海寮 | ナノ



VII



松葉杖も魔法で出してくれて、私は急いで学校へ続く鏡へ向かった。松葉杖って慣れないと脇の下が痛くなるのだけど、今はそんなこと言ってられない。なんとしても早く真相を掴んで、あの暴走巻き込まれコンビをこの件から手を引かせないと…。器用に松葉杖を使い、いいペースで鏡の前へ。

「…なにをしているんですか、あなたは」
「あ」

ビニール袋を片手にさげたアーシェングロットとエンカウントした。

「今日は自室療養のはずでしょう。なに外出しているんですか!」
「いや、ちょっと急ぎの用を思い出して、」
「急ぎ…?パンフレットの編集は終わったんですか?」
「いや、あれはあと、半分くらい、かな」
「…戻りますよ」
「待てアーシェングロット、すぐ戻るから、」
「…寮長命令です。ジェイド、フロイド、副寮長を部屋までお連れして下さい」
「え!?」
「はい」
「はぁーい」
「待ておまえらどっから出た!!」
連れ去られる宇宙人の如く、巨人二人に腕を掴まれ宙ぶらりんで運ばれた。




「......」
朝と同じ構図で昼食をとる。持ってきてくれたのは大食堂のサラダと購買部のパンだ。うん、十分おいしい、はずなのに、味がしない。
「ロックウェールさん、聞いていますか?」
「...聞いてるよ」
アーシェングロットはさっきから、私への説教を述べている。
「だいたいその足でどこに行くかと思えば、サバナクロー寮なんて...正気とは思えませんね」
「正面切って乗り込むわけないだろ...」
「彼らは縄張りに敏感なんです。その足ではすぐに見つかることくらい、あなたならわかりますよね」
「……」

確かに、気が急いでいた。いつもの私ならともかく、この松葉杖状態ではどうあがいても目立つ。図星を突かれると人は黙るしかないのだ。

「また外出をするというのであれば、監視をつけます」
「…出ないよ。頭が冷えた」

どうせこの足では何もできない。ユウ達も確かに気になるが、毎回毎回巻き込まれたりしないだろう。そう思うしかない。

「…仕事に集中する。夜までに完成させるから、データチェック一緒にしてくれ」
「わかりました。あぁ、夕食はラウンジでとりましょう。迎えに行きます」
「…夜はおまえ達忙しいだろ、適当にとるから気にしないでくれ」

ただでさえ怪我して迷惑をかけているのに、三食も貰うわけにはいかない。これ以上世話になりたくないからとそう言えば、三人は揃って顔を見合わせた。そして、にっこり笑った。

「では購買部か大食堂までお連れしましょう。ジェイド、フロイド頼みましたよ」
「かしこまりました。先程の方法ですと、力が二分されてよかったですね」
「あれ珊瑚ちゃんの尾びれが地面についてなくて面白かったね」
「………ラウンジでお願いします」

なんで私、こんなにこいつらにからかわれるのだろうか。







せっかく出してもらった松葉杖も没収されたので、外に出ることもなく大人しく仕事をした。自分の中で三度くらい見直して、簡易出力もして、写真、文字、レイアウトのチェックをする。多分大丈夫。これでダメおしのアーシェングロットに見てもらえば完璧だ。
時刻はもう夜更。集中していたからか、時間の経過に気づかなかった。
ラウンジまでの迎えを寄越すと言っていたが、来ないところをみると今夜のモストロラウンジは大盛況らしい。
「いくか、」
お腹は空いていないが、データチェックは早いほうがいい。
足の包帯を強めに巻き直し、部屋着を寮服に着替え、パソコンバックを肩にかけてラウンジへ向かった。

いつもより時間をかけてラウンジへ行けば、ちょうど配膳中だったリーチ達は私を見て固まり、白い目をむけてきた。

「うわー」
「迎えにいくと言いましたのに」

なにこいつ信じられないという顔でこいつらに見られるのは大変心外だ。フロイド・リーチは近くのホール要員に自分の配膳を押しつけて、私をヒョイと担いだ。
「お、おい!」
「俺珊瑚ちゃん運ぶわ」
「えぇ、お願いします」
米俵のように担がれ、リーチの肩が腹に食い込む。私がぐぇと呻いている間にホールを離れ、あっという間にVIPルームに連れてかれた。

ノックもなしに入ってきた私たちにアーシェングロットは目を見開き、私はソファに下ろされて、またもや説教が始まった。

「…早く見て欲しかったんだ」
「なら電話をすればいいじゃないですか、僕の連絡先知ってますでしょう」
「……」
「これで怪我が長引いたら、うちの寮の評判は一体どうなってしまうのやら」
「…わかったよ」

長引きそうだと判断し、早速簡易出力したパンフを渡した。変更点があれば赤入れをして欲しいと伝える。
受け取ったアーシェングロットの机の上には書類の小さな山が出来ていた。データチェックしてもらう間暇だから何かすることはないかと聞けば、アーシェングロットは「いえ何も、」と言った後にしばし考え、「ではこちらの提出済み選手リストをまとめて頂けますか?」と言った。

机の上のものと金庫の中のものを合わせて渡された書類を受け取り、ざっと中を見る。
提出されているのは、ポムフィオーレとイグニハイド、ディアソムニアだった。うちの選手は誰になるのだろう。リーチたちは入るだろうけど、他はパッと寮生が思いつかない。
持参したパソコンを立ち上げてから、もう一度書類をよく見れば、一枚だけフォーマットの違う紙が入っていた。

「…?」
契約書のコピーだった。
書き殴ったような字でレオナ・キングスカラーとサインされている。
内容は、
マジカルシフト大会の選手入場場所と時間変更について…
更に下には、薬品の生成...

「これはこれは、」
「!」
「僕としたことが契約書のコピーを過って別の書類と混ぜてしまうなんて。こちらは回収しますね」
アーシェングロットは胡散臭い笑顔でそう言い、ヒョイと契約書を取り上げた。...こいつ、
「...わざと見せたな」
「なんのことでしょう?」
「お前が大事な契約書を他の書類と混ぜるなんてミスはしない。しかもそれはコピーだ。普段コピーなんてとらないだろ」
アーシェングロットは小さく笑ったあとに、メガネを少し押しあげながら、これは僕の独り言なのですが、と切り出す。
「依頼された薬品は魔力増幅薬。効果は飲んだ対象者の魔力を30秒程瞬間的に高めるものです。何をなさるつもりなのかまではわかりませんね」
「......」

マジフト有力選手傷害事件の現場に必ずいたサバナクロー生に、このカレッジ内で最も胡散臭い契約書にサインしたレオナ・キングスカラー。しかも内容がマジフト大会について。まだ確証としては弱いが、依頼された魔力増幅薬は、大会ではドーピング行為となり失格となってしまうものである。試合で使用できないものを頼むというのは、やはり気になる。何か、する気だ。
アーシェングロットは機嫌よさそうに先程渡したパンフレットを見ている。

「...いいのか、守秘義務があるんだろう?」
「僕が過って混ぜてしまった書類をあなたが偶然見てしまっただけのこと...不可抗力ですよ。先程のも、僕の独り言です」
「......」
「本当は、犯人探しに燃えているハーツラビュルの皆さんに、と思っていたのですが、ふふ、あなたの方が面白いことになりそうだ」
アーシェングロットはものすごい悪役顔でそういった。
「…お前の性格が悪くてよかったよ」
「それは光栄です」




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