!」
「ど、どけどけー!!」

「へ、へへっ…アズール君の魔法薬スゲー!こんな人数を同時に操れるなんて!」

観客は一斉に駆け出し、ディアソムニアの方へ向かっていった。

「……でも、はぁ、さすがにきつい…っ、けど、ここでキメれば、俺たちは……!!!」




「『ーーーーーー』!!」
その時、一陣の風が吹いたような気がした。




「…え?」

ラギー目の前には、さっきまで駆け出していた観客たちが一斉に足を緩め、慣性で少し動き、やがて止まった様子が広がっていた。

「な、なんで…!?なんでオレの魔法が、!?」

「なんで、俺たち急に動いちまったんだ?」
「転ばなくてよかったわ!」
「もしかして学校側のそういう趣向だったのかな?」

観客たちは完全に止まり、大会のサプライズだと思い込んでいる。
しかも、

「な、なんでディアソムニアの奴らが消えてるんだ!!!」

入場していたディアソムニアの選手たちは、一人と服だけ残して消えてしまっていた。

「ラギー・ブッチ!...少し予定と違うが、先の選手候補連続傷害事件及び、伝統ある大会の運営妨害で、話を聞かせてもらうよ!!」
「り、リドルくん!?な、なんで、君がここに…!ディアソムニアの奴らは、!」
「あれはオレのユニーク魔法『舞い散る手札スプリットカード』 で増えて変装したオレくんたちでしたー!でもなーんか消えちゃったんだよねー」
「本当はもう少し泳がせる予定だったんだがな」

ハーツラビュル寮の寮長副寮長達が勢揃いでラギーと相対す。奥にはいつぞやの狸とレオナの尻尾を踏んだ奴もいた。これでは部が悪い、持ち前の逃げ足で逃げ出そうとするも、振り返った先にはいつの間にか現れた本物のディアソムニアの学生がラギーの退路を絶っていた。
「ち、ちくしょう…」
レオナに合わせる顔がない、ラギーはその場で崩れ落ち、リドルたちに確保された。




「ふふ、ふふふ、」
大会本部の端。アズール達はオペラグラスを片手に、ことの成り行きを見ていた。
「やはり僕の見立て通りでした!あの人に任せて大正解でしたね」
「あーあ、コバンザメちゃんが金魚ちゃんに捕まっちゃった」
「計画が破綻してしまったときの顔は、いつ見ても面白いですね」
「これからあのいつも余裕ぶっている獣人の顔が崩れると思うと、あぁ!最高の気分です!」
「ですが、これだけの魔法を使ってあの方は大丈夫なんでしょうか」
「…おそらくぶっ倒れていないにしろ、動けなくはなっているでしょうね」
先程の風…魔力の波は、微量だがアズール達の方まで届いていた。
「迎えに行きたいのはやまやまですが…」
「まさか、」
「えぇ、尾行させていた下級生達は見事に撒かれました。本人にその自覚はないでしょうけど」
「おやおや、困りましたね」
「フロイド、探してお連れしてください」
「はぁい。珊瑚ちゃん探し大好き」




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